3兆円市場を巡り、1000社以上がひしめく人材派遣業界。優秀な人材と求人情報を確保できるかどうかは、登録者と派遣先企業の顧客満足度(CS)で決まる。業界トップのスタッフサービスとテンプスタッフのIT戦略を比べると、バランスを取りながら2つのCSを向上させることの難しさがはっきりと分かってくる。

(目次 康男)


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 大手5社が激しいシェア争いを繰り広げる人材派遣業界。トップを走るのはスタッフサービス。それを老舗のテンプスタッフが追っている()。

図●人材派遣業界のシェアとトップ2社の売上高推移

 人材派遣業の場合、基幹システムは登録者の氏名や年齢、希望する職種や勤務地を管理する「人材系」と、派遣先の企業名や職種、時給などを管理する「求人・営業系」の2つのデータベース(DB)から成る。コーディネータは、これら2つのDBを検索しながら、人材と求人情報をマッチングし、派遣契約を結んでいく。

 両社のシステムは、構築時期こそ異なるものの、基本的な構成は変わらない。IT戦略が分かれるのは、システムの活用方法だ。派遣先企業の顧客満足度(CS)を重視するスタッフサービスは、会話履歴などの定性情報を管理したり、PDAから情報を登録・閲覧できるようにして、契約スピードを高めている。一方、登録者のCSを重視するテンプスタッフは、求人・営業系DBの検索性を高めたり、Webサイトによる情報公開を強化している。

人材系充実のスタッフサービス
依頼から2時間で人選完了

 「後発の当社が違いを出すには、スピードしかない」。スタッフサービスでCIO(最高情報責任者)を務める佐藤治夫取締役は強調する。同社は2000年6月に、依頼を受けてから2時間以内に派遣する人材を決める「2時間人選」サービスを開始。さらに01年10月には、派遣先企業の連絡を受けてから、25分以内に営業担当者が訪問する「Arrival 25」サービスを首都圏で始めた。いずれも、急いで人材を探している派遣先企業の満足度を高めるためだ。

 一般的には派遣依頼を受けてから人選を終えるまで、平均で半日、長いときには数日かかる。他社が追随できないスピードを支えているのが、01年から02年にかけて稼働させた人材系システム「NCS(New Coordinate System)」と求人・営業系システム「NCP(New Centry Project)」である。

会話履歴で心境の変化を察知

 「OAスキルを生かすのであれば、最寄り駅でこだわるよりも、調査会社のお仕事のほうがお勧めですが、どうでしょう?」。東京・大手町にあるスタッフサービスのコールセンターでは、コーディネータが電話越しに次々と、登録者との派遣契約を結んでいく。

 登録者と派遣先企業の希望が完全に一致するケースは少ないため、DBを検索するだけで即座に仕事を仲介できるわけではない。同社が2時間以内に人選できるポイントは、NCSに蓄積されている登録者とコーディネータとの会話履歴だ。コーディネータは会話履歴を素早く閲覧し、登録者の要望を見極めていくことで、条件に合致した人材を探し出す。

 「登録者の中で“この条件でしか仕事は受けない”と言う人は少ない。むしろ、コーディネータと会話を重ねていくと、徐々に就業条件が変わっていく」と、朽方達美 情報システム部ゼネラルマネージャーは指摘する。「無理矢理に定型データに落とし込むよりも、生の声をテキスト形式で記録したほうが、登録者の心境の変化や要望を察知しやすい」(同)。

テンプスタッフは情報を開示
条件検索などWebで可能に

 スピードで派遣先企業の満足度向上を優先してきたスタッフサービスに対し、テンプスタッフは登録者の満足度を高める戦略を強化している。「登録者の満足度が高まれば、仕事に積極的に取り組むため、結果的に派遣先企業も満足する」とテンプスタッフの情報戦略を担う水田正道常務は強調する。

 登録者のCSを重視した戦略の第1弾が、06年4月から始めた「キャリアサポート制度」だ。登録者の要望に応じて、コーディネータが求人情報を探し出す。「従来は派遣先企業のために、登録者を探す仕事が中心だった。派遣サービスの軸足が180度変わった」と、スタッフプランニング室の乾美由紀 室長は説明する。

 キャリアサポート制度の開始を機に、同社はコーディネータが使う人材系DBと求人・営業系DBを改良し、登録者の要望に沿って求人DBを検索できるようにした。コーディネータは登録者と面接をしながら、要望に合う仕事をDBから探し出す。「1人の登録者の仕事を探すために、6時間近く時間をかけることもある」(乾 室長)。

 同社の試みは、スタッフサービスの2時間人選と比べると、1契約当たりの生産性は明らかに落ちる。だが、「じっくりと相談して決めた仕事なので、契約期間中に仕事を辞めるリスクは小さい。景気回復で登録者が不足している現在、登録者の満足度を大切にするのが正しい選択だったことがはっきりしてきた」と水田常務は語る。


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