ミッドマーケット(中堅・中小企業向け市場)でのシェア拡大を狙い、富士通、NEC、日本IBMの3社は、過去何度も事業戦略を描いてきた。しかし、シェアはちっとも増えず、捨てられた戦略の屍が積み重なるばかりである。追い打ちをかけるように、クラウドの波が体制改革を促す。3社の新戦略は、また画餅に帰すのだろうか。
(北川 賢一)

「世の中、絵描きばかりである」。こう皮肉るのは「ミッドマーケット」、いわゆる中堅・中小企業を主要な顧客としながら4500億円(2010年計画)もの売り上げを稼ぐ大塚商会の片倉一幸専務だ。4500億円という数字は、富士通、NEC、日本IBMの3社が民需のミッドマーケットから得ている合計を上回る。そのため美しい戦略を描き、「共同販売を申し込んでくるベンダーが後を絶たない」(片倉専務)。
片倉専務の冒頭の刺激的な感想は、ベンダー各社が協業提案のときに持ち出すビジョンやコンセプトの類に飽き飽きしているためだろう。ピント外れで顧客や市場、ビジネスパートナーを知らず、実行を伴わず、ほとんど継続されない、その場限りのものが少なからずありそうなのだ。
米IBMが8000億円もの巨額赤字に陥った1993年。CEO(最高経営責任者)に招かれたルイス・ガ ースナー氏は開口一番、「IBMにビジョンは不要」と言い、綺麗に描かれた事業説明ファイルを放り投げた。ミッドマーケットの攻略も似たようなものか。大手各社は何度も「攻略の絵(戦略)」を描き、組織を変え、人材を充て、ビジネスパートナー対策を練ってきた。しかし、功を奏したという話を聞いたことがない。
日本IBMのパートナー&広域事業担当である岩井淳文執行役員や、NECネクサソリューションズの森川年一社長が「ミッドマーケットに勝者はいない。群雄割拠の状態が連綿と続いている」と明かすように、ミッドマーケットには“戦略”の屍が累々だ。
クラウド時代の新戦略を発信
それでも大手各社は、薄いシェアを少しでも肉厚にしようと、ミッドマーケットを攻略する策を出し続ける。大企業市場は成熟し伸びが期待できないし、各社のテリトリーが暗黙の内に決まっている。残されている猟場は3兆円強と言われるミッドマーケットしかない(図)。しかも約20万社と目される対象顧客にほとんど接触していないのが実情だ。

出所:IDC Japanの資料を基に作成(2010年5月)
この1~2年、各社はそれぞれ新たな戦略を描き、現在実行に移す段階にある。大塚商会に「またか」と“口撃”されるのを覚悟の上かもしれないが、今度の絵(ビジョン)は、「クラウドコンピューティング時代のパートナービジネスのあり方を目指した」(日本IBMの岩井執行役員)もの。富士通やNECの新体制も、クラウド時代の到来を念頭に置いたミッドマ ーケットの攻略とパートナー戦略の立て直しである。
本音は「直販営業」の強化
クラウドを単純にとらえると「究極の中抜き」だ。米グーグルの「パブリッククラウドサービス」は、アプリケーションやミドルウエアだけでなくサーバーまで自社製である。グーグルのような巨大クラウドがいくつもできて本格的に企業市場に参入してくると、「クラウドサービスプロバイダーと顧客」の2者の関係で済んでしまう。
こういう「IT業界用なし」の事態を招かないために「プライベートクラウド」という新戦術を大手ITベンダーは編み出した。だが今度は、ビジネスパートナーから見れば、これはパブリッククラウド同様に「中抜き」されかねない危険性をはらむ。実際、日本IBMや富士通、NECの3社が打ち出した新戦略をよく透かしてみると、ミッドマーケットでの「直販強化」の文字が浮かび上がる。もちろん各社は、その鎧を衣の下に隠す。
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