PR

“Excelレガシー”の継承が深刻な問題になりつつある。企業の業務部門がExcelで開発した業務システムは、肥大化・老朽化し、維持が困難になっている。仕事のミスを招くExcelレガシーは危険視され、Excel2007の出荷による新旧製品の互換性問題も発生する。難問を解けるのは情報システム部門だ。

(菅井 光浩)

危機の構図
解決の十箇条


【無料】サンプル版を差し上げます本記事は日経コンピュータ7月9日号からの抜粋です。そのため図や表が一部割愛されていることをあらかじめご了承ください。本「特集」の全文をお読みいただける【無料】サンプル版を差し上げます。お申込みはこちらでお受けしています。なお本号のご購入はバックナンバーをご利用ください。

 2007年後半に入り、“Excelレガシー”の継承が深刻な問題になりつつある。Excelレガシーとは、企業の業務部門がExcelを使って自ら開発し、利用を続けてきた「業務システム」を指す。Excelレガシーは、従来は手作業でこなしていた基幹業務に付いて回る「非定型業務」を処理するツールとして、現場で必須の存在になっている。あえて業務システムと呼ぶゆえんである。

 そのExcelレガシーは今、メンテナンスができない状態に陥りつつある。改良を重ねてきたため、肥大化・老朽化している上に、開発を担当した業務担当者が異動や退職でいなくなっていく。これは、情報システムの2007年問題と同一の構図である。

 しかも内部統制が注目され、ブラックボックスのExcelレガシーは大きな問題の一つと見なされるようになった。実際、Excelにまつわる業務のミスが現場で発生している。一連の問題があるなかでマイクロソフトは高機能をうたうExcel2007を出荷、利用企業は恒例のバージョンアップ問題に直面しつつある。

 これだけの難問を現場の業務部門だけで解くことは不可能であり、情報システム部門が真正面から立ち向かわなければならない。Excelは表計算ソフトにとどまらない、開発生産性の高い「システム基盤」である。Excelを基盤と位置付け、レガシーを継承し、基幹業務を定型・非定型を問わず支えるシステムを作り、維持する。こうした正攻法を貫くために、情報システム部門が実践すべき「十箇条」を紹介する。

収支予想が1億円ずれる

 「運用収支を予想するシミュレーションの計算結果が実際と1億円近くかい離してしまった。間違いに気付いたからよかったものの、このまま投資家に公開してしまったらどうなっていたか。背筋が寒くなり、自分が作ったExcelシステムを捨てようと決意した」。

 森ビル・インベストメントマネジメントの富山隆資産運用部長は、2006年10月に起こした、不動産投資物件の収支予測における計算間違いをこう振り返る。原因は、富山部長が作成した「Excelシステム」にあった。

 同社は、「森ヒルズリート投資法人」の投資信託業務を受託している。複数の投資家から募った資金を不動産に投資し、運用益を投資家に配当する業務である。

 富山氏が所属する資産運用部は、年初に立てた不動産の運用収支計画書と月次で収集する物件ごとの収支データおよび会計データを付き合わせ、運用益の予想額を計算し、投資家に毎月報告していた。

 運用益を試算するExcelシステムは、以前からExcelに慣れ親しんでいた富山部長が、関数やシートリンク機能などを組み合わせて開発したもの。同社には情報システム部門がない。そのため、富山部長が1カ月近くかけて自作した。富山部長以外の社員も利益予想や収支分析の業務に必ず利用している、立派な業務システムだった。

 ただし、操作がいささか複雑であり、計算間違いを起こしやすいシステムになっていた。2006年10月に起きたミスの原因はこうだ。管理対象の9つの不動産の収支データを、Excel上に展開した9枚のシート上に物件ごとに張り付け、シート間でセルのデータを連携させて運用益の合計額を求めていた。ところが、「他のシートから参照されているセルだと気が付かず、あるセル内の数値を消してしまったことで、他のシートに影響が及び、収支の予測結果が本来あるべき値と1億円近く異なる結果になった」(富山部長)。

Excelシステムの再構築を決意

図●Excelレガシーが引き起こす諸問題と解決策の例。不動産の資産運用を請け負う森ビル・インベストメントマネジメントは、利益予想などの業務に現場担当者が自作したExcelシステムを活用していた。しかし、「メンテナンスできる担当者が1人しかいない」「操作ミスで収支予測を誤る」といった問題に直面。2007 年7月、管理会計システムを再構築することで抱えていた諸問題を解決した
 計算を間違えた収支予測計算書は、物件別の収支を分析するために作成した内部資料であり、投資家には提出されなかった。このため、実際に何か損害が発生したわけではない。それでも富山部長は、「放置していたら同様のミスを繰り返しかねない」と考え、Excelシステムの再構築を決めた()。

 計算ミスのほかにも課題があったからだ。操作が簡単ではなく、Excelシステムを使いこなせる担当者が限られていた。保守作業も富山部長しかできなかった。富山部長が他部署に異動すれば、Excelシステムを誰もメンテナンスできなくなる。

 財務部の根本昌マネージャーはExcelシステムを使って収支予測のシミュレーションはできたものの、「複雑な税金計算や諸手続がExcelシステムにどう実装されていたのか、なかなか理解できなかった。メンテナンスまで引き継ぐのは到底無理だった」と語る。

 再構築を決めた両氏は、いくつかのデータ分析用ツールを比較検討した結果、「非定型の分析処理を柔軟に行える」(富山部長)点を評価し、BI(ビジネス・インテリジェンス)ツール「HyperionSystem 9 BI+ Essbase Analytics」(米ハイペリオン製)の導入を決めた。

 Essbase Analyticsを使って、分析用のデータベースを用意し、ここに物件別収支および会計データをCSVファイル経由で登録する。後はEssbaseAnalyticsが備えている分析機能を使ってシミュレーションをしたり、グラフを作成したりできる。データの張り付けや、シート間のデータ連携といった従来の操作は不要になった。

 Excelは、Essbase Analyticsのフロントエンド・ツールとして位置付け、利用を続けていく。「慣れ親しんでいるExcelのユーザー・インタフェースまで変えてしまうと、業務の生産性が落ちてしまう」(富山部長)ためだ。

 同社は07年1月から、Essbase Analyticsを使った新システムの基本設計を開始し、約2カ月後にテスト運用にこぎ着けた。現在、項目の並び順を最終調整中で、この7月中に使い始める。富山部長は、「Excelによる計算ミスは大きなインパクトだったが、システムを抜本的に見直す良い契機となった」と話す。

非定型の“基幹業務”を支える

 「我が社も同様の危ない状況にある。何らかの手を打たないと」──。森ビル・インベストメントマネジメントの事例を読み、危機感を募らせた読者は多いことだろう。とりわけ2007年に入って、“Excelレガシー”の継承は深刻な問題になりつつある。Excelレガシーとは、経理・財務や営業などの業務部門の担当者がExcelを使って自ら開発、利用してきた「業務システム」を指す。

 Excelの業務活用に詳しいシステムリサーチ&コンサルトの住中光夫代表取締役は、「情報システム部門が面倒をみている基幹業務システムの機能を補完するためにExcelシステムを活用している業務部門は非常に多い。Excelシステムがなければ基幹業務が回らなくなる」と指摘する。


続きは日経コンピュータ2007年7月9日号をお読み下さい。この号のご購入はバックナンバーをご利用ください。