ユーザー企業からITベンダーに協業を仕掛け、ITを活用した新たなビジネスを生み出すケースが増えている。一例が2012年8月、印刷国内最大手の大日本印刷が日本ユニシスと資本提携を結び、筆頭株主となったことだ。日本ユニシスが持つクラウドや技術者、ノウハウといったリソースを活用し、様々なアイデアをビジネスとして実現することが目的だ。 「より深い提携に踏み込むことでシナジー(相乗効果)は出せる」──新たな協業モデルがITビジネスを変え始めた。
(西 雄大)
|

印刷国内最大手の大日本印刷は日本ユニシスと資本提携を結んだ。日本ユニシスの発行済み株式の27.8%を持っていた三井物産から18.9%分(議決権ベースでは22.08%)を2012年8月22日付で取得し、日本ユニシスの筆頭株主となった。大日本印刷が約114億円を投じて手に入れたかったのは、ITを活用した新たなビジネスを立ち上げるための推進力だ。
大日本印刷で交渉の窓口を担った森野鉄治常務取締役は「ITベンダーになるつもりはないし、ユニシスの経営に携わる気もない。証券アナリストからは『利益率の低い業界に投資してどうするのか』と言われた。でも我々の見方は違う。自分たちのビジネスに足りないリソースを提供してもらうために、出資は不可欠だった」と話す。
リソースを買った大日本印刷
大日本印刷が欲しかったリソースは大きく二つある。一つは、日本ユニシスが運営するクラウド基盤。もう一つは、基幹系システムの構築・運用ノウハウだ(図)。
大日本印刷では、これまでも自社でデータセンターを運用し既存事業を支えてきた。「データセンターを外部委託して管理することは当初から想定していない。」(システム開発を担うSI本部の真部秀毅本部長)という。データセンターへ入るには金属探知機チェックやポケットがない専用の服に着替えるなど厳重な体制をとっている。そのデータセンターで顧客企業から預かった帳票印刷や宛名印刷に使う個人情報や、電子書籍といったシステムを管理していた。
ただし、運用の効率化や可用性に課題があり、新たにIaaS(インフラストラクチャー・アズ・ア・サービス)が必要になった。「これまでポイントシステムやEC(電子商取引)サイト構築などを顧客企業の要望に応じて一品一様で対応してきた。今後、これらをIaaSに載せ、サービス化していきたい」(C&I事業部の千葉亮太副事業部長)。IaaSには、同社のホスティングサービス「Media Galaxy」も移行する予定だ。同社は、2007年にダイレクトメールの送付先として顧客企業から預かった個人情報を漏洩する事件を引き起こしている。そうした背景もあり、新たに調達するIaaSには、運用が容易であることに加えて、厳重なセキュリティが求められる。
こうした要件を満たしたのが日本ユニシスが持つクラウドである。プロビジョニングなどの自動化機能やディザスタリカバリーの仕組みなどを備える。「資本提携まで踏み込んだからこそ出してくれる技術もある」(森野常務)。
日本ユニシスは2008年にIaaSを開始。約5年間の運用で得られたノウハウが詰め込んである。「どこにも出さないと決めていたほど大事なノウハウ」と日本ユニシス 専務執行役員の角泰志U-Cloud事業部門長は話す。資本提携を結ぶことで「(大日本印刷には)全て開示するように(担当者へ)伝えた」とする。大日本印刷としては「IaaSの研究開発費ゼロでノウハウを譲ってもらった。IaaSを自前で構築するとしたら5年分の苦労が必要だったが、時間をかけずに済んだ」(森野常務)。
基幹系システムの構築・運用ノウハウも、大日本印刷にとって事業拡大に欠かせない。
続きは日経コンピュータ9月27日号をお読み下さい。この号のご購入はバックナンバーをご利用ください。