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 仙台市に本社を置くアイリスオーヤマ。ホームセンターなどで販売する日用品の開発・生産を手がけ、今や東北地方を代表する企業だ。現在の商品数は1万4000点に及び、「選択と集中」を是とする他の製造業と一線を画す。そうした“冗長度の高い”経営をITが支え、営業利益率は9%を超える。震災でも高い復元力を見せつけた。大山健太郎社長にその秘密を聞いた。

大山 健太郎 氏
1964年3月に大阪府立布施高等学校を卒業。同年7月に父親の急死で家業を継承。大山ブロー工業所代表者に就任。71年4月に大山ブロー工業への法人化に伴い代表取締役社長に就任。89年12月に本社を仙台市に移転。91年9月に大山ブロー工業をアイリスオーヤマに社名変更。1945年7月生まれの66歳。(写真:尾苗 清)

2011年12月期は、売上高が1000億円と過去最高でした。LED照明の販売も好調ですね。

 一般に製造業のものづくりは足し算です。原材料、加工費と積み上げて原価となり、販管費を加え利益を乗せ価格を決める。正しいマネジメントですが、そうするとLED電球なら4000円になってしまいます。

 当社の場合は、常に「ユーザーイン」、つまりエンドユーザーの立場で、いくらなら買うかと考えています。LED電球は2000円で発売しました。電球をLEDに交換すると電気代が安くなり、2000円だと1年で元が取れる計算だからです。そういう発想で造るから、LED電球で国内トップシェアを取れたのです。

 なぜできるのかと言うと、部品も内製する垂直統合モデルであり、かつ卸も兼ねる「メーカーベンダー」の業態をとっているからです。部品メーカーから部品を買うと、調達費のなかに部品メーカーの営業コストなどが含まれますが、我々のやり方なら余計なコストは不要です。それに流通面でも無駄な経費がかかりません。

 現在、商品は1万4000アイテムに及びます。商品ごとに競合はいますが、我々のような業態の企業は世界に1社もありません。

アンチ「選択と集中」、ITが支える

無駄なコストが無いと言っても、それだけの多品種では利益を取ることが難しくありませんか。

 そこが他社と根本的に違うところです。製造業は原価を下げるため生産設備の稼働率を重視します。当社は逆に稼働率をあまり高くしません。我々のビジネスは欠品との戦いです。雪が降れば雪に関連する商品があっという間に足らなくなる。ですから想定外に備え、需要を吸収できなくてはいけません。

 もちろん、スタートアップ企業がそんなことをしたら利益を取れず資金も回りません。でも我々は長く事業を行ってきました。工場には余裕があり、償却はほぼ済んでいます。作業員も多能工。ですからLED照明を増産した際も大きな投資はしていません。

選択と集中の逆張りですね。

 確かに選択と集中は効率が良い。でも、今の家電メーカーのように強力な競合が現れると大変です。供給過剰になると、原価に関係なく価格がどんどん下がってしまいますから。我々の場合は、柱をたくさん持っているのです。商品に競争力が無くなれば、すぐにストップをかけられます。

 工場も同じです。なぜ国内に八つも工場を抱えているのかとよく聞かれますが、物流センターも兼ねていることが理由の一つ。ただ、供給責任を果たす意味合いのほうが大きいです。実際、東日本大震災で本社工場が被災したときも、ほかの工場がカバーしました。

 それに普段は物流コストが効いてきます。我々は物流も含めてトータルでコストを見ています。分散している分だけ製造部門は高コストかもしれませんが、全体で見るとペイするわけです。

 金型を移動させるなどの工夫もしています。売り上げに基づいて各地の需要を予測し、前もって金型を必要な工場に送り、必要量を造って在庫しておくわけです。当然、情報システムも不可欠です。コンピュータが無ければ、当社のような事業はできなかったと思います。受注から生産・出荷まで完全にシステムで管理しています。

ITでは値ごろ感は分からない

大山 健太郎 氏
(写真:尾苗 清)

商品開発に熱心ですね。全売り上げの6割を発売後3年間以内の商品が占めると聞いています。

 常に新商品を出し続けています。商品は過去のデータではなく、人間の欲求から生まれます。開発者には生活者の視点で発想しろと言っています。ペット用品の担当であれば、ペットを飼ってみろというわけです。

 それにITで値ごろ感は分かりません。「生産者は原価を知っている。消費者は高いか安いかを知っている」。私はそう話しています。ですから、生活者の視点で考える必要があるのです。それこそがユーザーインの発想です。

ユーザーインは、他社が言うマーケットインと違うのですか。

 マーケットインは売る人のために売れる商品を造ろうという発想です。当然、横並びの商品ばかりができてしまいます。マーケットは「値段が同じなら機能を一つ増やせ。機能が同じなら値段を下げろ」としか言いませんからね。

 一方、ユーザーインは、自分が使うためにお金を払う人の視点。マーケット調査は必要ですが、生活者としての自分の感覚や感性のほうが大切なのです。iPhoneも、スティーブ・ジョブズが自分の感性で、自分の欲しいものを、自分が値ごろだと思う価格で造ったのです。我々の商品はコモディティー(日用品)の最たるものですが、発想はiPhoneと同じです。

 今、新商品の65%がヒット商品です。まさにユーザーインがうまくいっています。そうでなければIT企業でもないのに、売り上げの6割を発売後3年以内の商品で占めることなど不可能です。

米国や中国など海外展開も進めていますが、国内と同じ手法でやっていけるものなのですか。

 海外でも基本的なマネジメントは同じです。ただし、海外向け商品の開発も日本で行っています。サイズなど細かなニーズは各国で違いますが、うまく回っているので、開発拠点を海外に設置する予定はありません。

震災では工場を迅速に立て直し、BCP(事業継続計画)を立てる上でのお手本と言われました。

 重要なのは経営トップが現場にいて、情報を共有し、明確な方針を示すことです。私は震災時に千葉の幕張にいましたが、2日かけて戻りました。

 被災者を救援するか、工場の復旧を優先させるのか、迷いましたよ。人道面では被災者救援だと思いますが、もっと大きな意味の人道の見地から、商品を被災者に提供することが大事だと判断したのです。でも、社員には不満が残りました。ほかの人が救援活動をしているのに、自分だけ会社に行くと言えないじゃないですか。そこで3億円を宮城県に寄付し、社員が胸を張って出社できるようにしました。こんな判断は経営トップしかできません。

震災でシステム停止は想定内

大山 健太郎 氏
(写真:尾苗 清)

情報システムのバックアップもうまく機能しましたね。

 あの件は想定内です。間違いなく30年以内に宮城県沖地震が再び発生すると言われていましたから。本社工場に置くシステムが動かなくなっても、顧客に迷惑を掛けることは絶対にできないので、西日本にバックアップセンターを置いたわけです。システムの切り替えには半日かかってしまいましたが、それにより事業継続が可能になりました。

最近は、社員のPC利用を制限しているそうですが。

 共用机のPCに各人がログインして利用する形にしています。PCの利用時間も1時間のうち45分に制限しました。残り時間はフェース・ツー・フェースのコミュニケーションなどに当てるようにしています。実は以前、当社も米国流に社員の机をパーティションで囲ったのです。そうしたら、狙いとは逆に生産性が下がってしまった。結局パーティションを取り払いましたが、誰もが朝からPCにしがみつき、社内に会話がありません。そこで今のような形に改めたのです。

反発は無かったのですか。

 ありましたよ。効率が悪く仕事にならないとね。でも実は、社員の机からPCを撤去したとはいえ、昨年までは一人一台の体制でした。今年はそれもやめました。PCを強制的に2割減らしたのです。つまり100人につき80台にした。もう不満が噴出です。

 ただPCが少なくなると、PCが空くのを待っている人がいるわけですから、誰もがPCでの仕事を素早く済ませるようになります。あとは頭を使ったり、コミュニケーションを取ったりしようというわけです。PCの前に座っていたら、知恵など出てこないですからね。