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 売り手よし、買い手よし、世間よし――。

 江戸時代から明治期にかけて、近江商人はこの「三方よし」の理念を掲げて全国を行商して回り、多くの大企業を生み出した。天秤棒は、小商人時代の初心を忘れず、多くのステークホルダーの間でバランスを取ることの象徴だ。

 企業にとって三方よしの理念は、今なお色あせることはない。儲かる企業の姿を最も端的に表現しているからだ。しかし実現する手法は大きく変わった。天秤棒をITツールに持ち替え、知恵を絞って情報システムを構築することが、現代の企業には求められている。以前は難しかった理念でも、今はITで実現できる。

 高度な次元で三つのバランスを成立させたホンダとヤマトホールディングスを筆頭に、まずは買い手よしと売り手よしに狙いを定めて改革を進め、顧客サービスの進化に挑んだ10社の取り組みを紹介する。

(小笠原 啓)

◆ホンダが解いた「連立方程式」
◆「買い手よし」に集中投資
◆「売り手よし」が最初の一歩


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 ビジネスの現場では、「売り手」と「買い手」の要求を同時に満たすのは難しい。そこに「世間」も加え、相異なる三つの要求に応えようとすると、さらに難易度は増す。

 だが情報システムを活用することで、その「連立方程式」を解き、三方よしを実現した企業が3社ある。ホンダとヤマトホールディングス、ダイキン工業だ。駆使するのは最先端のITではない。賢く使いこなす知恵こそが重要だ。

ホンダ 「カーナビクラウド」で省燃費

 ホンダは今年、カーナビ戦略を大きく転換した。3月以降新たに発売する全車種で、同社のカーナビ「インターナビ」向け情報配信サービス「インターナビ・リンク プレミアムクラブ」の通信料金を無料にする。有料サービスは2002年に始めており、今後は無料対象車を増やしていく。

 これだけでは、単なるサービス向上策のように聞こえるかもしれない。しかしこの施策には、情報システムを使って「三方よし」を実現するヒントが詰まっている。通信料金の無料化が、「買い手」であるホンダ車ユーザーと「売り手」となるホンダ自身、そして「世間」にどんなメリットをもたらすのか。順番に見ていこう()。

図●ホンダが実現した「三方よし」
図●ホンダが実現した「三方よし」
情報システムを賢く使うことで、「売り手」であるホンダと「買い手」であるホンダ車ユーザー、そして「世間」の三者にメリットをもたらした

5分おきに情報収集

 「カーナビのクラウド化」。多少乱暴だが、インターナビの特徴を表すとこうなる。

 インターナビ装着車が「センサー」として、自らの位置や速度などを収集。その情報をホンダが保有するサーバーが定期的に吸い上げ、データを蓄積する。そして、ユーザーの求めに応じてサーバー側で情報を分析し、結果をカーナビ画面に表示する。

 計算能力を柔軟に増やせるクラウドで情報を分析すれば、より詳細な道路情報やルート案内をカーナビに配信できる。カーナビ単体ではこのような分析は難しい。カーナビが搭載するCPUの処理能力に限りがあるからだ。

 ただし、これまでは通信回数に応じ料金が増えるのが課題だった。そのため、1時間に1回程度しか情報を更新しないユーザーが多かったという。それを無料化することで、標準で5分ごとに走行データを収集できるようにした。

 ホンダの狙いはここにある。

 一般のカーナビが利用するVICS(道路交通情報通信システム)情報は、主要幹線道路や高速道路しかカバーしていない。

 一方でインターナビでは、多くの自動車が実際に抜け道を走行した際の所要時間なども収集し、VICS情報も加味して最適なルートを計算する。収集するデータが増え、さらにリアルタイム性が増すほど、一般のカーナビに比べて渋滞予測の精度が高まっていく。結果、インターナビのユーザーは目的地まで早く到着でき、実用燃費の向上につながる。

 6月には会員数が130万人に達した。情報収集頻度と収集対象のカーナビ台数が増えることで、2011年末の情報収集回数は2010年末の10倍に伸びる見込みだ。「今では1日に200万キロメートル分の走行データを新たに収集している」とインターナビ事業室の野川忠文 企画開発ブロック主任は胸を張る。


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