プライベートクラウドを構築する上での成功の秘訣が見えてきた。それは「作らない」というもの。コンピュータリソースをサービスとして貸し出すプライベートクラウドには「メニュー」「ワークフロー」「運用自動化」が欠かせない機能とされる。これら三つの機能を作り込もう、というのがこれまでの常識だった。この常識が変わりつつあるのだ。 最大限の効果を生み出すプライベートクラウドとは。その構築術を指南する。
(山端 宏実)
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「プライベートクラウドは一からすべてを作り込むものではない。割り切りの考えを常に意識しておく必要がある」。カシオ計算機のプライベートクラウド構築を率いてきた、カシオ情報サービスの国吉典仁常務はこう言い切る。
自社のコンピュータリソースを社内でサービスとして提供するプライベートクラウド。その構築法が変わりつつある。必須機能とされる「メニュー」「ワークフロー」「運用自動化」について、「できるだけ作らない」方針を貫くユーザー事例が増えてきた。
あえて作らない理由は二つある。一つは、構築期間を短縮し、投資負担を抑えること。もう一つは、仮想マシンの作成やワークフロー業務を手作業でこなすことにより、プライベートクラウド運営に関する知識やノウハウを蓄積することだ。
プライベートクラウドは、仮想化技術を活用してコンピュータリソースを統合・プール化しただけのものではない。リソースプールから仮想マシンなどをサービスとして提供して初めて、プライベートクラウドになる(図)。

サービスとして提供するためには、仮想マシンのスペックと利用可能なミドルウエアの料金をパターン化したメニューが必要だ。具体的には、「CPUは4コア、メモリーは8Gバイト、ディスクは50Gバイトで月額1万2000円」といったイメージである。利用者はメニューから自分に最適なパターンを選び、プライベートクラウドの運営者に注文する。利用者が出した注文の妥当性を上長などが承認するのが、ワークフローの役割だ。運用自動化の機能は、注文に応じたスペックの仮想マシンを素早く作り出し、OSやミドルウエアを導入したうえで、利用者に引き渡す。
従来、これら三つの機能を作り込もうというのが、プライベートクラウド構築の常識だった。しかしプライベートクラウド黎明期とも言える今、そこまで厳密に作り込まなくても十分、という判断を下した企業は多い。
効率的な作り方が見えた
常識の変化の方向性は二つある。一つは、これらの機能を可能な限り作らないというもの。もう一つは、作るにしても既製品や既存の仕組み、ITベンダーが提供するサービスを活用し、最小限に抑えようというものだ。
例えば住友電気工業は、既存サーバーのCPUやメモリー、ディスクの使用量を測り、平均値を算出。その結果から、「メニューのパターンは1種類で十分」と判断した。
東京海上日動火災保険は、ワークフローをシステム化せず、手作業でこなしている。王子製紙は、仮想マシンの作成を自動化せず、マニュアルに沿って手作業で実施している。どちらも、手作業で行った方が効率がよく、知識やノウハウも蓄積できると判断し、あえて自動化しなかった。
プライベートクラウドの構築を支援する製品・サービスも多数登場している。ハードやソフトをあらかじめ組み合わせて提供するアプライアンスである「オープンメインフレーム」が象徴するように、構築のハードルはぐっと下がってきた。だからこそ、作り過ぎにより、オーバースペックに陥ることを避けたい。
以降では、プライベートクラウドを構築するユーザー企業15社の実例から、最大の効果を生み出すプライベートクラウドの作り方を紹介する。
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