「BCP(事業継続計画)の作成は一刻の猶予もない」――。こう考える企業が増えている。地震などの災害に加えて、停電や電話不通といった社会インフラの障害、取引先からの要請など、事業継続を阻害する要因が急増しているからだ。そのBCPの策定で、IT部門が担う役割は大きい。たとえ全社的な取り組みになっていなくても、IT部門としてやっておくべきことがある。BCPを巡る最新動向を探った。

(市嶋 洋平、小原 忍)

圧力●災害だけじゃない
導入●IT部門が主役
支援●“見える化”を実現
BCM規格「BS25999-1」


【無料】サンプル版を差し上げます本記事は日経コンピュータ2月5日号からの抜粋です。そのため図や表が一部割愛されていることをあらかじめご了承ください。本「特集」の全文をお読みいただける【無料】サンプル版を差し上げます。お申込みはこちらでお受けしています。なお本号のご購入はバックナンバーをご利用ください。

 午前7時58分、突然の停電。UPS(無停電電源装置)が作動するも10分しか持たなかった。機器故障が原因で発電機が稼働しなかったが、8時25分に東京電力からの電力供給が再開。ところが過電流によってUPSが故障し、最終的に電源が回復したのは、停電から2時間近くたった9時40分だった。

 昨年8月14日の早朝、あるデータセンターでのトラブルである。発端は、作業船のクレーンが東京電力の送電線を損傷し、首都圏の広い範囲で停電が起きたこと。約140万世帯が被害を受けたほか、上記のようなデータセンターもトラブルに見舞われた。サーバー停止によって例年に比べて4億円の売り上げ減に陥った企業もあった。

図●企業を襲う事業継続のリスク。自然災害が増える一方で、IT や社会システムの大規模障害も増加している
 この停電は、あらためてシステムは外的要因でダウンすることがあり、それが事業の継続を危うくしかねないことを示した。停電から1カ月たった9月19~21日には、NTT東日本が提供するIP電話サービス「ひかり電話」で大規模な障害が発生。さらにその1カ月後に、NTT西日本の「ひかり電話」がつながりにくくなったことは記憶に新しい。

 日本企業を襲う事業中断リスクの原因は、多様化している()。2004年10月の新潟県中越地震や12年前の阪神淡路大震災といった地震、台風や集中豪雨といった自然災害の脅威は、当然ながら存在する。その上に昨年は、停電や電話不通といった社会インフラのダウンが相次いだのである。

 さらに、それらだけではない。

何も壊れていないのに操業停止

 今年1月13日の午後、北海道千島沖で発生した地震による津波への警戒を伝えるNHKの緊急特別番組に、「鳥インフルエンザの感染確認」という速報が飛び込んできた。宮崎県の養鶏場で鳥インフルエンザの発生が発覚したのである。

 この鳥インフルエンザやSARS(重症急性呼吸器症候群)といった感染症を、新たな脅威としてとらえる企業は多い。セイコーエプソンは昨年から始めたBCPの策定で、「プリンタの製造拠点が鳥インフルエンザで全面的に閉鎖になってしまうことは、長野の本社エリアを襲うことが想定されている震度6強の大地震と同レベルのリスクと考えている」(経営戦略室信頼経営推進部の榎本伸主事)。工場やシステムが全く壊れていなくても、人が入れなければ事業継続はできないということだ。

 製薬最大手ファイザーも「鳥インフルエンザのアジア地域での流行は確実とみて、BCPの策定時には重視している」(池田哲也セキュリティ・オフィス部長)。さらに都内にあるデータセンターの幹部は、「地震や雷、豪雨などへの備えは十分だが、鳥インフルエンザなどで地域が立ち入り禁止になった時の対策がまだ十分ではない。喫緊の課題だと認識している」と語る。

「BCPがないと取引しません」

 清水建設 総合企画部の山本亘副部長は、「2年前から外資系の企業がBCPの策定と実行を取引条件として挙げている」と証言する。セイコーエプソンには昨年末、海外の携帯電話メーカーから液晶や水晶部品に関するBCPについての質問が送られてきた。日本ヒューレット・パッカードや富士通なども同様な状況だという。

 デル日本法人は昨年から、取引先との契約に「BCPを策定してください」という文言を盛り込み始めた。「BCPを策定していないことを理由に取引を解除することはない」(情報セキュリティ運営統括室の山本直樹シニアマネージャー)が、10社前後の主要な取引先にはBCPのプランを見せてもらうことを依頼し、最重要の4社には年に1回のBCP訓練とレポートを要請している。ファイザーの池田部長は、「一定レベルの重要性があると判断した物やサービスについては、取引先にBCPの策定を要求している。ほとんどの取引先は応じてくれている」と語る。

 現在は外資系の企業が中心ではあるが、富士通 コンサルティング事業本部の伊藤毅プロセス改革事業推進室長は、「日本企業の間でもBCPの策定を要請するケースは着実に増えている」と明かす。東京海上日動リスクコンサルティング事業継続グループの近森健三グループリーダーも「特定のサプライチェーンに参加する企業が、企業規模に関係なくBCPを策定し始めている」と指摘する。

 実際、愛知県・小牧市に本社を構える社員約300人のダイセー倉庫運輸は、「自動車向けの樹脂を出荷する当社の事業が止まれば、部品メーカーひいては自動車メーカーに迷惑をかけてしまう」(経営管理本部の白村典文取締役)として、2005年にBCPの策定に乗り出した。


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