勘定系システムの開発失敗を巡りスルガ銀行が日本IBMを訴えた裁判で、東京地方裁判所は3月29日に約74億円の賠償を日本IBMに命じる判決を下した。4年間にわたった裁判は、ITベンダーとユーザー企業にそれぞれどのような教訓を残したのか。弁護士やIT業界の有識者への取材から、スルガ銀―IBM裁判の深層を探る。
(浅川 直輝)

「ある程度は過失相殺が認められると思ったが」。システム開発をめぐる紛争に詳しい、ある弁護士は、驚きを隠さない。勘定系システムの刷新プロジェクトが頓挫したことによって損失を受けたとして、スルガ銀行が委託先の日本IBMに約115億円の損害賠償を求めた裁判の判決についてだ。東京地方裁判所は2012年3月29日、日本IBMに約74億円の支払いを命じた。
金額だけを見ると、スルガ銀の請求のうち64%しか認められなかったように見える。だが実態は、スルガ銀の全面勝訴に限りなく近い。なぜなら、64%というのはスルガ銀がシステム開発のために支出した費用のうち、開発中止で無駄になったと同行が主張する金額に相当するからだ(図)。言い換えると、東京地裁はスルガ銀が主張する実損害分の金額を賠償額として100%認定したことになる。東京地裁は同時に、日本IBMがスルガ銀に約125億円の損害賠償を求めた反訴を棄却した。

IBMの「不法行為」を認定
東京地裁はなぜ約74億円の支払い命令を下したのか。日本IBMが判決内容に対して閲覧制限を申請しているために、2012年4月4日時点で判決理由は公開されていない。このため詳細は不明だが、裁判関係者などへの取材を総合すると、判決では日本IBMのプロジェクトマネジメントに不備があったと認定されたとみられる。
東京地裁は日本IBMがシステム開発の「契約上の付随義務」に違反したとみなし、民法第709条の「不法行為」に当たると認定した。
システム開発プロジェクトを巡る最近の判例では、開発契約に付随して「プロジェクトマネジメント義務」や「協力義務」などが生じる。前者はITベンダーがユーザー企業との共同プロジェクトを適切に管理する義務。後者はユーザー企業が業務フローの洗い出しなどでITベンダーに協力する義務だ。
東京地裁はスルガ銀と日本IBMの双方が提出した資料を精査した上で、スルガ銀は協力義務を果たしていた一方、日本IBMはプロジェクトマネジメント義務を十分に果たしていないと認定したとみられる。
製品選定の責任も問われる
今回のシステム開発がパッケージソフトの導入を前提にしていたことも、日本IBMの過失を重く認定した理由の一つといえそうだ。
JTBのシステム子会社、JTB情報システムの野々垣典男常務取締役は、「一般論としてパッケージソフトを使った開発では、スクラッチ開発と比べてITベンダーの負う責任は重くなる」と指摘する。野々垣常務はJTB時代にITベンダーとの訴訟を経験している。その立場から「ITベンダーはパッケージの中身を熟知している前提でユーザー企業に導入を勧めたとみなされる」と説明する。
本誌が入手した日本IBMの反訴資料によれば、スルガ銀と日本IBMのプロジェクトは邦銀標準の金融パッケージを開発する「NEFSSプロジェクト」の一環だった。中核部分に米フィデリティ・インフォメーション・サービス(FIS)の「Corebank」を活用したことから、邦銀標準パッケージは「NEFSS/Corebank」と呼ばれた。
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