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 2009年1月1日、日本IBMのトップが9年1カ月ぶりに交代した。大歳卓麻社長兼会長(60)は代表権のない会長に退き、代わって橋本孝之取締役専務執行役員(54)が社長に就いた。
 「日本の顧客のニーズにしっかり応えていきたい」。大納会も終わった2008年12月30日午後4時半から開かれた緊急会見で、新社長の橋本氏は顧客志向を繰り返し強調した。
 大歳時代の9 年間、最初の2 年間を除いて業績は低空飛行を続けた。2005年以降、米本社は主要ポストに幹部を送り込み、てこ入れを図った。だが、目立った成果は上がっていない。むしろ利益重視でグローバル標準のサービスを推進する戦略は国内顧客の不評を買った。
 直近2年間はコスト削減で利益こそ増えたが、売り上げはほとんど伸びていない。日本で増収増益につながる新しいビジネスモデルを確立できないままだ。
 スケールメリットを生かした均一サービスの提供を迫る米本社と、独自サービスを望む日本の顧客に挟まれて苦悩する日本IBM。その姿はほかの外資系はもちろん、IBMの背中を追い続けてきた国内大手も無関心ではいられない。
 成長が望めないIT市場で売り上げをどう伸ばすか。要求レベルが極端に高い日本の顧客を相手に、どう利益を確保するか。社長交代を機に、日の丸IT市場における日本IBMの挑戦を追う。


(大和田 尚孝)

◆営業を再びIBMの顔に
◆大歳時代の9年間を検証する
◆利益率アップに向けた四つの挑戦


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 「最近、お客様やパートナー企業からIBMの営業は内向きだと言われる。もっとお客様のところに出向く機会を増やさなければならない」。

 2008年も残り30時間強となった12月30日午後4時30分。急きょ開かれた交代会見で新社長の橋本孝之氏は営業強化が喫緊の課題との認識を示した。

 日本IBMの売上高は2000年代に入って減少傾向が続いた()。営業利益率が10%を超えるなど収益力は高い。だが、業界の先頭に立って新製品・サービスを投入し、日本企業のシステム化を先導したかつての勢いはない。

図●日本IBMの国内売上高と営業利益
図●日本IBMの国内売上高と営業利益

 なぜか。最大の理由は営業力の弱体化だ。ある有力OBは「顧客担当営業の縮小が間違いだった」と指摘する。

 日本IBMは2005年前後から、営業体制を大きく変えた。金融や製造、流通といった業種別の営業組織を縮小。トヨタ自動車、ホンダ、パナソニック(旧松下電器産業)、ソニー、三菱UFJフィナンシャル・グループといった、ごく少数の超大手を除いては、特定企業にべったり張り付く顧客担当営業を減らした。浮いた要員はハード・ソフト販売やインフラ提供、システム開発といったソリューション担当の営業に回した。

「ミスターIBMがいなくなった」

 営業体制を米本社と合わせる決断に基づき日本独自の体制と決別した。当時、複雑化するソリューションの全体像を顧客担当営業がつかむのは困難になりつつあった。個別ソリューションをよく理解した営業がそのときどきでチームを組み顧客への提案をまとめる「マトリックス組織」への移行をもくろんだ。

 結果は失敗と言わざるを得ない。顧客を取り巻く環境やニーズをよく知る担当営業が弱体化。顧客の課題を見つけられなくなった。「お客様のCIOや経営トップに顔が利く『ミスターIBM』がいなくなった」。前出の有力OBはこう嘆く。

 ある大手金融機関のシステム部門長は日本IBMの営業現場の混乱ぶりを次のように証言する。メインフレームの刷新計画を立てると、ハード担当、ソフト担当、アウトソーシング担当、コンサルティングなど様々な部門の営業が次々やってきたという。「プロジェクトの連絡体制はどうなっているのか、問題が起きたらまず誰に相談すべきか、全くわからなかった」。

 欧米流の営業スタイルをそのまま日本に持ち込んだことが混乱を招いた。欧米では千人規模のシステム要員を抱える企業は少なくない。こうした企業がITベンダーに求めるのは個別の製品やサービスの提供だけ。インテグレーションは顧客が自分でやるので、ベンダーがソリューション別の営業組織でも一向に構わない。

 だが一般に日本の顧客はメインベンダーにシステム全体のインテグレーションどころか、情報化戦略の策定まで期待する。特定顧客と距離を置くソリューション別の営業体制が馴染むはずはない。


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