急拡大する中国市場にITサービスやソリューションを売り込め――。日中のIT企業が続々と手を組み始めている。中国のIT企業が狙うのは、日系IT企業が抱える業種別ソリューションや開発ノウハウなどの吸収だ。協業は具体的にどのような展開を見せているのか。どんな課題に直面しているのか。現地の最新状況を追う。
(宗像 誠之)

システム開発の発注元と委託先という関係から、ITサービスやソリューションを共同で中国市場に売り込む「対等なパートナー」へ。日本と中国のIT企業の付き合い方が変わり始めた。
この1~2年で、日中IT企業が資本提携したり、合弁会社を立ち上げたりする動きが加速している。単なる業務提携にとどまらず、資本提携を含む本気度の高い関係の構築が本格化し始めた(表)。
中国IT企業の狙いは、日系IT企業が抱える幅広い業種向けのソリューションや、スクラッチ型の大規模システム開発力、クラウドなど先端技術の吸収だ(図)。「イノベーションによってITサービスの付加価値を高め、増収につなげたい」(東軟集団の王勇峰総裁兼副董事長)、「ハード販売からソリューション提供を中心とした事業モデルへと転換したい」(神州数碼信息服務の何文潮 副総裁)。大手首脳は日系IT企業からビジネス拡大につながるノウハウを得ようとする意欲を隠さない。
これまで中国は日本のIT産業にとって、「コスト競争力に優れたオフショア開発拠点」という位置付けだった。これら大手首脳の言葉は「脱オフショア」を目指す中国IT企業の思いを象徴する。
米ガートナーの調べでは、2010~2015年までの中国における企業のIT投資規模の平均成長率は年12.5%に達する。有望市場を目の前に、日中IT企業の協業の最前線では何が起こっているのか。主要な舞台となっている北京と大連へ飛んだ。
東軟集団×NEC、東芝ソリューション
大連市内から車で30分。約50万平方メートルの巨大な敷地に、まるでテーマパークのような趣の建物が突然現れる。東軟集団が2008年に開設した「大連河口パーク」だ。入り口にタクシーで到着すると、待ち受けていたのは専用の電気自動車だ。入り口からパーク内のオフィスへ、顧客などを案内する際に使っているという。
「5~10年以内に、イノベーションによって顧客に付加価値をもたらすビジネスモデルを構築したい」。大連河口パークを見わたすオフィスで、東軟の王総裁は力強く語った。
同社はこれまで人海戦術でオフショア開発などをこなし業績を拡大してきた。現在はグループで約2万人を擁する。しかし今後は、増員による規模の拡大を経営目標として掲げるのはやめて、生産性向上に力点を置く。その戦略転換の鍵を握るのが、日系IT企業2社と設立した合弁会社だ。
NECのアプリを提供
一つは、中国でクラウドサービスを展開するためにNECと設立した「日電東軟信息技術」。もう一つが、総合ITサービスを中国で提供するため東芝ソリューション(東芝SOL)と設けた「瀋陽東芝東軟情報システム」だ。
日電東軟は現地の日系企業や中国企業に対して、IaaS(インフラストラクチャー・アズ・ア・サービス)やPaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)、SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)を提供する。
SaaSのアプリケーションは、主にNECが用意する。「クラウド分野でNECが持つ基盤技術やソリューションは先進的であり、我々が持っていないものだ」(東軟の王総裁)。クラウドの基盤もNECが構築する。
合弁会社は11月中旬時点で、30~40社程度の顧客を獲得しているようだ。この数字は順調とはいえない。当初はこの時期には100社以上からの受注を想定していたという。「予想外に中国企業はクラウドへの移行に慎重だ」。NECの三輪徹 海外営業ビジネスユニット支配人は打ち明ける。
今後は巻き返しのためテコ入れを図る。まずは引き合いが多いIaaSを重点的に販売する。SaaSの使い勝手を高めるため、複数のアプリケーションをまとめて割安に使えるメニューも用意する。さっそく、人事管理やワークフロー管理など間接業務用のソフトをまとめて提供し始めた。
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