サーバー仮想化やクラウドコンピューティングが急速に企業に浸透している。こうした変化に合わせて、ソフトメーカー各社はOSやミドルウエアなどの料金体系を見直しつつある。ところがシステム基盤技術が進化するスピードはそれを上回る。ハードウエア、OS、アプリケーションサーバー、データベースなどを組み合わせて拡張性と費用対効果に優れたシステム基盤を構築するにあたって、最後に残った「パズルのピース」がソフトのライセンス問題だといえる。「仮想化・クラウド時代」を迎えた今、ソフトのライセンス体系が抱える現状の課題と、主要製品の料金体系および仮想化・クラウドへの対応状況を徹底検証する。
(白井 良)

「この夏にはミドルウエア製品のライセンス体系を一新しようと考えている」―。日立製作所でソフト製品のライセンスポリシーや価格設定を担当する清水泰雅ソフトウェア事業部企画本部計画部主任技師はこう明かす。サーバー仮想化の技術が登場して以来、ライセンス体系そのものは変えずに、状況に応じて料金計算の前提条件を調整してきたが、「システム基盤技術の進化との乖離が大きくなり、限界を迎えつつある」(同)。
サーバー仮想化の技術が登場する以前は、物理サーバー1台にソフト1本をインストールすることを前提としていた。OSやミドルウエアは、サーバーのプロセッサ数やコア数など、物理的なハードウエア資源の「量」を基に料金計算するのが一般的だった。
ところが、サーバー仮想化技術の登場でその前提が通用しなくなった。サーバー仮想化環境では、1台の物理サーバー上で複数の仮想マシンが動く。さらにプロセッサやコアなどのハードウエア資源を仮想化ソフトが覆い隠す。
このため、例えば仮想マシンに割り当てられている仮想的なプロセッサの数と、物理サーバーが搭載するプロセッサの数は必ずしも一致しない。仮想マシン貸しなどのクラウドサービスに至っては、利用者にはサーバーの物理構成が全く分からないことさえある。
料金体系の見直しを図る各社
今、商用ソフトのライセンス体系は激変のまっただ中にある。有力ソフトメーカーが相次いで、OSやミドルウエアのライセンス料金の算定基準を改定したり、新体系の追加に踏み切ったりしている。サーバー仮想化やクラウドコンピューティングといった技術を使ってシステム基盤を構築する企業にとって、最適なライセンス体系に変えるためである。
前述の日立はその1社だ。同社はこの夏にも、ミドルウエア製品を料金体系を、物理サーバーの「性能」を基にしたものに変更する予定だ。同一物理サーバー上では無制限に仮想マシンを起動できるようにして、サーバー集約によるコスト削減をしやすくする。現在は仮想マシンに割り当てる仮想コア数を基に料金計算している。
マイクロソフトは5月発売のデータベースソフトの最新版「SQL Server 2008 R2」で、サーバー仮想化環境での利用を想定した「Datacenter」という新たなエディションを追加した。このライセンスを1本購入すると、1台の物理サーバー上で稼働する複数の仮想マシンにSQL Serverを無制限にインストールできる。
NECや富士通もライセンスの改定を実施している。日本ヒューレット・パッカードは2009年12月から運用管理ソフトの料金体系を順次変更中だ。メーカーによって具体策は異なるが、「仮想化・クラウド時代に最適なライセンスに変える」という目標は共通する。
料金体系は4種類に分かれる
ソフトメーカー各社が模索する料金体系は、大きく4種類に分類できる(図)。インストール数に依存するもの(タイプI)、物理サーバーの性能に依存するもの(タイプP)、仮想マシンが利用するコンピュータ資源に依存するもの(タイプV)、アクセスするユーザー数に依存するもの(タイプA)だ。カッコ内のタイプ名は本誌が便宜的に付けた。
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