AIGエジソン生命保険が、スマートフォンや音声認識ソフトといった新技術を積極的に採用している。「実績がないから」と敬遠するのではなく、国内初、業界初のメリットを重視し、業務改革に生かす。技術の採否は短期間のプロジェクトで検証。スモールスタートでリスクの低減を図っている。
(福田 崇男)

3年間新規の開発プロジェクトを凍結していたが、大きく方針を転換しシステム構築や業務改革に力を入れ始めた。スマートフォンや音声認識ソフト、シンクライアント専用機など、最新技術を取り入れていることが特徴だ。どれも、AIGエジソン生命が「Project Phoenix」と名付ける業務改革プロジェクトの一環である。
注目すべきはそのプロジェクトの進め方にある。企業情報システムで実績に乏しい技術であっても、“役立つ”と感じればすぐに試す。まずは小規模に導入してみて、投資対効果が見込めると判断したら大きく展開するという段階を踏む。実績ある技術や、経営層の判断で導入するシステムについては、当初から大きく予算を確保するなど、メリハリを付ける。
「国内初」の技術を開発、導入
2月に導入意向を表明した、音声認証システムも新技術を採用したプロジェクトの成果である。同社によればiPhone上で動作し声紋で個人を認証するソフトウエアを実用化したのは、国内初である。営業担当者が外出先から、社内にある契約情報管理システムやメールサーバーにアクセスする際に利用する。

iPhoneの画面をタッチし、今回開発したアプリケーションを起動する。数字4けたのパスワード認証に成功すると、音声認証画面が表示される。利用者はタッチパネル上のボタンを押しながら、表示される数字や事前登録済み単語を発声する(写真)。アプリケーションがその音声を解析し、本人であると判定したらポータルサイトの画面を表示する仕組みである。
音声入力機能も導入した。メールサーバーにアクセスした際のあて先アドレスの検索や本文テキストの入力に、音声が使用できる。
このアプリケーションを2010年12月までに、iPhoneを持つすべての営業社員が利用できるようにする。併せて、現在100台導入しているiPhoneの台数も大幅に増やす計画だ。
操作性とセキュリティを両立させた。従来は3回のパスワード認証に成功しなければサイトにアクセスできなかった。iPhoneのタッチパネルに表示される小さなソフトウエアキーボードでは、利用者への負担が大きかった。そこで音声認証技術の導入に挑戦した。二見通常務取締役 経営企画本部長兼 オペレーション本部・情報システム本部担当は、「他人を誤認証する可能性は100億分の3以下という検証結果が出ている。以前よりもセキュリティは強固になった」と話す。
実績なしでもひるまない
AIGエジソン生命は09年4月以降、新技術を取り入れた情報システムを次々と構築している。09年4月に保険業界としては初めて、コールセンター用システムに音声認識技術を導入した。オペレーターが話した内容をテキスト化して画面に表示。契約者に重要事項を伝えたか、禁止されているキーワードを使っていないかをアプリケーションが自動的にチェックする。
8月には営業社員向けにiPhoneを100台導入することを決定。さらに今回音声認証技術を導入した。
12月には、営業職員のPC4200台をシンクライアント化することを決めた。比較的新しいPCはハードディスクを無効にしてシンクライアント化する。旧型のPCは、独自開発のシンクライアント端末に入れ替える。
これらの多くはProject Phoenixの一つとして、情報システム部門の担当者がアイデアを出し導入に至った成果だ。企業の情報システムでは敬遠されがちな「国内初」「業界初」「独自開発」のものが少なくない。「もちろんリスクはある。ただそれを極力小さくするために、事前検証やビジネスケースの作成に力を入れている」。情報システム本部オープンシステム開発部の西原正隆部長はこう話す。
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