経営統合やM&A(合併・買収)、グローバル化の加速、新規事業への進出――。経営を支える屋台骨である基幹系システムは今、こうした変化に追随する「柔らかさ」が求められている。自動化による業務の効率化だけを目的として、基幹系を構築する時代は終わった。変化する経営を支える柔らかな基幹系を構築するためには、「現場の業務改善だけを目的として要件定義をしないこと」、そして「自社で基幹系を運用しないこと」で稼働後に開発し続ける体制を築くことがカギになる。
(島田 優子)
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「現行の基幹系システムに特に問題はない。本音を言えばもう少し利用していたかった」。大和ハウス工業執行役員の加藤恭滋情報システム部長はこう打ち明ける。同社は現在、2012年4月の稼働を目指して独SAPのERP(統合基幹業務システム)パッケージを利用した新しい基幹系を構築している最中だ。
現在の基幹系は1999年に稼働させた自社開発のシステム。「日々の業務を進めるだけなら機能面で不足はない」と加藤執行役員は話す。それでも同社が刷新を決めたのは、「経営戦略として進めてきたグループ経営の強化や、IFRS(国際会計基準)への対応を考えた結果」(加藤執行役員)だった(図)。
10年間で経営戦略が変化
大和ハウスの経営戦略は2000年代に大きく変わってきた。住宅や商業施設を建設して販売するだけでなく、賃貸住宅や分譲マンションの管理・リフォーム、商業施設のテナント管理といった運営を手がける、ストック型のビジネスを目指すようになったのだ。
ストック型ビジネスの推進に欠かせない存在がグループ会社である。大和ハウスが建てた賃貸住宅を子会社である大和リビングが管理するといった、グループ横断で運営する事業が増えてきた。M&A(合併・買収)によるグループ拡大も推進中だ。
現行の基幹系を企画した90年代後半、ここまでグループ経営が進むとは予想できなかった。その結果、現行の基幹系には「グループ横断で経営数字を把握する仕組みがない」と加藤執行役員は説明する。子会社から手作業でデータを収集しているのが現状だ。
新基幹系は「グループ経営の基盤になる」(加藤執行役員)システムだ。大和ハウスは13年4月からグループ会社へも同じシステムを導入する。グループ展開の際には、これまで各社個別だったデータベースも統合する計画だ。
グループ経営の推進に加えて大和ハウスの基幹系刷新を後押ししたのが、IFRSへの対応だ。IFRS対応時には、日本の会計基準とIFRSの両方に基づいた財務諸表を作成する必要がある。さらにIFRSは改訂が続いているので、一度対応を終えたとしても、改訂に合わせた変更が続く。加藤執行役員は、「改修を重ねて構造が複雑になった現行の基幹系では、IFRSへの対応は難しいと判断した」と話す。
柔軟性を求められる基幹系
現在の基幹系システムの構築から十数年が過ぎ、経営戦略や事業環境と乖離が起こる──。企業を取り巻く環境の変化を受けて、大和ハウスのように基幹系の刷新に乗り出す企業が増えている。
90年代後半に大和ハウスが基幹系を構築した段階では、グループ経営が急速に進むと予測するのは難しかった。IFRSだけでなく、J-SOX(内部統制報告制度)や四半期開示も、10年前には姿もなかった法規制だ。
「これまでの基幹系を構築した時と同じ発想では、これからの企業経営を支える基幹系は構築できない」と野村総合研究所システムコンサルティング事業本部ビジネスデザインコンサルティング部の古川昌幸部長は指摘する。
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