情報化の意義を理解する経営トップが存在する。利用部門は「業務改革の有効な手段が情報化」とわかっている。経営層と利用部門の期待に応える情報化施策を、情報システム部門は徹底的に追求する――。 こうした理想的な体制の下、情報化を進めている企業が実在する。花王だ。 経営層、利用部門、情報システム部門がそれぞれの役割を果たし、「世界一体運営の実現」という経営戦略を実現するため、販売管理や生産管理、会計などの業務を支える国内の情報システムを全面刷新した。2007年10月から2009年3月にかけて取り組んだ「Blue Wolf(蒼き狼)」プロジェクトである。 プロジェクト名は、ユーラシア大陸に広大なモンゴル帝国を築き上げたチンギス・ハーンからとった。チンギス・ハーンは、狼煙(のろし)を使った迅速な情報伝達を強みに、一大帝国を治めていた。この姿を花王は目指した。 「日本のシステムだけが海外拠点と異なる状況ではまずい。国内のシステムを見直し、世界の情報をリアルタイムに共有できるようにしなければ、ブレークスルー(現状打破)は難しい」。花王の尾﨑元規社長はこう判断した。
(戸川 尚樹)
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「情報は商品と同じ価値を持つ」
尾﨑 元規 氏 代表取締役 社長執行役員

経営を強化するには、商品開発力と同様に、情報やそれを生み出す情報システムのレベルを高めていく必要がある――。花王はこうした考えの下、生産や販売といった業務を支える情報システムを世界で統一した。Blue Wolfプロジェクトが完了した今、システム部門に在籍したこともある尾﨑社長が、情報化の意義や狙いを語り尽くす。
情報は当社にとって、商品と同じぐらいの価値があります。商品が優れているだけでは、十分とはいえません。
正確なデータを日々、収集・分析できる体制を整えておかなければ、世界で勢力を拡大している欧米系のモダントレード(本誌注:仏カルフールや英テスコなど世界展開している大手小売業)の店舗の棚を取ることはできません。
アジア、欧米、日本の順に業務プロセスや業績指標などを標準化し、基幹系システムを統一したのは、経営強化にとって必要なことでした(図)。5~10年後に花王がグローバル競争で戦うために必要な戦略投資、先行投資という位置付けです。
仮に世界同時不況の後でも、日本の基幹系システムを刷新するという決断を変えることはなかったと思います。
システム再構築の投資額については、拠点ごとに投資対効果を見て決めました。システム導入の効果を測定することは難しい面がありますが、担当者にはなるべく数値化するよう言っています。
米プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)や英蘭ユニリーバなど海外の競合相手と伍していくため、アジア全域に「ABS(アジアン・ビジネス・シンクロナイゼーション)」と呼ぶ情報システムを2005年2月に全面稼働させた。すでにタイや香港、中国などアジア拠点すべての業務プロセスや情報システムを作り直し、アジア一体運営に取り組んでいます。ABSシステムにより、精度の高い業務データを日々、収集・分析できるようになり、アジアに出店しているモダントレードとの交渉力もぐっと上がりました。
現場の動きも良くなりました。現場の担当者は、自分が改善すべき業績指標(KPI)をわかっているので、業務改善スピードが速くなっています。改善目標を達成するなど、成果を上げた担当者やグループを表彰する制度もあります。
結果として、アジア市場のコンシューマ商品の売上高を2009年3月期決算で10%伸ばすことができました。これは確かに喜ばしいことですが、それより評価していることがありましてね。それはこの4年間でアジア拠点のマネジメントレベルが上がり、安定感が増したことです。マネジメントサイクルは従来の月次から週次になり、業績予測の的中率も向上しています。
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