オラクルによるサン・マイクロシステムズの買収、シスコのサーバー分野進出。新たな総合IT企業の相次ぐ誕生は、それぞれの強みある分野で覇権を握ったIT企業同士の水平分業という、業界秩序の崩壊を意味する。
今後、IT業界では様々なあつれきが生じ、さらなる再編もあり得るだろう。マルチベンダー体制を組めなくなるなど、利用企業にも様々な影響を与える。総合IT企業の“草分け”である国産コンピュータメーカーの動向も含め、IT業界で今起きていることを読み解く。
(玉置 亮太、木村 岳史)
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「サン買収を契機に、IBMの牙城を突き崩す」。米オラクルによる米サン・マイクロシステムズ買収の電撃発表、その余韻が覚めやらぬ5月7日、オラクルのラリー・エリソンCEO(最高経営責任者)はロイターの取材に対し、こう宣言した。IBMが狙ったサンの資産は、基幹系システムというIBMの牙城に攻め込むための強力な武器に変わった。「富士通とは協力していきたい」とエリソンCEOは語っており、今後は両社によるグローバルレベルでの対IBM包囲網の構築が進む可能性がある。
“オラサン”の話題とは別に、IT業界や利用企業の間では、米シスコシステムズとIBMを巡る話で持ちきりだ。シスコが3月、サーバー市場への参入を正式に発表したからだ。
ネットワーク機器を持たないIBMはこれまで、顧客に対してシスコ製品を直接販売するほか、チャネルを通じて販売してきた。しかし競合関係になった今、「IBMがシスコ製品を積極的に売ることはあり得ない」というのが業界関係者の大方の見立てだ。実際IBMは最近、シスコと競合するジュニパーネットワークスとの提携強化に乗り出している。
オラクルによるサン買収、そしてシスコのサーバー市場への参入は、新たな総合IT企業の誕生を意味する。同時にそれは、水平分業という業界秩序が崩れ、ビッグプレーヤー同士が全面対決する垂直統合の時代に再び入ったことを象徴する。当然IT業界に大きなひずみをもたらし、新たな再編の引き金を引くかもしれない。ソフトウエアのライセンス料の見直しなども不可避となり、利用企業にも大きな影響を及ぼす。
IT業界はいったい、どこへ行くのだろうか。

理想のビジネスモデルから決別
オラクルは今年夏をめどにサンを買収し、サーバーやストレージなどのハードウエアメーカーになる。シスコもサーバー分野に進出することで、ネットワーク機器のチャンピオン企業から総合ハードウエアメーカーへの第一歩を踏み出す。オラクルの場合、既にデータベースやミドルウエアだけでなく、ERP(統合基幹業務システム)などアプリケーション分野にも事業領域を広げているが、今回はハードウエア分野への進出だ。「これまで」とは次元が全く異なる。
「これまで」のIT業界では、OSやミドルウエア、ネットワーク機器など強みのある分野に経営資源を集中させ、他の分野を得意とするIT企業と協業する水平分業が成功の方程式だった。IBMや国産メーカーなどの例外はあれど、オラクルやシスコ、マイクロソフトといった“オープン時代の申し子”は、水平分業のメリットを最大限に生かすことで、得意とする分野でライバルに勝ち抜き覇権を確立した。
実は、米マイクロソフトも水平分業を捨てつつある。同社が事業化を進める「Windows Azure」などのクラウドサービスは、言い方を変えればアウトソーシングビジネスである。「パッケージソフトウエアの粗利益率が100%に近いが、サービス事業では収益予想は難しい」とスティーブ・バルマーCEOは話すが、あえて不得意分野への進出を図る。
こうした取り組みは彼らの立ち位置を、IBMやヒューレット・パッカード(HP)、それに富士通やNEC、日立製作所といった既存の総合IT企業に大きく近づける。
基幹系の領域侵犯を狙う
エリソンCEOが「IBMの牙城を突き崩す」と語っていることから明らかなように、オラクルのサン買収の狙いは基幹系システムでのIBMの顧客基盤に切り込むことだ。サンのハードウエアとSolaris、それにオラクルのデータベースやミドルウエア、ERPなどを組み合わせた“新たなメインフレーム”を用意し、IBMと真っ向勝負を挑む。
挑戦状を叩きつけられた形のIBMは、来るべきクラウドコンピューティングの時代でも、基幹系システムでの主導権を維持すべく、着々と手を打っている。そのキーワードが「プライベートクラウド」だ。
大手顧客が仮想化技術などを使って基幹系システムをクラウドコンピューティング環境に移行する際に、必要なすべての製品や技術を提供する。さらに希望する顧客には、自社のデータセンターによるアウトソーシングサービスを提供する。従来のIBMのビジネスモデルをクラウドコンピューティングに最適化しようとしているわけだ。
シスコが近く発売するブレードサーバーの「Unified Computing System」(UCS)も、データセンター向けのインフラ製品だ。さらにマイクロソフトのAzureは、顧客のWindowsベースのシステムと同等の環境を提供する予定で、基幹系システムもホスティングすることになる。昨年EDSを買収し、アウトソーシングなどITサービスでIBMを追い上げるHPも含め、水平分業の時代には想定できなかった領域侵犯が活発になりつつある。
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