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 ソフトウエア開発の「近代工業化」を目指し、効率化や品質向上を図る。2008年に新日鉄ソリューションズの初代フェローに就いた大力修氏は約20年にわたり、この目標に向け追求を続ける。オブジェクト指向やクラウドなど新技術にいち早く着目し、実際のビジネスにつながる技術の研究や開発に今もこだわる。

新日鉄ソリューションズでの初のフェローとなりました。

 役割は大きく社内的なものと、社会的なものがあります。社内ではラインを持たず、自由な立場から全社の技術的な問題について指導や助言をしています。以前から私が中心に進めてきた「ソフト開発の工業化」は、そのなかの主要なテーマの一つです。

 社会的な面では、技術分野での対外的な「会社の顔」となり、社会貢献に近い活動をしています。日本経済団体連合会(経団連)の人材育成部会や大学の客員教授など、次の世代を育成するための活動が多いですね。

ソフト開発の近代化には、20年近く取り組んでいます。きっかけは何ですか。

 製鉄所に勤務していたときの経験が大きいですね。若い頃に、世界初の鋼板全自動圧延システムの開発に関わりました。これがかなりの難物でしてね。加熱した鉄の塊を圧延機で延ばす工程で、温度や圧延する力の加減、鉄の動かし方などに関する複雑な計算を、10秒程度で終えなければならなかったのです。

 この計算制御ソフトを開発しつつ、周辺の小さな計算機など、様々なサイズのコンピュータを管理していました。全部やっていると寝る暇もないくらい忙しい。「ソフトを作るのは手間がかかり過ぎる」と経験的に思いました。

 きっかけはもう一つあります。経営多角化のために新規事業を企画したとき、「ソフト分野にすべきだ」と考えたことです。

 当初、新日本製鉄は新規事業として計算機など多様なハード製品の開発を考えていました。しかし、ハードを作るには、部品や部材ごとに専門の技術者が必要です。鉄のことしか知らない我々には難しい。だから、新規事業をやるならハードじゃなくてソフトだと。さらに後発でソフト分野の事業に参入しても特徴を出せるようにするために、ソフト開発の近代化・工業化が必要だと主張したのです。

その目標は達成できましたか。

 2010年に「NSSDCクラウド」と呼ぶ全社で共用できる標準的な開発環境を作りました。これが目指してきたソフト開発の近代化の姿に近いといえます。

 開発やテスト環境、標準化したプロセス管理ツールなど、ソフト開発に必要な部品やツールの一式がそろった「工場」をクラウドで利用できるようにしました。

まだ「近代工場」とは呼べない

(写真:的野 弘路)

 これまで約20年にわたり、研究と試行錯誤を繰り返してきましたが、まだ発展途上です。

 NSSDCクラウドはソフト開発の「工場(こうば)」ではありますが、自動化された「近代工場」とはまだ呼べません。

何が不足しているのですか。

 近代工場では、統計的なデータに基づくプロセス改善が欠かせません。工場における開発プロセスのデータを蓄積して分析し、その結果をプロセスや機器の改善に生かすわけです。

 NSSDCクラウドで、開発で使うソフト部品やツールなどは共通化できました。しかし、利用状況のデータを蓄積して分析し、より効率的に改善する仕組みはまだこれからです。

 2012年度から、この取り組みに本格的に着手します。現在はNSSDCクラウドのユーザーが1万人くらいになり、常時300程度のプロジェクトが動いています。こうした活動を通じて、様々なデータを蓄積してきました。これを統計処理してプロセス改善につなげていきます。

ソフト開発の近代化に向けて新技術を積極的に採用してきました。技術を見極める勘所は?

 大切なのは、「将来的にどのようなビジネスや事業をするか」から逆算して考えることです。すると、必要な技術が自然と見えてきます。「技術的にはすごいけど、うちの会社ではどんなビジネスができるのか」という話は結構ありますからね。

 オブジェクト指向を選んだのも「ソフト開発を新規事業として展開するに当たり、使える技術だ」と感じたからです。新規事業で他社と差異化するには、ソフト開発の近代化が欠かせない。それには、誰でも標準的なものが作れるプレハブの家のように、ソフトを開発できる必要があったのです。

 その実現には、ソフトの部品を用意するほか、部品の規格化や標準化を進めていく必要があります。複数の機能を独立して開発でき、再利用も可能なオブジェクト指向はそのコンセプトに合致していました。

 まず出口になるビジネスをイメージして、その実現にはどんな技術が必要かを考える。こうしたアプローチが、今後はますます重要になると思います。

マネジメント能力が重要に

現在はどのような活動に力を入れていますか。

 経団連の高度情報通信人材育成部会では、戦略企画チームの座長を務めています。IT企業だけでなく、製造業や金融など幅広い業界の企業が、高度IT人材の育成について悩んでいる。部会では、その解決方法を議論しています。

 秋田大学の客員教授もしていて、技術を教えるというよりは、大学でどういう勉強をするべきかについて講義しています。技術を学ぶ以前に、そもそも今の大学生は勉強をしていない。このままでは海外の学生に負けるぞと発破をかけています。

今後はどんなIT人材が必要になると思いますか。

 ITの専門性は必要ですが、自分で実際にシステム設計ができるのが基本です。その上で、他の分野の専門家と話ができて、その人たちを巻き込んで大きなプロジェクトを率いたり、ビジネスを作ったりできる人材が理想ですね。いわゆる専門バカではなく、異分野の専門家とも協調してリーダーとなれる人材です。

 今後のIT人材はマネジメント能力やリーダーシップがさらに重要になります。人を率いてビジネスを生み出せるようでないと、必要な技術を見極めることもできません。

(写真:的野 弘路)
ソフト開発の「近代化」を推進

 メインフレーム全盛の時代からオープン化・分散化、Webへと業務システムにおける技術的なトレンドが変わるなかで、大力氏が必要と感じたのがソフト開発を近代化・工業化することだ。システムを、属人的にゼロから作り上げるのではなく、標準的な部品を用意しておき、それを組み合わせていくことで大規模システムの短納期化や低コスト化を目指した。

 それを実現したのが、2010年に完成した「NSSDCクラウド」と呼ぶ、ソフト開発環境だ。仮想化技術による開発・テスト環境の柔軟なアサインが可能で、ソフトの部品やドキュメント、ワークフロー管理など、標準化したプロセス管理ツールもそろえる、まさにソフト開発の工場となっている。プロセス改善の仕組みまで実装できれば、大力氏が目指す「ソフトの近代工場」に限りなく近くなる。

大力 修
新日鉄ソリューションズ フェロー
大力修氏は1975年、東京大学 大学院 精密機械工学専攻 修士課程修了。新日本製鉄に入社し、1996年4月にシステム研究開発センター所長に就任。2001年4月に新日鉄ソリューションズ取締役。2005年4月に常務取締役となり、2008年6月から現職。