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 プロジェクトにかかわるステークホルダー(利害関係者)をいかに巻き込んで本音を引き出し、目標達成に向け意見を調整して合意を形成するか。「ステークホルダー管理」が情報システム部門にとって大きな課題として浮上している。システムがビジネスを直接支える存在となり、用途がグローバルに広がるにつれて、ステークホルダーが急激に広がっているからだ。

 ステークホルダー管理は属人的なコミュニケーションに依存し、ノウハウの形式化が特に難しい分野。「PMBOK」をはじめとするプロジェクトマネジメントを近代化する取り組みでも手つかずの領域と言って過言ではない。

 だが、システム開発プロジェクトではステークホルダーが多様化する一方だ。早期の対応が欠かせない。ステークホルダー管理に意識的に取り組む企業の事例を中心に、プロジェクトマネジメント“最後の難関”の実態と打開策を探る。まずは、東日本大震災からの復興を支えることになった「夢のシステム」での奮闘ぶりを見ていこう。

(井上 英明)

◆復興を支える「夢のシステム」
◆膨張するステークホルダー
◆難関に挑む5社の取り組み


【無料】サンプル版を差し上げます 本記事は日経コンピュータ3月31日号からの抜粋です。そのため図や表が一部割愛されていることをあらかじめご了承ください。本「特集」の全文をお読みいただける【無料】サンプル版を差し上げます。お申込みはこちらでお受けしています。 なお本号のご購入はバックナンバーをご利用ください。

 2011年3月14日朝。東京海上日動事務アウトソーシング仙台センター(TMO仙台)には、3日前に発生した東日本大震災の生々しい傷跡が残る。社員にケガはなかったが、天井の一部がはがれ落ちるといった被害に見舞われた。

 そんな状況でも、この道10年のプロたちはいつものように事務作業を始めた。使うのは業務支援システム「運管くん」()。現場のプロは「要望がかなった、夢のようなシステム」と評価する。

図●東京海上日動火災保険が開発した401k 業務支援システム「運管くん」の概要
図●東京海上日動火災保険が開発した401k 業務支援システム「運管くん」の概要

 TMO仙台は、日本版401k(確定拠出型年金)にかかわる受付業務を親会社の東京海上日動火災保険から請け負っている。30人強のオペレーターは申込書の内容をチェックし、不備がある項目一つひとつに記入方法やポイントを書いた付箋を付ける。個人からの申込書の場合、半数以上に何らかの不備があるという。

 運管くんは、こうしたオペレーターの日々の業務を支えるシステムだ。手作業だった受付処理をシステム化すると同時に、現場で過去10年、実施してきた様々な改善をすべて盛り込んだ。さらに項目間の相互チェックといった機能を追加した。結果として、書類1件当たりの作業時間を従来の50分から25分に半減している。11年3月に給付の申し込みにも対象を広げ、開発が一通り完了する。

 TMO仙台が、復興を目指す仙台でいち早く業務を再開できた裏で、この「夢のシステム」が大きな役割を果たしたのである。

「現場を見ておく必要がある」

 運管くんを開発するに当たり、担当した東京海上日動システムズは大きく三つの工夫を凝らした。いずれもステークホルダー管理にかかわるものだ。

 一つめの工夫は、現地に足を運んで、誰がステークホルダーなのかを特定したこと。東京海上日動はこれまで、システム部門と業務部門の部門長クラスで業務の改善要望をまとめ、システム仕様を決定していた。通常なら、東京海上日動の401k担当部門とシステム開発を進めることになる。

 しかし、プロジェクトマネジャーを務める東京海上日動システムズの佐藤元紀 商品・プロセスソリューション本部 契約データデザイン部ソリューションプロデューサは「やはり現場を見ておく必要があるのではないか」と考え、TMO仙台を訪問した。

 その結果、「現場の高いモチベーションと、改善を繰り返した運用手順が事務作業を支えている」と実感。TMO仙台のオペレーターをシステム開発に不可欠なステークホルダーと位置づけた。「オペレーターに『これいいね』と言ってもらえるシステムをゴールとした」(佐藤プロデューサ)。

 本社業務部門の協力も欠かせない。佐藤プロデューサはTMO仙台に事業部門の担当者を連れていったり、TMO仙台の業務フローや課題を可視化した「たいへんマップ」をオペレーターの協力で作成したりする、といった工夫で業務部門を“その気”にさせた。

 開発ベンダーも重要なステークホルダーだ。佐藤プロデューサはプロジェクトのキックオフ会議で、システムの意義を説明した後にバスの絵のスライドを投影し、「一緒にバスに乗りますか?」とベンダーの担当者に尋ねた。「一つの目標に向かって、途中下車せずにやりぬく覚悟を持たせるためにバスを引き合いに出した」(佐藤プロデューサ)。開発ベンダーは少し間を置いて「やります」と答えたという。


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