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情報システムの良しあしは「見た目」で評価の大半が決まる。画面の見栄えや操作性、応答速度が劣るシステムは、利用者に使ってもらえない。三菱UFJフィナンシャル・グループやアスクルなどの事例を基に、Webの利点とクライアント/サーバーの使い勝手を兼ね備えたシステムを作る道筋を探った。

(玉置 亮太)

◆最新のシステムがIT部門の信頼失墜を招く
◆「見た目」重視のシステム作りに挑む企業
◆Ajax、Flash…ここまできたRIA技術


【無料】サンプル版を差し上げます 本記事は日経コンピュータ2月15日号からの抜粋です。そのため図や表が一部割愛されていることをあらかじめご了承ください。本「特集1」の全文をお読みいただける【無料】サンプル版を差し上げます。お申込みはこちらでお受けしています。 なお本号のご購入はバックナンバーをご利用ください。

 情報システムの良しあしは、「見た目」で評価の大半が決まってしまう―。本誌はあえて、こう提起する。ここで言う「見た目」とは、「立ち居振る舞い」と言い換えてもよい。画面の見栄えや操作のしやすさは言うに及ばず、スピーディな応答など、表からは“見えない”要素も含んでいる。

 利用者は冷徹だ。「見た目」の悪いシステムを、進んで使おうとはしない。いくら有用な機能や情報を提供できていても、使ってもらえないシステムは無価値だ。こんな当たり前のことに気付いていないIT部門は、意外に多い。

 その「見た目」が最も問題になるのが、Webシステムだ。セキュリティや運用コスト削減などの面から、システムのWeb化はIT部門にとって当然の選択。しかし利用部門からすると、単純にWebに置き換えたのでは、使い勝手が落ちるだけ。まして機能が同じままでは、なおさら不満がたまる。こうした課題から、旧来のクライアント/サーバー(C/S)システムをWebに移行できないまま、塩漬けにしてしまっているケースも少なくない。

 幸い、見た目に優れたシステムを作るための技術は、急速に充実している。Webの利点とC/Sの使い勝手を兼ね備え、利用者に好評なシステムを、容易に開発できるようになりつつあるのだ。

 利用部門の不満に気付き、本当に使いやすいシステムを追求するユーザー企業は、走り出している。WebかC/Sかという議論を超えたアプリケーション像を探る。

最新のシステムがIT部門の信頼失墜を招く

 ある食品メーカーで情報システム部長を務める杉原雄次郎(仮名)は、2月のある日、社長室に呼び出された。

「杉原君、こないだ稼働した営業分析システム、ありゃ何だね」。

 社長は営業分析システムの画面を指さしながら、ぼやき始めた。

 新しい営業分析システムは、経営幹部や営業担当者が販売チャネル別に、商品の販売実績を分析できるようにした、情報システム部にとっての自信作。工場の生産管理システムとも連携し、実績データを基に生産計画を調整できる。クライアントをWebブラウザに統一し、セキュリティ向上や運用コスト低減にも配慮した。

情報は豊富、なのに使いにくい

 杉原はこの1年間、新システムの開発に没頭。新商品の連続ヒットで勢いに乗り、大手の一角に食い込もうかという同社を、さらに飛躍させる基盤作りを担ったという自負もあった。稼働の日には社長自身からねぎらいの言葉をもらっただけに、浴びせられた不満の言葉に、ショックを隠せなかった。

「全く使えないよ、あれは。巨大な表を見せられても、何のことだかさっぱりだ。その表を出すにしても、何回ボタンをクリックさせる気だね」。

「グラフを作成する機能は、研修でもお知らせしましたが…。イントラネットでマニュアルも公開しています」。

「そんなの忘れてしまったし、いちいち調べていられないよ」。

 ひとしきり文句を聞かされて、杉原は社長室を後にした。そして次の日、社員食堂で聞いた若手同士の会話が追い討ちをかける。

「あの営業分析システム、ほんとに使えないよな」。

「そうそう。とにかく遅いし、どう操作したらいいのか分からないよ」。

「うちのIT部門、真面目に仕事してるのかね」―。

使いにくいWebがC/Sを塩漬けに

 この物語は、取材で得たエピソードを基に構成した。当たらずといえども、思い当たる節のある読者は多いのではないか。実際、「大規模投資で開発したはいいが、進んで使ってもらえなかったシステムは、残念ながらあった」(UFJISの千貫素成ITプロデュース部長)、「Webアプリはこういうものと説明しても、『とにかく使いにくい』という不満を、当たり前のように口にされた」(販促Tシャツ製造大手トムスの中山啓介 情報システム部マネージャー)といった声は少なくない。

 システムの「見た目」問題は、企業内に多く残るクライアント/サーバー(C/S)システムを塩漬けにしてしまう主因ともなる。セキュリティの向上や運用コストの削減圧力など、IT部門には課題が山積している。目の前の課題に取り組もうとすると、C/SからWebシステムへの移行は待ったなしだ。

 しかし単純にWebへ移行すれば、利用部門の不満が爆発しかねない。結果、Webへ移行したくてもできず、運用負担に耐えながらC/Sシステムを維持し続けるはめになっている。

 ところが最近、システムの「見た目」問題を解決する手段が、急速に充実してきた()。Ajaxなどを使い、操作性や応答速度をC/S並みに高めたWebアプリケーション、いわゆる「リッチクライアント」である。「RIA(リッチ・インターネット・アプリケーション)」とも呼ばれる。ここにきて「RIAの機能や開発生産性が、企業情報システムに使える水準にまで高まってきた」(野村総合研究所の田中達雄 情報技術本部技術調査部上級研究員)のだ。

図●AjaxやFlashは、企業情報システム開発の中核技術になりつつある
図●AjaxやFlashは、企業情報システム開発の中核技術になりつつある
マイクロソフトや他の技術も含め、RIA開発の選択肢は急速に充実してきた

「見た目」がIT部門の評価を高める

 実際、こうしたRIA技術を駆使して「見た目」に優れたシステムを開発すれば、IT部門の仕事に対する評価も高まる。その好例が、シャープの「経営コックピットシステム」だ。全世界で導入中の「R/3」で管理する販売実績や在庫情報などを一目で、分かりやすく示す。操作に応じて瞬時に画面が切り替わり、不要な情報を隠すなど、「見た目」に工夫を凝らした。

 シャープの町田勝彦会長は、07年11月に開催されたSAPジャパンのイベントで同システムを披露。「すべての情報を、リアルタイムに把握できる」と誇らしげにアピールした。町田会長はこのシステムを非常に気に入り、講演時間を予定よりも延長した。IT部門冥利に尽きる例といえるだろう。

「見た目」重視のシステム作りに挑む企業

三菱UFJフィナンシャル・グループのIT子会社、UFJISの千貫素成ITプロデュース部長は、この2年間をこう振り返る。「C/SベースのNotesを、機能面だけでなく表現力の面でもWebシステムでいかに代替するか。その調査に費やしてきた」。同社は現在、約1万本にも及ぶNotesアプリケーションのWeb化を進めている。単にクライアントをWebブラウザに変えるだけではない。AjaxなどのRIA技術を全面採用した「見た目」重視のWebアプリケーションへと、生まれ変わらせようとしているのだ。

待たされ感なしのWebシステム

 「見た目」を重視する理由について千貫部長は、「グループウエアは利用者が進んで使えるシステム、喜んで使えるシステムでなければいけない」と話す。このシステムにWeb特有の「待たされ感」はない。画面を構成するボタンやテキスト表示部分、カレンダーといったGUIは、すべてAjaxで開発。クリックすると、対応部分の表示だけが即座に切り替わる。表示項目の位置や表示/非表示の設定は、利用者が自由にカスタマイズ可能だ。

 同社はNotesアプリケーションを2~3年かけて段階的にAjaxで作り替え、このWebグループウエアに移植していく。すでに十数種類を移植済みだ。

「嫌々使われた」経験を教訓に

 Webらしからぬ操作感覚や画面の動きをする同システムに、まず若手の社員が興味を示して使い始めた。例えば、同社は大画面の液晶ディスプレイを複数連結させたテレビ会議システムを、独自に開発。ここでWebグループウエアを使い、部内の打ち合わせなどに利用している。ここでも軽快な使い勝手によって、利用者の評判は上々だ。「単なるWeb化では、こうはいかない」(千貫部長)。評判が呼び水になり、利用の輪が広がった。同システムには、利用者が業務上のアイデアや注目のニュースを投稿する機能がある。毎週50件あまりの投稿があり、当初は利用を渋っていた人のなかにも、今では常連の投稿者になった人がいるという。

 実は千貫部長には、開発したシステムが利用現場に不評で使ってもらえなかったという、苦い経験がある。「基幹系システムだったから、現場は否応なしに使わざるを得なかった。しかし嫌々ながら使われても、導入効果は上がらない」(同)。新グループウエアで「見た目」にこだわるのは、こうした経験を糧にしているわけだ。


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