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 デジタル技術によって視覚や聴覚に情報を加えたり、除いたりして現実を変えるという表現手法。2008年後半から、携帯電話やセンサー技術を使ってAR(拡張現実)を実現する情報システムやサービスが登場している。場所や時間に応じてインターネットや企業情報システムから取得した情報を、携帯電話やヘッドマウント型ディスプレイ、プロジェクターなどを使い現実世界に重ねて表示する。

 携帯電話を利用するARアプリケーションとしてよく知られるのが、ベンチャー企業頓智ドットが開発した「セカイカメラ」である。iPhoneの画面上に、現実世界の様子だけでなく、その場所や時間に応じた追加情報を重ねて表示する(写真1)。利用者の近くにある店の情報や、ほかの利用者がその場所にひも付けて書き込んだメッセージなどだ。

写真1●頓智ドットの「セカイカメラ」は、現実に情報を付加するARアプリケーションの一つである
写真1●頓智ドットの「セカイカメラ」は、現実に情報を付加するARアプリケーションの一つである

 「重要なのは情報を重ねること」と、ARを研究する慶応義塾大学大学院メディアデザイン研究科の稲見昌彦教授は説明する。セカイカメラの画面では、テキスト文や写真などをあたかも現実空間に浮かんでいるかのように表示する。現実世界にない情報を、携帯電話が持つ通信機能や測位機能を利用してその場で補う仕組みになっている。店舗情報などはインターネットで調べることは可能だが、現実とは結びついていない。

 ARで扱う情報は臭いや音でもよい。「人の五感を通じてその場に合った情報を追加認識させることにより、リアリティ、つまり現実感を拡張させる」(稲見教授)。

 不要な情報を取り除くこともARの考え方に含まれる。例えば、街中の広告をAR技術を使って置き換えたとすると、表示する広告はその人の属性をターゲットにしたものに絞り込める。効果がない広告を省くことにつながる。

 今後は情報と現実世界がインタラクティブに動作する仕組みのAR技術が登場する可能性がある。稲見教授がアッパーオーストリア応用科学大学と共同で開発した「クリスタル」はその試作例だ。タッチパネル上に映像として表示した照明やオーディオに触れると、現実にある照明やオーディオを操作できる(写真2)。情報に働きかけることで、現実が変化するARである。

写真2●「情報」として表示された照明を画面上で操作することで、現実世界の照明の明るさなどが変わる
写真2●「情報」として表示された照明を画面上で操作することで、現実世界の照明の明るさなどが変わる