PR

ベンダーから見積もりを取っても、その妥当性が分からない――IT部門が以前から抱える課題の1つだ。確かに、ITコストは変動要因が多いために相場がない、業界が未成熟、という面はある。それでも、見積もりの基準を提示する、第三者の客観的評価を利用するなど、主体的にITコストの妥当性を把握しようというユーザー企業が登場してきた。一方のベンダーも、新会計基準である工事進行基準に対応すべく、明朗会計に動き始めている。


(市嶋 洋平、小原 忍)

◆説明責任を問う
◆安かろう悪かろうを防ぐ
◆やる気が出る価格
◆明朗会計に動くベンダー

【無料】サンプル版を差し上げます 本記事は日経コンピュータ3月15日号からの抜粋です。そのため図や表が一部割愛されていることをあらかじめご了承ください。本「特集1」の全文をお読みいただける【無料】サンプル版を差し上げます。お申込みはこちらでお受けしています。 なお本号のご購入はバックナンバーをご利用ください。

 「5社から見積もりをとったところ、最も高いベンダーと低いベンダーの差は4億円近かった」。現在、基幹系の全面刷新を進めているハウステンボスでの話だ。今回の構築費用は本誌推定で10億円前後。それを中心に考えると1.5倍の差があったことになる。

 JTBでCIO(最高情報責任者)まで務め、今はシステム子会社であるJTB情報システムを率いる佐藤正史社長は、「あるシステムについて、“世間の相場がいくらか”は正直分からない」と吐露する。佐藤社長だけではない。今回、50社を超えるユーザー企業・ベンダーに取材をしたが、「企業情報システムの相場」を明確に答えられた企業はなかった。もちろんベンダーは見積もり手法を持っている。しかしそれは、相場ではない。

 これまで情報システムは、コスト変動要因が多すぎて相場が見えないと言われてきた。「○○システム」と言っても、企業によってやりたいことが大きく違う。メインフレーム全盛時に比べてオープン系システムは、構成するハードウエアやソフトウエアの選択肢が膨大だ。下請け比率によって開発人件費は数倍の差が出る。戦略的なシステムとなると、相場どころか、過去に比較できるものがない。その状況に大きな変化はない。

 一方で、以前とは様子が異なることもある。「コストに対する説明責任が重くなってきた」(東レ 情報システム部門の大森正明主幹)という点だ。ここ何年もIT投資を抑え込んできた企業が、基幹系の刷新など攻めに転じ始めた。その際、経営層やユーザー部門が最も重要視するのは効果だが、コストについても「単に安く」ではなく、妥当性の説明を求めているというのだ。ベンダーも「顧客との間で、見積もりの根拠を話し合うケースが増えた」(NECの安井潤司 執行役員)と、状況の変化を認める。

 そこで先進的なユーザー企業は、ITコストの妥当性把握に動き始めた。経営層などに説明するためだけではない。コストに関して、ベンダーとの不毛な“腹の探り合い”をやめ、より建設的な関係を築くことが目的だ。必要なところには金を払う。しかし、生産性向上などで、ベンダー側の努力をきちんと示してもらう。

 ベンダーも、こうした動きに呼応する。2009年4月以降に始まる事業年度で適用される会計基準、工事進行基準に対応するため、明朗会計にせざるを得ないという背景もある。売り上げの増加分で利用料が決まるといった、新たなコストの決め方も出てきた。

説明責任を問う

 技術者を「60種以上」設定し、その体系に沿って見積もらせる。「200件以上」の案件でFP(ファンクション・ポイント)を精査。「半年」かけベンダーと価格決めルールを策定――。

 そこまではやらないだろうと思うかもしれない。しかし、どれも実在する。「日本のベンダーはシステム・エンジニア(SE)やプログラマの人員の内訳もきちんと説明できない」(アイ・ティ・アールの広川智里取締役シニア・アナリスト)という状況を変えるべく、手を打ち始めたのだ。

 価格の妥当性を判断する“決定打”はない。そこで各社は、さまざまな方法を模索している。大きく分けると、“共通言語”を用意し提示する、合い見積もりを比較できるよう前提をそろえる、第三者の力を借りて“判断の眼”を持つ――だ。

 「人月単価の基準を示すことで、ベンダー側も変わってきた」。リコー IT/S本部の鈴木敏廣IT/S企画室室長は、SEやプログラマをランク付けし、標準単価をベンダーに逆提案する取り組みに手応えを感じている。

 同社は、「人月単価の種類はSEとプログラマの2段階と言われても、来る技術者の生産性には大きな差がある」ことに不満を募らせていた。そのため2005年から自社で基準を作り、ベンダーに逆提案している()。

図●リコーは自社の人月単価の相場を提示し、ベンダーと交渉している
図●リコーは自社の人月単価の相場を提示し、ベンダーと交渉している
案件の特性によって、パラメータで調整する

 SEは、上級・中級・初級、プログラマは言語によって3つなど、計9種類に分類した。これは、ITスキル標準(ITSS)をベースにしている。さらに、スキルを細かく評価する「調整用パラメータ」を7種類設定した。例えば特定のERP(統合基幹業務システム)パッケージで「希少スキルを保有している」、長年の付き合いで「リコーの業務に習熟している」といった点を考慮する。作業時間に関係ない「残業代込み」というパラメータもある。

 9種類の分類に調整用パラメータを掛けると、リコーが考える単価が出てくる。それぞれの数値は公表していないが、「各社の標準単価も参考にしながら決めた」(鈴木室長)という。

このFP数なら○人月が妥当では?

 リクルートは、生産性を活用する。生産性はFP法を利用して割り出す。

 FP法とは、ユーザーから見たデータの入出力や、アプリケーションの内部処理の複雑度でシステムの規模を測るもの。例えば、システム画面にある「表示窓」や「ボタン」といった要素の「ポイント」を積み重ねていく。リクルートでは要件定義終了時とカットオーバー時にFPを計測し、過去のデータを蓄積している。すでに200~300件のデータがたまった。

 「FPという数値と、過去のデータがあれば論理的にベンダーと交渉でき、納得感もある」と、FITセンター兼FIT企画室の田中悟フェデレーションオフィサーは語る。「この機能の開発は△人月です」に対して、FPの計算値を基に客観的に話し合えるというわけだ。田中氏は、「FPは万能ではない」とした上で、「現時点でコストを会話するための最適解であり欠かせないもの」とする。

 当然、人月当たりのFP数はベンダーによって異なる。つまり、ベンダーによって生産性が違う。この点でリクルートは、生産性によってベンダーを「SS」から「C」まで5段階にクラス分けしている。各ベンダーには、「次はAクラスを目指しましょう」などと、生産性向上も持ちかける。クラスが上がればコストも下がるはずだ。生産性向上策は、リクルートとベンダーが知恵を寄せ合って考える。

 田中氏が指摘するように、「FPは個人差が大きい」という声は少なくない。そこで、一般的なFPの計算法ではなく、ベンダーとの間で“自社流FP”を定めたユーザー企業がいる。セブン-イレブン・ジャパンだ。

 同社は現在稼働している第6次総合情報システムの開発プロジェクトにおいて、NEC、野村総合研究所(NRI)との間でコスト標準を決めた。具体的には、開発対象のシステムを「画面」「帳票」「DB/バッチ」の3つに分類。その難易度でポイント数を導き出す「生産性・見積もり基準」を定めた。5工程にわたり、非常に複雑のAから簡単のEまでの5段階でFPが決まっている。後は、別途取り決めたFP当たりの単価を掛ければコストがはじき出せる。

 生産性・見積もり基準は、2003年下期から04年上期まで議論して策定した。これだけ手間をかけても、コストの標準を決める価値は大きい。開発プロジェクト中でコストに関する協議の時間を省くことができるからだ。セブン&アイ・ホールディングスの佐藤政行執行役員システム企画部CVSシステム シニアオフィサーは、「重要なのは、ベンダーが妥当な利益を得られるようにすること」と指摘する。長期にわたる大規模プロジェクトでは、利益が出ないようだとベンダーにそっぽを向かれかねないからだ。


続きは日経コンピュータ3月15日号をお読み下さい。この号のご購入はバックナンバーをご利用ください。