ソーシャルメディアと企業情報システム。現状では縁遠い両者が組み合わさろうとしている。実現できるのは「個」に近づくシステムだ。一般消費者に限らず、従業員、取引先の担当者といった一人ひとりと直接つながり、企業活動に生かす。あらゆるシステムがソーシャルメディアを組み込む可能性もある。ソーシャルメディアを他人事と思わず、情報システム部門が自らの道具として認識すべき時が来た。
(玉置 亮太)
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「トップを奪還せよ」。田中孝司社長の号令の下、KDDIが顧客満足度の改善を急いでいる。日本の携帯電話サービス顧客満足度調査(J.D.パワー アジア・パシフィックが実施)で、同社は2006年から守ってきた首位の座を2010年にNTTドコモに明け渡した。2011年も2年続けて、ドコモの後塵を拝している。
KDDIが首位奪還に向けて進めている重点施策の一つが、顧客サポートの改善である。その大きな武器がソーシャルメディアと情報システムとの組み合わせだ。Twitterなどのソーシャルメディアのデータと顧客サポート用コンテンツを一元管理するシステムを2012年3月に構築した(図)。
システムの狙いはアクティブサポートの実現だ。ソーシャルメディアで捉えた疑問や不満に対して、その顧客に直接解決策やアドバイスを提供する。この形態ではソフトバンクモバイルが先行しているが、「顧客一人ひとりに対するオーダーメイド型サポートを実現する仕組みを充実させる」(情報システム部門の中野真樹コールセンター系グループ課長補佐)ことで差異化する。
この仕組みを実現するには、ソーシャルメディアとシステムとの連携が欠かせない。ソーシャルメディアを流れる膨大な量の「つぶやき(投稿)」データを自動収集して分類し、その情報を担当者で共有・活用するためのシステムが必要になるからだ。
銀行やBtoB企業も動く
横浜銀行や島津製作所も、ソーシャルメディアとシステムとの組み合わせを志向している。
横浜銀行が狙うのは、ソーシャルメディアで実際の店舗に来てもらうきっかけを作り、システムを使って金融商品を効果的に販促するという流れだ。相続に関する疑問をTwitterなどでつぶやいた利用者に対して、「○○支店の□□です。どうぞお気軽にご相談ください」などと話しかける。「気軽に来店してもらうためのコミュニケーション手段として、ソーシャルメディアは有効だ」と加藤毅 営業企画部マーケティンググループグループ長は語る。
来店した顧客に対して、興味ある項目といったソーシャルメディアで得た情報や、CRM(顧客関係管理)システムが備える相続に関する商品データを使って、接客をスムーズに進める。こうした使い方の実現に向けて、2013年の稼働を目標に新CRMシステムを構築している最中だ。
医療用分析装置などを扱う島津製作所。「我々のようなBtoB企業でも、顧客接点の強化にソーシャルメディアは有効だ」と、馬瀬嘉昭 執行役員業務システム統括部統括部長は話す。
同社は日本や中国をはじめとするアジアで2012年以降、CRMから生産管理、営業支援、アフターサポートまでの各システムを連携した生産・販売体制を整備していく。ここにソーシャルメディアを加える構想だ。同社の顧客である医師や企業の研究者と同社によるクローズなSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を作り、CRMシステムを連動させれば「顧客のニーズを直接、企画から生産へとつなげることができる」(馬瀬執行役員)。
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