グローバル市場に打って出るため、台湾企業がITに磨きをかけている。世界で通用するコモディティー製品をタイムリーに提供するため、生産リードタイムの短縮や情報収集のスピード化を図る。世界進出で日本企業の先を行く台湾企業のスピード経営と、それを支えるIT戦略に迫る。
(玉置 亮太)

「製品在庫を倉庫に保管する日数を45日から24日に短縮」「毎月1日の午後1時には、前月の全生産実績を把握」「自社版ERP(統合基幹業務システム)パッケージで工場を迅速に新設」──。台湾企業のスピードに対するこだわりは徹底している。顧客が望む商品を顧客が望むタイミングで、できるだけ安く届ける。こうしたビジネスの基本を、愚直に追求している。
台湾企業がなによりスピードを重視する理由は、主にコモディティー製品を製造・販売しているからだ。コモディティー製品とは、機能や性能には大差がなく、価格が最大の差異化要因になっているジャンルの製品のことだ。例えば、エアコンやテレビといった家電製品、汎用的な鉄鋼製品、パソコンやプリンター、携帯電話などの電子機器などである。
台湾企業がコモディティー製品を扱うのは、世界市場を見据えているためだ。中国やインドといった新興国をはじめ、世界で広く売れるのは、高機能・高品質で価格も高い製品ではなく、コモディティー製品である。
世界で売れるだけに、コモディティー製品は激しい競争にさらされる。企業にとっては、いかに安く速く製品を作れるかが勝負だ。市場の変化に即応して意思決定を下せるように、ITを使って世界各地から製造や販売などに関する情報を収集する。
日本企業にとって台湾企業のIT戦略は、グローバル市場攻略の先進事例だ。中国をはじめとする新興国市場に進出するには、これまで日本企業が不得手としてきたコモディティー製品で勝負せざるを得ないからだ。台湾最大の総合電機メーカーと製鉄会社、世界最大のEMS(電子機器の受託製造サービス)企業の3社を例に、台湾企業のIT戦略をみていく。
東元電機
世界共通基盤で在庫半減
「グローバル展開は当社事業の基本。特にこれからは、中国市場をものにする必要がある。すでに中国には工場を10カ所、支社を15カ所設けて製造と販売に乗り出している」。台湾の総合電機メーカ ー、東元電機などを傘下に持つ東元集団の黄茂雄会長は述べる。
東元電機は産業用モーターなどの重電機器から家電、携帯電話、プリンター、電子機器/素材、情報システムサービスまで手掛ける。売上高は1100億円と、日本の電機メーカーと比べれば東芝の60分の1程度にすぎない。ただし事業領域は同社に近く、売上高に占める海外比率は55%と、東芝とほぼ肩を並べる。いわば、小さなグローバルカンパニーである。
「東元電機のビジネス方針は、モノづくり企業としてのスピードを突き詰めること。それを実現するのがグローバルSCM(サプライチェーン管理)システムだ」。こう語るのは、東元電機のCIOを務める謝穎昇 副執行長だ。東元電機は昨年、グローバルSCMシステムを全面稼働させた(図)。これにより、完成品を自社の倉庫に在庫として保管しておく日数を45日から24日にほぼ半減させた。部品の調達先との間で支払い処理を完結させるのにかかる日数は、10日から3日に7割短縮した。販売店などからの在庫の問い合わせには4時間かかっていたが、即座に回答できるようになった。
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