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 スポーツ用品専門店のアルペンが、約20億円を投じて販売管理システムを刷新した。本社と約370店舗が利用するデータベース(DB)を、ハードディスク型からインメモリー型に切り替えたことが特徴だ。DBの開発ベンダーと共同でDBエンジンの機能を追加・改良したことで、店舗の生産性を高めつつ障害にも強い「ストレスレス」なシステムを完成させた。

 スポーツ用品専門店で国内最大手のアルペンは、約370店舗の販売管理システムやPOS(販売時点情報管理)端末を全面刷新した。新システムへの移行は2011年8月に完了。稼ぎ時のウインタースポーツシーズンもトラブルなく乗り切ることができた。

 新システムの特徴は、メモリー上でデータを管理するインメモリー型のデータベース(DB)を採用したことだ。約20万アイテムの商品データや在庫データ、販売データなどを素早く検索・分析できるようにし、顧客ニーズに即応できる調達・販売を可能にした。

 POS端末などの周辺機器を含めた総投資額は約20億円(本誌推定)だ。サーバーやDBのライセンス、システム構築に投じた費用は、総投資額の約3分の1(7億~8億円)とみられる。

 同社は年間のIT予算を明らかにしないが、流通・小売業のIT予算は売上高の約0.7%(日本情報システム・ユーザー協会調べ)だ。アルペンの連結売上高は1898億円(2011年6月期)なので、年間予算内でビッグデータ時代に対応したシステムを手に入れることができた。

 店舗業務や調達・発注業務、システム運用といったあらゆる面において、「ストレスを感じさせないシステムを目指した」。竹中正和情報システム部長は、システム刷新の狙いをこう語る。

データ量の増大に対応

 アルペンが販売管理システムを全面刷新したきっかけは、システムの老朽化だ。2003年に構築した旧システムは、データ量の増大による処理性能の低下が問題になっていた。

 同社は2006年にプライベートブランド「IGNIO(イグニオ)」を創設。最近は電動アシスト自転車などライフスタイル分野にも進出するなど、取り扱い商品数を急増させてきた。その一方で、在庫の検索処理や商品発注のバッチ処理などの時間も長くなっていた。

 販売管理システムを全面刷新した効果は、導入後すぐに表れた。その一つが、店舗における顧客対応がスムーズになったことだ。店頭では従業員が携帯するハンディ ーターミナルを使って、瞬時に自店や他店の在庫を照会できるようになった(図1)。

図1●アルペンが構築した新システムの利用シーン
店舗のハンディーターミナルなどから自店や他店、倉庫の在庫状況を把握できる。サーバー側でインメモリーDBを使っているため、検索結果は瞬時に表示される
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 従来はバックヤードのPCなどで調べる必要があり、システムの応答が遅いと顧客を待たせてしまう。「店舗の従業員がストレスなくシステムを使えるようにすることが、顧客サービスの向上につながる」と情報システム部の尾林寿隆システム開発グループチーフは説明する。

 システム部員の負担も軽減された。休日や年末年始などは、発注情報などを集約するバッチ処理が重くなる。システム刷新前は、「翌日の店舗運営に支障を来さないように、優先順位に応じてバッチ処理の順番を組み替える必要があった」(尾林チーフ)。新システムでは、従来の3分の1の時間で処理できるため、そういった作業は不要になったという。

インメモリーDBを採用

 アルペンが採用したインメモリ ーDBは、ITベンチャーの高速屋が開発したDB「高速機関」である。高速機関を搭載した店舗サーバーを約370店と、データを束ねるデータセンターの統括サーバーにも採用した(図2)。

図2●アルペンが構築した新システムの概要
在庫管理や発注情報を管理するシステムを刷新。インメモリーDBを採用することで、検索処理やバッチ処理の時間を短縮した。店舗システムは国内にある約370店舗すべてに配備
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 高速機関は独自のデータ管理構造によって、メモリー上でデータを高速に検索・更新できる特徴を持っている。「大量データ処理に向いている。ハードディスク上でもデータや更新ログを管理するため、電源を落としてもデータが消えない利点もある」と、高速屋の木下政利執行役員は説明する。

 とはいえ、インメモリーDBはデータ分析の専用システムで利用するのが一般的だ。在庫管理や販売管理といった小売店の基幹業務で、本格的に採用する例は珍しい。インメモリーDBの採用を決めた前・情報システム部長の吉川真人氏(現在は商品統轄部SCM推進グループ)は、「データ量の増大に合わせて、サーバーを増設するような対症療法は避けたかった。採用する技術を根底から変えることで、新しい展開が見えてくるのではないかと考えた」と説明する。

 高速屋の先代社長でDBの開発者でもあった故 新庄敏男氏の「誰も作ったことのない企業システムを作りましょう。データベースの改良など、協力は惜しみません」という言葉も、インメモリーDBの採用を後押しした。

 採用に向けてアルペンは、約1年をかけて、高速屋と共同で技術検証を進めた。更新処理中にわざと電源を落としたり、検索・更新処理の負荷をかけたりするテストを行い、性能や信頼性などを検証した。

 実はこの間、アルペンは別のITベンダーにもシステム刷新の提案を募っていた。しかし、どのベンダーの提案も、有名なDBソフトを採用した旧システムと似たような構成だった。検証作業で問題が見つからなかったこともあり、アルペンは高速機関の採用を決めた。

アプリを流用するためDBを改良

 アルペンは販売管理システムの刷新を検討している段階から、「店舗などの業務プロセスは変えない。アプリケーションの機能も変えない」ことを前提にしていた。システムの処理性能は遅くなっていたが、アプリケーションの機能そのものに問題はなかったからだ。アルペンは日立システムズの小売業向けパッケージ「HITRMD」をベースに、在庫管理や販売管理のアプリケーションを独自に作り込んでいた。

 とはいえ、アプリケーションに手を加えずに、DBだけを入れ替えることは簡単ではない。特にインメモリーDBの高速機関は、旧システムで使っていた米パーベイシブ・ソフトウエアの「Pervasive(旧Btrieve)」との互換性はなかった。汎用的なDB操作言語「SQL」を使えるものの、処理性能を上げるには高速機関独自の命令をプログラムに組み込む必要もあった。そこでアルペンは、アプリケーションとDBの間にデータ交換用のインタフェースを組み込むことで、互換性などの問題を解消した(図3)。

図3●既存のアプリケーションを流用する工夫
在庫管理などのアプリケーションはそのまま温存し、データベース(DB)だけを変更。既存のアプリケーションのコードを変えず、DB側の機能追加・変更で対応した
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 インタフェースの開発は、旧システムを構築した東和システムが担当した。DBへの処理命令やデ ータを高速機関用に変換するプログラムを開発した。処理性能を高めるために、約100個のストアドプロシージャ(一連の処理手順をDB側に作り込んだコード)も新たに開発し、高速機関に組み込んだ。

 システムの処理性能を高める機能もDBに追加した。高速機関はもともと、一つのインスタンス内では同時に一つの検索・更新処理しかできない仕様だった。これだと約370店舗の在庫データなどを統括サーバーに集約する際、待ち行列が発生してしまう。そこで一つのインスタンスで、複数の検索・更新処理を同時に実行できるようにした。大量データを一括更新するため、CSV形式のファイルを介して高速機関とデータを交換する機能も作り込んだ。

全店配備でBCPを強化

 新システムでは、BCP(事業継続計画)も確保している(図4)。「ネットワーク障害などが起きても、店舗が自律的に動けるにようにするため」(竹中部長)に、高速機関を搭載した店舗サーバーを約370店舗全てに配備した。

図4●新システムでのBCP対策
各店舗のデータは15分おきに本社のデータと同期する。ネットワーク障害が起きても、店舗単独で業務を継続できる
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 アルペンの場合、システムを刷新したことで、性能的には本部の統括サーバーだけで各店舗のデータを管理することは可能だ。Webブラウザーなどから操作するセンター集中型のシステムを構築することも不可能ではない。

 しかし、アルペンは集中型システムを検討しなかった。「落ちないネットワークは存在しない」(尾林チーフ)との考えからだ。オーバースペックのシステムにも見えるが、BCPを最優先で考えた結果だ。

 商品や在庫などのデータは、本社のデータセンターにある統括サーバーと15分おきに同期をとっている。仮にネットワーク障害が起きても、それまでのデータを基に店舗の業務を継続することができる。通信が回復した段階でデータの差分を更新すれば、店舗システムは復旧する。

 「瞬断を含めると1日5~10店舗のネットワークが切れている」(尾林チーフ)のだが、分散型のシステムにしたことで業務に支障を来すことなくシステムを運用できている。

 ストレスレスを目指したシステム刷新は、従業員の姿勢も大きく変えた。システムに対する不満ではなく、「こんな機能を追加したい、といった前向きな要望が寄せられるようになった」と竹中部長は語る。

 例えば、現在のハンディーターミナルでは在庫照会しかできないが、「端末から即座に発注できるようにしてほしい」といった要望が寄せられている。こうした従業員の声を取り入れながら、アルペンは全社の情報活用度を高めていく計画だ。