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 「ネットの検閲かもしれない謎の通信遅延が発生」、「人民解放軍が守るデータセンター(DC)がある」─。中国でいち早くDCの利用を始めた日系企業からは、驚きのエピソードが飛び出す。中国へ進出する日系企業が相次ぐなか、現地の業務システムを安全に管理・運用するDC探しに乗り出す企業も増え始めた。だが、中国でのDC選びは日本と同じというわけにはいかない。先行ユーザーのノウハウを学ぼう。

 「中国での拠点が増えて事業も大きくなると、それなりの規模のシステム、運用体制が求められる。信頼性やセキュリティ向上のため、中国でもDC利用が必要になるタイミングだ」。主要拠点の複数システムを統合し、中国のDCへの移行を計画する住友電気工業の奈良橋三郎情報システム部長は、こう話す。

写真1●2012年4月に開業した富士通中国華南データセンター
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 日本貿易振興機構の調べでは、中国へ進出した日系企業は既に2万2000社を超える。住友電工のように今後、中国での事業規模や拠点数の拡大が進めば、現地のDCを利用し始める日系企業が増えるのは間違いない。こうした需要拡大を見込み、日系IT企業も相次いで、合弁企業の設立や業務提携を通じ中国でDCサービスの提供を始めている(写真1)。

表●中国でデータセンターサービスを提供している主な日系IT企業
現地企業と合弁会社を設立して自らサービスを提供するパターンと、現地企業と提携し場所と設備を借りてサービスを提供するパターンがある
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 ユーザーにとって、中国でDCの選択肢が増えてくるのは好ましい。だが、商習慣や規制など事業環境が異なる中国では、たとえ日系IT企業が絡むDCであっても、日本の常識では選べない。実際に、「やはり中国のネットワーク環境は特殊だ。日本だけでなく、他の国とも全然違う」とマクロミルの成瀬浩二執行役員は話す。先行ユーザーは何に着目して中国でDCを選んだのか、3社の事例を見ていこう。

これが噂の検閲?
謎のネット遅延を教訓に

 「もう遅延問題で悩まなくていいように、ネット環境が充実しているDCを重視した」。TISが天津で提供するDCを、2011年秋から利用し始めたマクロミル。中国でのDC選定などを担当した同社の成瀬執行役員はこう打ち明ける。TISのDCは、三つの通信会社のネットワークを、自動的に切り替えて使えるようにしてある。ネット環境にこだわってDCを選択した理由は何か。背景には、中国でのサービス提供に乗り出した際の失敗がある。

 ネットによる市場調査サービスを手がけるマクロミルが中国で事業を開始したのは2011年7月のこと。当初は、シンガポールにあるDCで提供されているパブリッククラウドサービス「Amazon Web Services(AWS)」を使い、中国用の調査システムを構築。これを利用して中国でサービス展開することにした。

 しかしサービス開始から1週間後、不可解な事象が起こり始めた。上海の拠点からシステムを利用していると、レスポンスが極端に悪くなったのだ。操作のたびに1分以上待っても応答がない状態が続く。同時間帯、試しに日本からシンガポールのシステムに接続してみると問題なく使えた。原因不明の遅延は一晩続き、夜が明けると正常に戻っていた。

 その後、AWSに問い合わせたり、構築したシステムを調査したりしたが、いずれも不具合は確認できなかった。だが、さらに1週間後に、レスポンスが数分かかる事象がまたもや発生した。これでは迅速さが命のネット調査サービスの提供に支障を来す。

 「クラウドサービスやシステムに問題はなかったので、中国とシンガポールの間のネットワークのどこかがボトルネックになっていたとしか思えない。やはり検閲されて遅延していたのだろうか」と成瀬執行役員は首をかしげる。この遅延問題から逃れるためには、もはや中国内に調査システムを置いて使うしかないと決断した。

 そこで始めた中国内のDC選びでは、冒頭で述べたようにネット環境を最重要視。それ以外には、中国政府や自治体などとコネクションを持っているかどうか、パブリッククラウドを提供しているDCなのかどうかを選択のポイントとした(図1)。

図1●TISが提供する天津のデータセンターを選択したマクロミル
中国で展開するネット調査サービス用のシステムを構築するために、中国のDCを2011年9月から利用開始。TISが天津DCに用意するクラウド環境に、仮想サーバー約10台を使いシステムを構築した
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 マクロミルは2011年8月に、TISが提供する天津のDCのクラウド環境の利用を開始。中国向けの調査用システムをAWSのシンガポールにあるDCから移行した。2011年9月から中国での調査サービスを再開。中国内のDCへ移行してからは、システムからのレスポンスが数分もかかることはなくなった。ただ、不自然な遅延や一時的に通信速度が低下する現象は時折、発生しているという。

人民解放軍が護衛する
DCなら安心だ

 住友電工は2012年秋から上海のDCを利用する計画だ。中国に進出しているグループ会社のうち20社程度を対象に、各社が個別に構築・運用している生産管理や販売管理、会計など業務システムを統合し同DCに集約していく。

 選択したのは、NTTコミュニケーションズ(NTTコム)がチャイナテレコムの設備を借りてサービス提供する上海のDCだ。日系や米国系IT企業が中国で提供する複数DCを候補に選定を進めていたが、決め手となったのはセキュリティの高さだった(図2)。

図2●NTTコミュニケーションズの上海のデータセンターを選択した住友電工
中国に展開するグループ会社約20社が個別に構築している業務システムを集約するために、DCを利用開始予定。統合した基幹系と情報系システムのサーバーをDCにハウジングする
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 NTTコムがサービス提供している上海のDCの一つを、選定の最終段階で視察した2012年1月のこと。そのときの光景が、担当者である戎嶋一郎 情報システム部システム技術グループ主席の目に強烈に焼きついた。「敷地の入口と建物の入館チェックをしているのは軍隊じゃないか」─。

 関係者に理由を聞くと、明確には答えないものの同DCには中国政府が使う業務システムが設置してある様子だった。DC事業者としてのセキュリティ対策に加え、中国人民解放軍が護衛するこのDCは、中国内では最高レベルの安全性を確保していると考えた。最終的に、もう一つの候補となっていた日系IT企業X社が提供する上海のDCサービスより、セキュリティレベルが高いとの判断に至る。

 NTTコムのDCと同時期にX社のDCも視察。X社のDCでは敷地内へ入るためのチェックはなく、自由に建物の近くまで行ける状態にあった。さらに建物自体には入館チェックがあるものの、中に入るとDCとは思えないくらい多くの人がいた。「たまたま出入り業者や視察が多かった日なのかもしれないが、あれほど人が多いDCは見たことがなかったので違和感があった」と戎嶋主席は振り返る。

 当初の検討段階で候補となっていたのは、NTTコムも含めた日系IT企業3社と、米国系IT企業が中国企業との合弁で提供するDCの合計4カ所。

 現地でも日本語サポートが標準で付いているかどうかや、DCが存在する場所を重視して事業者を絞り込んだ。

 場所については、中国に進出したグループ企業を統括する拠点が上海にあり、上海周辺の華中エリアに工場など主要拠点が集まっていたことがポイントとなった。「日本であれば、DCの場所は気にしないが、中国は国土が広く、交通手段も日本ほど整備されているわけではない。中国のDC利用も未経験なので、まずは主要拠点からアクセスしやすい上海のDCにすることが必要と判断した」(奈良橋部長)。

DCが安くても、
遠ければコスト高に

 ネットワークコストの観点から、拠点に近いDCを選択したのがHOYAだ(図3)。「中国では通信料金が高いので、地方都市の安いDCを契約しても、拠点から遠くなると総コストが高くなる」。近安理夫HOYAグループ情報システム統括責任者は断言する。

図3●NTTコミュニケーションズの上海のデータセンターを選択したHOYA
中国に展開する約10社の現地法人が個別に構築・運用しているITインフラを集約するために、DCを利用開始予定。業務システムのサーバーやネットワーク機器を統合し、ハウジングする
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 HOYAは、国内外190拠点が個別に構築・運用しているサーバーなどのITインフラを、2014年までに世界で7カ所のDCに集約するプロジェクトに着手した。その一環で、グループで約10カ所の拠点がある中国の業務システムも、NTTコムがサービス提供する上海のDCに集約する。

 規制が多く残る新興国では大手通信会社の競争が少なく、通信料金が高止まりする傾向が強い。

 「通信自由化が進んでいる先進国に比べると、中国も帯域の割には通信料金が高い」(近安氏)。HOYAは上海周辺に主要拠点が多く集まる。試算では、DC自体の利用料金が安くても上海周辺から一定の距離を超える場所のDCを使うと、ネットワークコストが増えて総コストが高くなることが分かった。

 大容量のデータをやり取りする場合は、ネットワークの契約帯域も大きくなるため、通信コストは膨大なものになる。できるだけ拠点とDCの距離を短くしたほうが、総コストの抑制が可能になるわけだ。

 最後に、これまで見てきた3社が重視したポイントや、DC事業者への取材などで浮かび上がってきた注意点をまとめた(図4)。日系IT企業が提供する中国のDCサービスは急増しているが、合弁事業か業務提携かといったサービス提供形態や、パブリッククラウドの提供の有無などで違いがある。

図4●中国でデータセンターを選択する際に確認すべき点
日本でDCを選択する際のポイントに加え、中国のDCならではの事情も考慮する必要がある
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 DCの仕様がカタログ上は同じでも、実際のセキュリティ対策の実施状況などは各社で微妙に異なるので、現地確認は必要。最終的にはユーザー自身で視察し、サービス品質に納得した上で契約すべきだろう。

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 シンガポールと双璧をなすアジアのDCハブが香港だ。DCの新設や増床が増えている。

 「欧米の経済環境が悪化するなか、世界中の金融機関が成長市場としてアジアに注目している。だから金融市場の中心である香港のシステムの規模も大きくなる」。オランダの金融大手ABNアムログループのABNアムロ クリアリング香港現地法人でIT統括を務めるカズ・ケンパースIT部門長はこう説明する(写真A)。同社は、KDDIが運営するテレハウス香港CCCなど複数のDCを香港で利用中。金融サービス用など全体で約60ラック規模のシステムをDCに構築している。

写真A●ABNアムロ クリアリング香港現地法人のカズ・ケンパース IT部門長

 欧米の金融機関のシステム需要拡大などを受け、KDDIはテレハウス香港CCCの増床に着手。NTTコミュニケーションズは海外で自社最大級となる新DCを2013年3月までに開業予定だ(表A)。同DCは香港証券取引所が新たにシステムを設置するDCの隣という好立地と、陸揚げした海底ケーブルをDCへ直接引き込む構造が特徴。富士通も香港での二つめのDC開設を検討し始めている。

表A●香港でデータセンターサービスを提供している主な日系IT企業
需要増のため新設や増床の計画が相次いでいる
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【東アジアの注目DCエリア 韓国】
「北朝鮮との戦闘でも釡山は安全」

 シンガポールや香港に対抗し、東アジアの新たなDCハブとして名乗りを上げたのが韓国の釜山。日本の半分程度とされる電気料金の安さや、地震がほとんどないこと、多くの海底ケーブルが釜山に陸揚げされていること、シンガポールや香港に比べた土地の広さなどのメリットを打ち出し、海外からのDC利用企業の誘致を強化している。

写真B●LG CNSが運営する上岩データセンター
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 LGグループのシステム会社LGCNSはNTTデータと組み、主に日本のシステムのバックアップ用途として韓国のDCを売り込み始めた。ソウルの2カ所の既存DCと、2012年12月に開業予定の釜山DCを日本企業へアピールしている(写真B)。韓国の通信最大手のKTもソフトバンクテレコムと合弁会社を設立し2012年1月、釜山近郊にDCを開設した(表B)。

表B●バックアップ用途などのため韓国のデータセンターを日本で販売している主な日系IT企業
NTTデータは韓国の大手システム会社LG CNSと提携、ソフトバンクテレコムは韓国の大手通信会社KTと合弁を設立してサービス提供する
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 課題は、北朝鮮問題と反日感情である。LG CNSの金泰克シニアバイスプレジデントは、北朝鮮問題について「全面戦争の可能性は低い。戦闘が起こっても局地戦にとどまり、国境から離れた釜山は安全」と断言する。さらに、「民族感情に訴える勢力は韓日とも一部。電機産業を中心として両国の経済的な結びつきは大きく、合理的な判断をする日本企業なら、韓国のDCも利用対象になる」と期待する。KTの朴浚植シニアバイスプレジデントも「ソウルは北朝鮮との国境から近いが、釜山は離れているので懸念する必要はない。企業活動や経済活動と、民族感情は別モノだ」と強調する。