独創性やフットワークの軽さ、発想力――。大手にない強みを持つ異能のITベンチャーとタッグを組み、新たな事業やサービスを実現する企業が急増している。各社は、新ビジネスの決め手となったベンチャーをどう選び、活用に至ったのか。JTBやイオンなど6社の事例から極意に迫る。
(岡部 一詩)

「ベンチャー企業と付き合わないのはもったいない」。文具や家具の販売を手掛けるプラスジョインテックスカンパニーの伊藤羊一執行役員ヴァイスプレジデントは断言する。ベンチャーが生み出す新たな製品やサービスが、自社の競争力強化に欠かせないと考えているからだ。
同社が利用しているのはWebベンチャーであるgambaの日報共有サービスや、co-meetingが提供するテキストベースの会議サービス。新規プロジェクトのメンバーや経営幹部同士の情報共有に使用し、「意思決定のスピードが上がった」と伊藤執行役員は話す。ベンチャー関連のイベントに毎週参加するなど、今も伊藤執行役員は情報収集にいそしむ。
日経コンピュータ システム部長会の会員向け調査では、ITベンチャー企業を既に活用しているのは半数。「今後活用したい」を含めると9割近くに達した(図)。
ベンチャーを活用したいという意欲を持つ企業は着実に増えている。分野としては、Webとスマートフォン/タブレットが2強だ。
ユーザー企業が挙げる、大手にはないベンチャーの強みは大きく三つある。「独創性」「フットワークの軽さ」「発想力」だ。これらを生かしたユーザー企業6社の事例を見ていこう。
i.JTB フォルシア
ECの“命”を支える
「国内ではここしかない」。JTBグループのインターネット販売事業を手掛けるi.JTBの田村直樹システム企画部長は、検索エンジン「Spook」の開発元であるフォルシアの独創性を高く評価する。
「検索はEC(電子商取引)サイトの“命”」(田村部長)。ここを担うのがSpookだ。i.JTBが運営する「るるぶトラベル」とJTBのホームページにおける国内宿泊施設向けの検索に使っている。
Spookの強みは、利用者が指定していない条件の検索結果までを表示することだ。便利と思われる条件の検索を、言わば先回りして実行する。
例えば、るるぶトラベルで「日付」だけを条件として検索した場合、各地域ごとの宿泊件数などを同時に示す。これが利用者の使い勝手の向上と潜在ニーズの掘り起こしにつながり、「Spookを採用したECサイトは、軒並み売上高を1.5倍に伸ばしている」とフォルシアの屋代浩子社長は語る。
条件を絞り込んでいない領域の結果まで表示するのは、実は技術的なハードルが高い。データベース(DB)に格納した全データをリアルタイムに検索し、かつ素早く結果を取得する必要があるからだ。フォルシアは5年をかけてDB設計や検索ロジックの改良を重ね、Spookを実現した。
i.JTBはフォルシアの取り組みを評価し、Spookをいち早く採用。現在は、i.JTBを含む20以上の大手旅行会社のサイトが使う。従業員50人のITベンチャーが、大手ECサイトの命を支えているのだ。
続きは日経コンピュータ9月19日号をお読み下さい。この号のご購入はバックナンバーをご利用ください。