ビジネスで活用できていない無駄なシステムを捨てれば、そこで浮いた運用・保守予算を新たな成長分野のIT投資に振り向けられる。ここで必要になるのが、システムを企業内から退場させる「Exit(出口)ルールだ」。システムの利用頻度やビジネスへの貢献度などの指標を使い、ユーザー部門が納得できるルールを作ることで、限られたIT予算を有効活用できるようになる。無駄なシステムを出口に導く勘所を、14社の実践例を基に紹介する。
(西 雄大)
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数十年かけて整備してきた約2000種類もの業務システムを、半分以下の700~800種類に減らす──。物流のグローバルサービスを推進する日本通運は、同社初となるシステムの“ダイエット”プロジェクトを推進中だ。
「活用できていない無駄なシステム、つまり“体脂肪”をそぎ落とす。これによって生まれたリソース(人や予算)を、企業の“筋肉”となる新しいシステム整備に投入する。システムを絞り込むことで、会社の機動力はぐんとアップする」。日本通運の野口雄志IT推進部長は、プロジェクトの狙いをこう語る。
日本通運は2012年3月、プロジェクトの第一弾として、営業日報や配送実績作成など約400種類のシステムを廃棄した。2013年3月までに、残り1600のシステムを700~800種類にまで減らす計画だ(図)。

開発当時は無駄ではなかった
「え、こんなにあるの?」。プロジェクトを開始してまもなく、部下からの報告を見て野口部長は驚いた。COBOLやJavaで開発した既存システムを棚卸ししたところ、2000種類ものシステムが社内で運用されていたからだ。「多めに見積もっても、せいぜい1200種類かと思っていた」(同)。
もちろん、野口部長自身、「無駄になるようなシステムを作ってきたという意識はない。開発時点では、どれも必要不可欠なものだったはず」と言う。会社は右肩上がりで成長していたため、「システムを捨てる」ことの優先順位は高くなかった。「正直、システムを捨てることよりも、作ることに追われていた」(同)。
だが、状況は変わった。リーマン・ショックや急速な円高など経営環境は激変。先行きが誰も分からない時代になった。IT予算には限りがある。“攻め”を支える開発分野への投資を厚くするには、“守り”の既存システムをスリムにすることが不可欠。「このままシステムを放置したら10年先はない」(野口部長)。同社はプライベートクラウドを構築するのを機に、システムを“ダイエット”することを決めた。
6カ月使わないと「退場」
使わないものは捨てる──。当たり前のことなのだが、実践するのは難しい。システムの一覧表をユーザー部門に渡して「捨てるシステムをリストアップせよ」と指示しても、「どれも必要です」と回答するのが関の山だ。
「システムを作るときは、あれこれとユーザー部門が口を出してくる。だが、使わなくなっても自ら“捨てよう”とは言わない」(野口部長)。代わりにシステム部門が廃棄するシステムを提案してみると、今度は「ビジネスが止まったらどう責任を取るのか、と迫ってくる。正直、らちが明かなかった」(同)と言う。
そこで日本通運のシステム部門は、ある作戦に打って出る。全社一律の廃棄ルールを定め、その根拠となるデータを公表するという方策だ。そのルールとは、「6カ月以上使っていないシステムは捨てる」というものだ。
システムのアクセスログを分析したところ、約2000あるシステムのうち約400種類が該当した。それぞれを調べると、多くは既に業務で利用していないシステムだった。同社では顧客企業が個別の出荷対応や帳票を要望した場合、新たにシステムを構築して対応することが多かった。しかし、その顧客との取引関係がなくなってもシステムは残っていたのだ。
そして、野口部長はユーザー部門にこう理解を求めた。「システムは持っているだけで コストがかかる。それはみなさんの経費の一部になっている」。システムが利用されていないことを示すデータと廃棄ルールを公表したことで、ユーザー部門は400種類のシステム廃棄について納得した。
日本通運は2013年3月を目標に、さらに700~800種類のシステムを廃棄する予定だ。現在、そのルールを策定している。「スパッと線引きできるかどうかは分からないが、利用状況や維持コスト、事業の将来性といった明確なルールに基づいて取捨選択したい」と野口部長は説明する。
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