アップルの携帯情報端末「iPad」を、企業が導入する動きが活発になってきた。業務効率化やコスト削減、新サービスの実現などに力を発揮し始めている。携帯電話やノートPCを置き換えるのではなく、情報システムのなかで新たな役割を担う形で利用するケースが多い。その潜在能力を、先進事例から探った。
(福田 崇男)

東京・銀座にあるしゃぶしゃぶ店「安曇庭 東銀座店」には、毎日のようにIT業界関係者からの予約電話がかかってくる。料理やサービスもさることながら、予約客の一番の目当ては、iPadを利用するセルフオーダーシステム「ITOS」だ。飲食店向け情報システムを手掛けるファインフーズと、厨房用機器メーカーであるタニコーが共同で開発したシステムである。
同店は個室の一つに、iPadを設置した。客はこれを使うことで、店員を呼ばなくても料理を注文できる。画面を触ってITOSの専用アプリケーションを起動すると、写真付きのメニューが表示される。
料理を選び「注文」をタップすると、その情報が無線LANを経由して、厨房にあるPCとプリンターに送信される仕組みだ。
iPadは2010年7月26日に導入したばかり。同店の関健太郎店長は、「店員は各個室ですき焼きやしゃぶしゃぶの調理を手伝うのが主な仕事。注文を直接厨房に伝えることにより、その分調理などのサービスを手厚くできる」と期待する。今年末の忘年会シーズンまでには12ある個室すべてのテ ーブルに1台ずつiPadを設置するという。
同様のシステムを、iPadよりも画面が小さい携帯情報端末「iPod touch」で実現している企業もある。滋賀県草津市にある居酒屋「自然酒菜 FUNEYA」は今年5月から、合計9台のiPod touchをセルフオーダー用端末として使っている。さらに店員が注文を受ける端末として3台のiPod touchを導入済みだ。
FUNEYAの高橋昭良代表は、「同様のシステムを構築するのに、専用端末を導入する場合は200万円くらいは必要。これがiPod touchを利用したことで100万円程度で実現できた」と満足する。今後はiPadを併用する予定だ。
本格的な業務利用が始まった
iPadをはじめとするアップルの端末を導入する企業が相次いでいる。飲食店のオーダー端末としてだけではなく、顧客向けのプレゼンテーションツールとして、“動くマニュアル”として、または新しい販売チャネルとして、ノートPCや携帯電話とは異なる役割を担う。各社とも、使い勝手の良さや、価格の安さが評価している。
企業の情報システム部門は、一度は導入を検討してみる価値がありそうだ。先行企業の具体的な使い方や狙い、効果を見ていこう。
店頭で顧客を魅了
「資産運用ではこのようなプランがございます」。みずほ銀行新橋支店の資産運用相談窓口のカウンターに、2台のiPadが配られたのは7月26日のこと(図)。窓口担当者はiPadを使って、顧客に資産運用のプランや投資信託の商品を説明している。
導入の狙いは、窓口サービスの営業力強化だ。iPadを使うことで、商品の情報を顧客により分かりやすく伝えられると考えた。
みずほ銀行は、iPad用の専用アプリケーションを開発した。メイン画面で「パンフレット」を選択すると、同行が扱う金融商品・サ ービスの電子パンフレットを一覧で表示する。これらの内容を画面に映し、顧客に説明する。
拡大や縮小が容易であるため、紙のパンフレットよりも見やすく、顧客の興味を引く。「使い初めて数日だが、顧客自身が操作してペ ージをめくるなど、iPadでの説明に高い関心を示している」と、みずほ銀行イノベーションビジネス部の村上隆氏は話す。
普段窓口では用意していないパンフレット類を、すべて電子化してiPadに保存しておけば、担当者が席を離れて探す必要はない。顧客を待たせることもなくなる。「新橋支店などは忙しい顧客が多く、パンフレットがないと帰ってしまうことも少なくない」(村上氏)。
新橋支店と中目黒支店では、待合スペースにも2台ずつiPadを設置した。顧客が待ち時間に、雑誌のようにiPadを使うことを想定している。みずほ銀行は年内にさらに数台を導入し、導入効果を分析する。
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