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 消臭芳香剤大手のエステー。看板商品「消臭力」のユニークなCMで注目を集めたが、事業の要は営業力と商品開発力だ。2009年4月に社長に復帰した鈴木喬氏は、その現場の力の衰えに危機感を抱き改革を進めてきた。改革に一応のメドをつけ、この4月に社長職を譲り会長職に専念する鈴木氏に、改革の成果やIT活用の在り方について聞いた。

鈴木 喬 氏
1959年3月に一橋大学商学部卒業、日本生命保険に入社。85年3月にエステー化学(現エステー)に出向し社長付部長。86年7月にエステー化学に入社し企画部長に就任。同年9月に取締役企画部長。98年9月に代表取締役社長に就任、営業本部長を兼務。2007年4月に取締役会議長兼執行役に就任。09年4月より現職。12年4月に取締役会会長兼代表執行役に就任予定。1935年1月生まれの77歳。(写真:陶山 勉)

営業改革に取り組んでいるそうですが、狙いは何ですか。以前「ITに頼り切って血の通ったコミュニケーションができていない」と発言したと聞いています。

 実は、社長に復帰してものすごく驚いたことがありました。研修として実施していた営業のロールプレイング(疑似商談)ですが、かなり前からやらなくなったというのです。先輩の営業が後輩に担当を引き継ぐ際には、血の通ったアドバイスが必要なはずなのに、それもない。

 代わりにPCの画面上でそんなことをやっている。びっくり仰天です。人間を忘れている。そう思いました。もう痛恨事です。

 そこで、2010年10月から東京支店で、営業の意識改革や行動改革を目指す「エステー・リフォーメーション」を始めました。そうしたら、結構調子が良いのです。営業の諸君もみんな、人間同士の触れ合いが欲しかったのですな。結局のところ、人間が好きで好きでしょうがないという人が、営業をやれば成功するのですよ。理屈なんてありません。

営業が本来の姿を取り戻した

実際に目に見える成果は上がっていますか。

 実は東日本大震災の後、経営企画が会社の将来をシミュレーションしたのですが、最悪のケースでは会社の存続が危うい。一番いいケースでも、大幅な減収減益でしばらくは立ち直れないとのことでした。

 私はこれを聞いて、エステーは大丈夫だと思いました。分析が好きな連中が「悪い」と言えば、そのときが底でだいたいは良くなるものですから。

 ただ、三つの工場のうち福島工場が1カ月間操業停止に陥り、埼玉工場も満足に稼働できず、商品が不足していました。サプライヤーも「半年は出荷できない」と言っていました。春のプロモーションを全部やめ、営業停止状態です。そんな状況を乗り切れたのは、改革に取り組んでいたからだと思っています。東京支店が引っ張ってくれたのです。

 彼らは、これまで売れないで大量の在庫になっていた商品を売ってくれました。私はいつも「売れない在庫をさばけ」と言い続けてきましたが、普段はやはり売れるものからしか売ろうとしません。今回は、彼らが自発的に考え、売る工夫をしました。危機感から営業本来の在り方を取り戻し、自信を持ってくれたのですね。

 これならいけるということで、改革を他の営業部や支店にも広げます。4月から全国に拡大していこうと考えています。

営業の意識改革や行動改革のエッセンスは何ですか。

 要は、人に会え。営業は会っているつもりなのでしょうけど、得意先は会ったと思っていない。相手の心を動かさないと、会ったことになりません。「あいつが来たらしょうがねぇな」と思わせろということです。

 我々の商品のようなコモディティー(日用品)では、他社と違いを出すのは営業の人間力です。PCで資料を一生懸命に作ったところで通用するわけもありません。広い意味でのコミュニケーション力をもっと付けないといけないのです。

商品化の判断は「私の勘」

鈴木 喬 氏
(写真:陶山 勉)

「デザイン×フレグランス革命」をスローガンに商品力の強化にも取り組んでいますね。

 口で言うのは簡単なのですが、今あるものと同じような香りやデザインの商品を出していてはダメです。新商品のヒット率は一般に20%ぐらいで、すごく低いのです。新商品のヒット率を上げようと思って厳選すると、開発担当者が萎縮してしまって、新商品が出なくなってしまいます。ですから、だいたいのところで素早く決断しなければいけません。

商品化を決断する際に、どういったことを判断基準にしているのですか。

 私の勘。

POS(販売時点情報管理)データなどを活用してニーズの変化を把握したうえで、商品化の是非を検討すべきといった声は上がりませんか。

 いますよ。データが大好きな社員が大勢います。ほとんど全員と言ってよいかもしれません。ですから私は「勉強のしすぎで、おかしくなっているぞ」と言っています。「世にないことをやる会社」がエステーです。世にないことが、POSデータのなかにあるはずはないのです。

 もっともらしいマーケティングを、私は全く信じていません。全て後講釈ですから。買ってもらいたいという思いが強い者が成功するのです。その思いが弱いと、いくらデータや理屈を付けても永久に成功しません。

そうすると、情報システムやそのデータは基本的に信用しないのですか。

 実は、私はデータをものすごく読み込んでいます。ただし、自分の足で稼いだ実感と組み合わせて立体的に考えているのです。例えば在庫もデータで見るだけでなくて、物流センターの中を歩き回って、ほこりが付いているかどうかなどを確認しています。そうでないと本当のことは分かりません。

 マーケットシェアについてもデータを頼りにしますが、それだけではありません。店舗を徹底的に回って、自社製品とライバル製品の実勢価格を見ています。それに、それぞれの製品がどこの棚に置いてあるか。データだけでは本当のことが見えてきません。

フマキラーやNSファーファ・ジャパンに出資しています。資本提携の狙いは業容拡大ですか。

 業容拡大という意味ではありません。海外展開では多くの日本企業がそうであるように、エステーも今まで輸出という概念から抜けられずにいました。でもこれからは、外国、特にアジアに出ていって、その国に適したものを造り商売をする。そういう企業にならないといけません。

 ただ、自社だけの力では限界があります。この資本提携を「ジャパン連合」と名付けているのですが、日本企業同士で手を組んで展開しようというわけです。実は、フマキラーはインドネシアで殺虫剤のトップメーカーなのです。そのフマキラーの協力を得て、エステーもインドネシアに本格進出できればと考えています。

 国内向け製品の共同開発も進めています。例えばエステーの消臭剤にフマキラーの忌避剤(虫除け)を組み合わせて、「ゴミ箱の消臭力」として商品化しています。

新社長を外部から招く理由は何ですか。

 企業が不振に陥る原因を考えてみると、だいたいはしがらみです。企業は世の中の先を行かないとダメで、世の中の変化に対応するなんて寝言を言っていたらつぶれてしまいます。でも、しがらみが多いとうまく動けません。ガラガラポンをやるには、社外の人間のほうがよいのです。

IT投資は儲かるかどうか

鈴木 喬 氏
(写真:陶山 勉)

IT投資については、どのように考えていますか。

 最小のコストで最大のパフォーマンスを上げようと思っています。時々ITベンダーが売り込みに来て、この世の全てを分かるようにしてやるみたいなことを言いますが、一切聞かないことにしています。それよりも、IT投資でいくら儲かるかです。

 例えば27年前に共同でプラネット(EDIなどの運営会社)を設立したときには、我々も人や金を出しました。こういう投資は大好きですよ。それと、震災などに備えてバックアップセンターも随分前につくりました。リスクを抑えるための投資は不可欠ですから。

システム部門にはどのようなことを期待していますか。

 1月付でシステム部長に女性を起用しました。彼女には孫悟空みたいに如意棒を出して雲に乗れとは言いません。会社がうまく機能できるようにするのがシステム部門の役割だと思っています。実際エステー・リフォーメーションの一環で、営業向けのモバイル端末の導入などを進めてもらっています。