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大手百貨店が、激しさを増す市場競争に向けた危機感から、提携や経営統合に動き出した。その裏側には、競争力の源泉となる「マーチャンダイジング(MD)システム」の存在がある。常に改良が必要なMDシステムを共有することでIT投資負担を軽減したい思惑ものぞく。


本記事は日経コンピュータ 2007年4月16日号に掲載予定のレポートより、本文のみを抜き出したものです。そのため図や表が割愛されていることをご了承ください。

 この3月、大手百貨店による業務提携や経営統合の発表が相次いだ。口火を切ったのは大丸と松坂屋。3月14日に、両社で共同持ち株会社を設立し経営を統合することを発表した。

 続いて26日には、阪急百貨店と阪神百貨店が、2007年10月1日に阪急百貨店を完全親会社として経営統合することを正式に発表。翌27日には、伊勢丹と東急百貨店も、業務提携に向けた基本合意書を締結したと発表した。

 記者会見に臨んだ経営トップの口々には、百貨店業界の先行きに対する大きな危機感がにじむ(写真)。「東急グループの成長戦略としてリテール事業を強化する中で、行き詰まり感があった。主力の百貨店事業を強化する必要性を感じていた」(東急百貨店の親会社である東京急行電鉄の越村敏昭社長)、「業界内の競争は熾烈になる。競争力の強化に向けて、両社が持つ経営資源やノウハウを有効活用しようとすれば、経営統合が最善の選択だと判断した」(大丸の奥田務代表取締役会長兼最高経営責任者)。

MDシステム」が競争力を支える

 日本百貨店協会によると、百貨店の売上高は9年連続して減少し、06年は7兆7700億円だった。業界再編の動きが、さらに拡大する可能性は高い。

 各社とも、提携・統合による競争力強化のポイントとして、情報システムの共同利用や統合を挙げる(表)。中でも重要視されているのが、商品の企画や仕入れといった商品政策を決定するための「マーチャンダイジング(MD)システム」だ。

 MDシステムは商品マスターの管理から、商談、発注、仕入れ、在庫、販売の管理まで、百貨店の業務プロセス全般をカバーする。流通・小売業の情報システムに詳しいアクセンチュアの志俵克史マネジャーによれば、「MDシステムは百貨店にとって競争力の源泉。各社は常に、MDシステムを機能強化するために投資を続けている」という。

 再編劇には加わっていないものの、東武百貨店が9月に、約20年ぶりにシステムを全面刷新するのも、MDシステムのデータ分析精度や頻度の向上が狙い。メインフレーム・ベースからオープン・システムに移行することで、投資負担を軽減する。店舗作りで評価が高い伊勢丹は、日本NCRのデータ・ウエアハウス・システム「Teradata」を使って構築しているMDシステムを毎年のように改変しているとされる。

東急は伊勢丹のシステムを利用

 提携や統合を発表した百貨店の中で、情報システムの今後について明確な方針を打ち出しているのは、4月上旬時点で伊勢丹・東急連合だけ。大丸・松坂屋と阪急・阪神は、システムを統合する方針を打ち出してはいるものの、具体的な方式などについては確定していない。例えば大丸は、「システム統合に関する分科会を設置し、半年をかけて両社の意見をすり合わせる」考えだ。

 方針決定した伊勢丹・東急連合では、伊勢丹がデータセンターで運用しているMDシステムを、東急がASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)形式で利用する。伊勢丹のMDシステムはすでに岩田屋が共同利用している。この10月からは名鉄百貨店も同システムの共同利用を始める予定だ。

 東急は、伊勢丹のMDシステムや業務プロセスを取り込むことで、ファッション関連商品を中心に店舗の充実を図りたい考えだ。ノウハウを提供する側の伊勢丹にとっても、システムの共同利用にはメリットがある。直接の利点はシステム使用料による収入だ。伊勢丹の武藤信一社長は、「情報システムは、顧客の要望をいかに早く取り込んでいくか、つまりバージョンアップが重要だ。共同利用によって、機能拡張やバージョンアップのコストを抑えられる」と話す。

大丸、阪急のシステムが存続か?

 具体的な統合方式が未定の大丸・松坂屋連合については、大丸のMDシステムに統合させるとの見方が大勢を占める。

 大丸と松坂屋のMDシステムも、伊勢丹と同じ「Teradata」を使っている。ただ、稼働時期は松坂屋が2000年3月なのに対し、大丸は02年9月。稼働時期が新しい分、「大丸のMDシステムのほうが機能的に優れている」(流通業界に強いITベンダーのコンサルタント)とみられる。

 例えば、百貨店で一般的な仕入れ方式である「消化仕入れ」の管理単位が異なっているという。消化仕入れとは、店頭で実際に売れた分だけ買い取る仕入れ方式で、百貨店側の在庫リスクが小さくなる。この消化仕入れを大丸は単品単位で管理できている。だが松坂屋のシステムは、より大まかなくくりであるSKU(在庫補充単位)になっているもようだ。

 大丸と松坂屋の両社は、MDシステムだけでなく、顧客カードを基にしたCRM(顧客関係管理)システムや店舗のPOS(販売時点情報管理)システムなども統合する計画である。

 一方、阪急・阪神のケースでは、「単品管理機能に優れる阪急のMDシステムに、阪神が合わせるのが現実的」(流通業界関係者)とする見方が強まっている。MDシステム統合の目的としては、大阪・梅田地区にある本店の商品計画や仕入れの強化、ファッションと食料品のノウハウ共有などが挙がっている。

 しかし、当初は「ワイシャツなど比較的ベーシックな商品を対象に、システムの共同化や統合を図る可能性もある」(流通業界関係者)という。ファッションに強い阪急と、食品に強い阪神といった具合に、両社の得意分野や事業規模は大きく異なっているため、いずれかのシステムへの統合は難しいとする見方である。

業務プロセスの統合も進む

 システムの共通化や統合に向けては、いくつもの難仕事が待っている。最も難しいとされるのが、商品コードの共通化である。「商品コードは商品戦略の思想そのものであり、百貨店ごとに全く違う体系になっている」(アクセンチュアの志俵マネジャー)からだ。

 業務プロセスも変更しなければならない。各社のトップも、「情報システムを共同利用するということは、業務プロセスの変更が伴う。難度が高い取り組みだ」(伊勢丹の武藤社長)との認識は共通だ。

 MDシステムをどう利用していくかは、経営統合や提携の成果を大きく左右する。それだけに、システム統合の行方からは当面、目を離せない。

(玉置 亮太、福田 崇男、島田 優子)