情報システムの価値(ITバリュー)が急速に変化している。変革を迫るのはクラウドの台頭。腰を据えてシステムを企画・開発するよりも、素早く手軽に利用するほうにユーザー企業の力点が移り始めた。これに伴いITベンダーの評価基準も変わる。第15回顧客満足度調査の結果から、ITバリュー革命の最前線を追った。
(目次 康男、松井 一郎・相川 多佳子=日経BPコンサルティング)
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今年で15回目を迎えた顧客満足度調査では、未曾有の地殻変動が起こった。前回と比較可能な20分野のうち、実に14分野で首位が交代した。
特に変動が激しかったのは、ITコンサルティング/上流設計、システム開発、システム運用のサービス関連3分野。メーカーで前回3分野を完全制覇した日本IBMがまさかの大失速。代わって日立製作所が一気に3冠を奪取した。
ソフトウエア関連でも、大きな変化があった。グループウエア分野では、サイボウズが2000年の第6回調査以来、守り続けていた首位の座をライバルのネオジャパンに明け渡した。オープン系RDB(リレーショナルデータベース)ソフト分野では、富士通が初めて栄冠を手にした。
価値の“ものさし”が変わる
今回の調査対象企業・団体や調査方法は前回とほぼ同じ。複合機や情報分析・意思決定支援ソフトなど、新たに4分野を調査対象に加えたことを除けば、調査の大枠に大きな変化はない。
それなのに顧客満足度のランキングが大きく変化したのはなぜか─。1947社・団体から寄せられた回答の分析や、ITベンダーとユーザー企業の取材から見えてきたのは、情報システムの価値(ITバリュー)を測る“ものさし”の急激な変化だ。
一例を挙げると、ITコンサルティング/上流設計関連サービス分野では、ITベンダーの「プロジェクトマネジメント力」を以前より重視しなくなった。前回は24.8%の回答者が重視していたが、今回は19.7%に急減した。
価格に対しても厳しい目を向ける。PCサーバー分野では、回答者の半数を超える52.8%が「ハードの価格」を重視すると回答した。リーマン・ショックが起きる前の2008年5月に実施した第13回調査では46.5%だった。
こうした顧客の価値観の変化をベンダー各社も敏感に感じ取っている。「当社の製品・サービスの内容や品質が、1年前と比べて大きく変わったとは思わない。お客様の受け止め方が、想像以上に激しく変わっているのではないか」。サービス関連3分野で苦汁を飲んだ日本IBMの椎木茂専務は、今回の調査結果をこう読む。
日本IBMに代わってサービス分野で3冠を獲得した日立製作所の最上義彦常務も顧客の価値観の変化を指摘する。「もちろん社員の長年の努力の成果ではある。だが、それだけが3分野で1位を獲得できた理由ではない。お客様の価値観が変わった方向に、たまたま当社がマッチしたとも考えられる」と冷静に分析する。
「早さ」と「安さ」を重視
価値観が急変した要因はいくつか考えられる。もちろん、2008年秋のリーマン・ショック以降のIT投資の引き締めの影響は無視できない。「予算の柔軟性がなくなった。1円たりとも予算オーバーは許されない」(NECソフト第二システムSIグループの高山利彦マネージャー)のが実情だ。
さらに、ここにきて早く安くすべて(インフラからアプリケーションまで)がそろうクラウドコンピューティングが台頭してきた。クラウドの利活用を視野に入れたユーザー企業は、これまでとは違った“ものさし”で情報システムの価値を測り始めた。
例えば、じっくりとシステムを企画・開発するための「プロジェクトマネジメント力」や「業務分析力」は、前回の調査より重視されなくなった。むしろ、早く効果を実感できるソリューションをユーザー企業は求めている。
クラウドで「安く」システムを利用できるイメージがあるからか、ハードウエアやソフトウエアの価格に対する評価の目は、一段と厳しくなった。
今年は「クラウドが迫るITバリュー革命」の元年だ。革命のインパクトは、これから加速度的に大きくなる。変化を敏感に察知しているのか、「今までのような提案や価格に、顧客が“ありがたみ”を感じなくなっている」と、ベンダー幹部は口をそろえる。
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