消費低迷の時代に7年連続で営業収益を伸ばす良品計画、5年連続で過去最高の全店売上高を記録中の日本マクドナルドホールディングス、「家飲み」ブームに負けず、2010年10~12月期の全店売上高が前年同期を上回った居酒屋大手のワタミフードサービス――。 スマートフォンの急速な浸透によって、モバイルマーケティングの威力はさらに拡大しつつある。少子高齢化や長引く景気低迷に打ち勝つ「儲けるシステム」構築の秘策と、企業におけるIT活用の最先端事例がここにある。昨年に引き続き「千客万来」特集の第二弾をお届けする。
(矢口 竜太郎)
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居酒屋「和民」などを展開するワタミフードサービスはiPhoneのGPS機能を活用して顧客を店舗に誘導、利益率を下げることなく1カ月に2000組の集客増を実現した。良品計画は優良顧客のスマートフォンと携帯電話にクーポンを配り、「無印良品」西武池袋店の売り上げを5日間で200万円以上伸ばした。日本マクドナルドは2000万人超の会員組織を活用、嗜好に見合ったクーポンで会員を店舗に吸い寄せ、増収につなげている。まずは、先進3社の最新の取り組みを通じて、モバイルマーケティングの威力を示す。
ワタミフードサービス
店舗近くにいる顧客を勧誘
iPhoneで専用ソフトを起動すると地図が現れ、周囲2キロメートル以内にある和民系列店舗の位置が表示される。最寄り店のアイコンをタップすると、「19時までに入店の方は全品10%オフ」など、今すぐ使えるクーポン券が現れる。クーポンを得たら、地図を見ながら店舗に向かう──。これが、ワタミフードサービスのiPhoneアプリ「ワタミアプリ」の利用イメージだ。
ワタミアプリは公開4カ月後の2010年12月時点で、6万ダウンロードを超す人気ソフトだ。同社はこのアプリを通じて、クーポン施策の対象店舗で1カ月に2000組の集客効果を上げている。一組当たりの客単価を1万円とみると2000万円の増収である。
この数字は、1カ月の全店売上高の1%にも満たない。だが、「店がすいている時間帯の顧客数を増やすことに成功した点が大きい」と、経営企画本部マーケティング部の亀本伸彦課長は語る。店舗や従業員の稼働率を上げることができたわけだ。
三つの課題を一挙に解決
ワタミアプリはワタミフードサービスが抱えていたクーポン施策における課題を一挙に解決した(図)。紙のクーポンを使った施策には、解決が困難な課題が三つあった。一つめは店舗の近くで居酒屋を探している潜在顧客に対して、タイムリーにクーポンを届けられなかったこと。アルバイト店員を使って、店舗の前を通りかかる人を勧誘するしかなかった。来店したい人に渡すことができなければ、クーポン施策は意味をなさない。
二つめはピーク時に顧客がクーポンを使うと利益率が悪化することだ。ワタミのクーポン施策は、店がすいている時間帯の来店客数を増やすことが目的だ。にもかかわらず、稼ぎ時の時間帯にクーポンを持った顧客が押し寄せ、正規料金を払うつもりで来店した顧客の入店を断る事態が生じていることも考えられた。
三つめは、クーポンの利用者数をコントロールできない点だ。クーポンを使う顧客が想定より多いと、二つめの課題と同様に、たとえ来店者数が増えても利益率は下がる。といって、配るのを惜しんでいたら集客につながらない。ここがジレンマであった。
ワタミアプリでは、利用時間を柔軟に設定できる。これにより、混雑具合に合わせてクーポンを使える時間帯を変えるといった運用が可能だ。例えば、店舗付近で大きなイベントの開催が急に決まったとする。その日は早い時間帯から満席になる可能性が高いので、クーポンの配信を取りやめる。紙のクーポンでも利用可能な時間帯を制限するものはあったが、「柔軟には設定を変更できない」(亀本課長)。
利益率の悪化に関しては、利用可能な日時を調整することで、問題を解決している。さらに、配布枚数を制限できることを生かして割引率を高く設定。利益率を下げずに集客増を実現した。
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