経営方針と同期して動くにはどうすべきか。こういった不安を感じるIT部門は少なくない。「聖域なき構造改革」を成し遂げた松下電器産業と日産自動車におけるIT部門の奮闘ぶり、野村証券やヤマト運輸、京セラなどの事例をベースに、経営とITを同期させるための新4カ条を提言する。

(大和田 尚孝、今井 俊之)

松下は「軽くて速い」を目指す
“吟味”に時間を割く日産
IT部門よ、うつむくな


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 ビジネスの足かせになっていないだろうか――。経営方針が大きく転換する時、こういった不安を感じるIT部門は少なくない。景気の回復が進む今が、まさにそうだ。現在、多くの企業は、コスト削減から売り上げ拡大に舵を切っている。IT部門は本来、経営の変化に同期してIT戦略を転換しなければならない。ところが、実際にそうできているか確信が持てない。

 その苦悩を映したデータがある。アクセンチュアが5月21日に発表した調査結果だ。「経営層とCIO(最高情報責任者)が緊密に連携していると思うか」との問いに、「イエス」と答えたIT部門は、日本では35%だけ。77%に達した米国の半分にも満たない。ビジネス部門からの評価をも大きく下回る。日本企業のIT部門は自信をなくしているのだ。

 経営判断と同期して動くにはどうすべきか。実は、「聖域なき構造改革」を断行するために、経営とITを一体化させた会社がある。松下電器産業と日産自動車だ。

 両社のIT部門は、構造改革をどう支えたのか。もう一段の成長を目指し、何をしようとしているのか。この特集では、松下と日産におけるIT部門の奮闘ぶりを通じて、経営判断に追随するポイントを探る。さらに、野村証券やヤマト運輸、京セラなどの事例をベースに、IT部門が閉そく感から抜け出すための新4カ条を提言する。

松下は「軽くて速い」を目指す

 今、松下のIT部門は全社システムでSOAを実現しようとしている。松下本社の情報企画グループでグループマネージャーを務める矢島孝應(たかお)理事は「SOAはまだ成熟していない技術だが、経営スピードに追随するシステム・インフラを整備するために、いち早くものにしたい」と意気込む。

 SOAの前段階として、松下はアプリケーション全体を3階層に分ける作業を全社的に進めている。プラズマテレビなどの「AVC」、携帯電話などの「移動通信」「半導体」といった合計14の事業部(ドメイン)すべてに共通する「グループ共通」システム、いくつかのドメインで共用できる「ドメイン共通」システム、それにドメイン特有の「ドメイン単独」システムだ。

図●松下は全社システムでSOA実現を進めている。アプリケーションを3層に分け、システム連携に「ESB」の導入を試行中だ
 これら3層のシステムを「ESB(エンタープライズ・サービス・バス)」で非同期連携させ、各ドメイン専用のシステムを用意しようというのが、松下のSOA戦略である()。各ドメインに必要なシステムを取捨選択して接続するだけで、IT部門はドメイン個別にシステムを作らずに済む。ドメインの独立性を保ちながらも、システム全体の重複を避けられるのだ。矢島理事は「すでに、ESBのミドルウエアを試行的に導入した」と打ち明ける。

ERPパッケージ3種をESBで接続

 矢島理事は「SOAの実現により、システムが経営スピードに追随する力も増す」と期待する。M&A(企業の合併・買収)や新規事業の展開の際に、システムを柔軟に対応できるからだ。

 松下は、ERP(統合基幹業務システム)パッケージだけみても、SAPジャパンの「R/3」、日本オラクルの「Oracle EBS」、富士通の「GLOVIA」と3種類の製品を併用している。1種類に統一すれば、ライセンス料金の削減効果や導入ノウハウの蓄積などが見込めるが、半導体、電子部品から電化製品、情報通信機器、住宅関連機器を世界規模で製造・販売する松下にとって、「パッケージの統一は非現実的」(矢島理事)。特定のパッケージに限定すると、M&Aや新事業への進出の際、システム対応が経営スピードをにぶらせるという判断だ。

 ただし、複数のERPパッケージをそれぞれ相互接続していたらシステム全体としては非効率だ。「既存のシステムを生かしながらシステム全体を有機的につなぐ手だてとしてSOAに目を付けた」(矢島理事)のだ。

グループ内SaaSで全体を統制

 松下がSOAの導入に踏み切ったきっかけの1つは、前述したシステムの3層化計画にある。2004年から進めてきたITアーキテクチャの全体最適化活動「CITA(コーポレートITアーキテクチャ)」によって、松下にとっての理想形が見えてきたのである。

 CITAは、社内分社した総勢1000人に及ぶIT部門「コーポレート情報システム社(CISC)」が中心となって推進中のプロジェクト。ITの集中管理によって、ドメイン間によるシステムの重複を避けるのと、機能追加や修正にかかる時間を短縮するのが狙いだ。CISCは、06年の丸1年を費やし、14ドメインや関係会社と協力しながら、すべてのドメインに共通する業務のくくり出しと、それらのあるべき姿を描く作業を進めてきた。

 最終的に、「購入先とのコラボレーション」「ドメイン間連携」「製販連携」「CSR(企業の社会的責任)対応」など、どのドメインにも欠かせない7つの業務領域で「6+1の統制モデル」を定義。それぞれの全社統制モデルについて、例えば製販連携なら「PSI共有型受発注」、CSR対応なら「部材含有化学物質管理」といったように、合計57の標準プロセスを確定した。

 CITAの特徴は、単にシステムを機能単位で分割するIT主導の取り組みでなく、業務プロセスの標準化を前提に進めてきた点にある。このため、「システムをサービスとして連携させるというSOAの考え方がピッタリはまった」(矢島理事)。

 松下のIT部門は07年度から、全社標準となった業務プロセスをシステムとして順次実装していく。57の標準プロセスのうち、19モデルは、すでに先行して稼働中だ。完成したシステムは、SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)として各ドメインに提供することで、IT部門が全社を統制する。システムの実装時に、各システムをESBに接続していけば、段階的にSOA化を進められる。


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