代理店型vs.直販型――。オフィス用品通販最大手のアスクルは、代理店が必要とするシステムをSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)として無償提供。3カ月単位で機能を強化する。「たのめーる」ブランドで追う大塚商会は、他社からの乗り換えを提案するために、直販部隊が使う顧客データ分析システムに磨きをかけている。

(目次 康男)


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 オフィス用品の通信販売市場で年率10%以上の成長を維持しているのが、業界トップのアスクルと「たのめーる」ブランドで追い上げる業界2位の大塚商会だ。両社の電話帳のような通販カタログを手に取ると分かるが、扱っている商品の種類や価格帯は非常によく似ている。しかし、代理店販売型のアスクルと直販型の大塚商会では、ビジネス・モデルが全く違うため、IT戦略も大きく異なる。

 アスクルは、営業支援など代理店が必要とするアプリケーションをSaaSとして無償提供することで、販売網全体で情報武装のレベルを上げようとしている。一方、大塚商会は基幹系システムの顧客分析機能を強化。提案営業で、顧客の“深掘り”を目指している。

20億円かけたSaaS、アスクルは無償提供

図●アスクルはパートナーと情報共有を強化
 アスクルは2002年5月から約4年半をかけて、「e-プラットフォーム」と総称するSaaSを開発した()。文具店や配送事業者は、同社と代理店契約を結べば、すぐに営業支援や配送管理、需要予測などの機能を備えるアプリケーションをネット経由で利用できる。しかも、ごく一部を除けば、利用料は「0円」。同社はe-プラットフォームの開発費用を明らかにはしないが、全体で約20億円とみられる。これほどのIT投資を負担してまで、無償でSaaSを提供するのは、成長のカギを代理店が握っているからだ。

 アスクルが顧客の開拓や代金回収を委ねる販売代理店「エージェント」は全国に約1500社ある。配送業者も基本的には中小・零細事業者が多く、顧客開拓や業務効率化のためのシステムを、自前で整備するのは難しい。「アスクルの競争力やサービスを高めるには、代理店各社が当社と同じ情報を、同じように活用できる共通基盤が不可欠」(池田和幸ビジネスシステム統括マネージャー)だったのだ。

 アスクルが、04年5月に稼働させた営業支援システム「シンクロエージェント」の場合、顧客リストや取引履歴を管理できる。これを使えば、注文が減っている顧客をリストアップし、営業担当者の訪問リストを作れる。

 06年4月に稼働した配送管理システム「シンクロカーゴ」は、アスクルの強みである「翌日」配送を徹底したり、配送業務の効率を向上させたりするアプリケーションだ。配送業者はドライバーごとの取り扱い個数や配送状況をリアルタイムに把握できる

 配送代理店であるプラスロジスティクスの梅澤康広Bizex部中央営業所長は、「配送遅延がほぼゼロになった」とシンクロカーゴの効果を証言する。従来は、勘と経験で配送担当者に業務を割り当てたり、各ドライバーからの電話連絡だけで配送状況を確認したりしていた。

たのめーるの機能はすべて基幹系に

 大塚商会の場合、たのめーるを支える情報システムを、自社の基幹系の中に作り込んでいる。通販用Webサイトを除けば、顧客管理や商品管理、受注管理などのシステムを、たのめーる専用に構築することはない。

 「当社の強みは、直販部隊によるワンストップ・サービスにある。ノートや鉛筆を売って“おしまい”ではない。顧客と深く長く向き合い、商談の幅を広げていくためのシステムが必要になる」と、大塚裕司社長は力説する。

大福帳で顧客を“深耕”

 06年末の段階で、たのめーるの顧客数は約50万。さらに、年間5万~6万のペースで増え続けている。この顧客を開拓し、つなぎとめているのが、国内約280拠点に散らばっている約3000人の営業担当者だ。

 営業担当者は、単純計算で1人当たり150~200社を受け持つ。だが、「やみ雲に顧客を訪問しても、そう簡単に契約は取れない。顧客ニーズに即した商材を、最適なタイミングで提案することが肝心」(たのめーる事業を統括する高橋俊泰常務)。効率的な営業活動を支える武器が、大塚商会が手掛ける事業全体の顧客や営業情報を一元管理する「SPR(Sales Process Re-engineering)システム」だ。

 「いわば大塚商会の大福帳」(大塚社長)という同システムには、顧客の口座番号や住所といった属性情報のほか、オフィス用品販売、OA機器の販売やサポート契約、ソフトウエアのライセンス販売といった取引履歴や、営業担当者の訪問履歴を管理している。

 SPRシステムは、一見すると“ゴチャゴチャ”のデータベース。だが、さまざまなデータが一緒だからこそ、他社からの乗り換え提案のタネを見つけることができる。

 例えば、「コピー機を販売した履歴が残っているのに、トナーの注文がない」ことは、他社からトナーを購入していることを意味する。この顧客には、営業担当者が積極的にアプローチし、他社からの乗り換えを促す。逆に「トナーを注文しているが、コピー機の受注履歴がない」ならば、たのめーるのカタログと一緒にコピー機のパンフレットを届けるなどして、OA機器販売の商談を持ちかける。

 このような営業活動ができるのも、オフィス用品通販だけでなく、OA機器販売など同社が手掛ける事業すべてのデータを、基幹系システムで一元管理しているからだ。「データを分析すれば、顧客の姿が手に取るように分かる。顧客分析に磨きをかけ、当社の取引割合を2割から3割、3割から4割へと引き上げる」と高橋常務は意気込む。


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