運用・保守コストを削減する努力は、これまでも続けてきた。もうこれ以上、減らせない――。リーマン・ショック以降、こうした常識を打ち破るようなコスト削減策を“発明”した企業が続々と現れている。 「雑巾が乾くことなどあり得ない」と考え、運用・保守費を数カ月単位でぎりぎり削るための組織体制を整える企業が出てきた。「外部のITベンダーに委託した方が安い」と信じていた業務を正社員に任せることで、運用・保守費を圧縮したところもある。このほか、保守契約を打ち切ったり、保守期間を延長させたりする手も有効であることが分かった。 常識を打ち破ろう。仮想化技術の導入や外部委託費用の引き下げ交渉といった定番の方法だけでは、運用・保守費の削減に限界がある。ユーザー企業20社への取材で判明した、最新のコスト削減策を紹介する。
(矢口 竜太郎)
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Part1 管理体制編
運用・保守費の予算を3カ月単位に年4回作る。しかも、前3カ月より予算額が増えてはならない。こんな管理体制で運用・保守費の削減に努める企業がある。支出状況の詳細を自動で算出する方法を確立した企業、保守費を予算比5分の1に抑えたところもある。
乾いた雑巾などない
「年間で5%の削減目標では手ぬるい。今から2年間で運用・保守コストを30%削減せよ」。2009年9月、石野普之IT/S企画センター副所長は自社の運用・保守要員にこう命じた。
同社は2009年4月に年5%を目標に運用・保守費を削減する方針を立てた。しかし、リーマン・ショック以降長引く不況を受けて、2009年9月にこの計画を変更。2011年3月までの残り1年半で、2007年度の実績値より30%運用・保守費を削減するように目標値を高く設定し直した。
既に2010年4月の時点で2007年度比16%削減しており、期限までの残り約1年間でさらに14ポイントの上乗せを狙う。
新規開発費ならばともかく、運用・保守費を1年半で30%削減するのは至難の業だ。企業によっては、30%削減するために10年かかることもある。
1年半で30%という削減目標を達成するには、これまでの延長線上の発想では無理。運用・保守費の管理の仕方を根本的に変える必要があった。石野副所長が意欲的な課題を掲げた真の目的はそこにある。
「運用・保守費は簡単には下がらない、という思い込みを払拭し、本気で運用・保守費の削減に取り組み始めた」(石野副所長)。プロジェクト名は「COREs」。コスト削減(COst REduction)に加え、コスト改革(COst REform)やコスト構造の転換(COst REstructuring)の意味を込めた。
予算策定を最低でも年2回に
リコーは運用・保守費を確実に減らすための体制作りに着手した。ポイントは四つある。
一つめは、年に1回実施していた予算策定を、少なくとも年2回に増やしたことである(図)。これにより、コスト削減サイクルを2分の1以下に短縮する。
二つめは、運用担当者に、コスト削減に関する責任と権限を与えたこと。コスト削減の責任と権限の所在を明らかにすることで、コスト削減につながる業務改善を現場に促す。
具体的には、「経理・人事」「販売・サービス」といったシステムごとの運用・保守リーダーが年に2回、各自が担当するシステムの運用・保守予算を策定する。リーダー自らが考えた業務改善の成果を折り込み、前回の予算金額よりも少ない予算案を申請する。予算策定のたびに運用・保守費を下げていく試みだ。
「リーダー全員が30%以上コストを削減させなければ、全社の目標を達成できないと言い聞かせている。その実現手段は、リーダー各自の創意工夫に任せる」(石野副所長)。
三つめが予算チェックの厳格化だ。リーダーが提出した予算案とそれを実現するための具体的なコスト削減策が有効に機能しそうかをIT/S本部長と石野副所長が精査。「工数を下げる努力をしているか」「サービスレベルを見直しているか」など九つの観点からチェックしている。
この際、石野副所長は、リーダーごとに、「計画通りにコスト削減が進んだとしたら、2007年度比で何%まで削減できることになるか」を確認する。リーダーが述べた計画では「削減のペースが遅い」と判断した場合、承認する予算の期間を3カ月とする。
3カ月後にもう1度予算案の提出を求める。つまり、削減幅が小さい予算を策定したリーダーは最大で年4回、予算を作る。
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