景気変動の様々なリスクにさらされながらも、多くのITサービス企業が前期に続いて2011年度も業績を回復させている。売上高100億円以上で前期と業績を比較できる135社のうち、63社が増収増益を果たした。一方で減収減益企業も2割を占める。「売上高」「成長性」「収益力」の三つのランキングを基に各社の実力を分析する。
「2011年度 ITサービス企業業績ランキング」で集計対象としたのは、売上高100億円以上の146社。このうち63社が、11年度に増収増益を達成した。10年度と業績を比較できるのは135社で、ほぼ半数の46.7%が増収増益だったことになる(図1)。前回の39.7%から7.0ポイント増加した。
全体の平均売上高は前年度から2.6%伸びて806億7900万円。平均営業利益は32.0%増の38億8900万円だ。売上高と営業利益の伸び率を示した散布図を見ると、11年度にどちらも伸ばした企業が多いことが分かる(図2)。
国内企業がIT投資を再開
08年度から09年度にかけての業績低迷を脱し、一部のITサービス企業が復調の兆しを見せていたのが10年度だった。11年度の各社実績からは、前年度からの業績回復基調が業界全体に広がった状況が見て取れる。
多くの企業がIT投資を再開しているのが主な理由だ。「5年周期のIT投資サイクルが10年度から上昇局面に入り、11年度も継続した。12年度もこの傾向が持続しそうだ」と、ドイツ証券の菊池悟シニアアナリストは話す。
市場別で比較的好調だったのは製造業だ。東日本大震災やタイの大洪水などの影響でプロジェクトの延期・中止があった一方で、積極的な海外進出に伴うシステム需要が増えてきた。「製造業では大企業から中小企業まで満遍なくIT投資への意欲が復活してきた」と、大和証券の上野真 企業調査部シニアアナリストは説明する。
業界全体では目の前の案件を着実に獲得し増収につなげた。その効果に加えて、過去の不況期を通じて各社がプロジェクトマネジメントを徹底した結果、不採算案件が減って利益を押し上げている。
上位は緩やかに回復
売上高ランキング(下掲表を参照)の首位はNTTデータ。M&A(合併・買収)を伴う海外事業の積極展開が寄与し、前年度から7.7%成長した。収益面でも2期連続の減益から増益になった。
2位以下で目を引くのは2年連続の増収増益組だ。大塚商会やトランスコスモスが堅調だったほか、ネットワンシステムズが携帯電話事業者による積極的な設備投資を受注につなげ、順位を25位から20位に上げた。伊藤忠テクノソリューションズもスマートフォンの普及に伴った通信設備や関連システム増強の案件が増加し、減収減益から増収増益に転じた。
ハード販売やインフラ運用は低調
一方で、赤字転落を含めて減収減益となったITサービス企業が、135社中20.0%に当たる27社あった。前年度の21.3%とほぼ同じだ。
業績不振の理由は様々だが、ハードウエア販売や運用サービスの比重が大きい企業が低調だったといえる。サーバーの仮想化や統合が進んでハード需要が弱含みになったことや、クラウドサービスへの移行が始まって従来の運用サービスの単価が下がっていることも背景にある。「顧客は『持たざるIT』に進み始めた。このトレンドに乗れたかどうかがITサービス企業の業績に影響しつつある」(大和証券の上野アナリスト)。
12年度業績予想では、売上高が全体で前年比3.7%増、営業利益が22.9%増。ただし、企業によって予想値に濃淡が見られる。
受託開発は金融の大型案件などで需要を見込むものの、11年度までの好況期のように業界全体が大きく潤う状況にはならないと各社は見ている。グローバル化をはじめ、顧客が自社の事業のあり方を急速に変えていくなか、システム化の新たなニーズに対応できるかがカギとなる。
ドイツ証券の菊池アナリストは、「ITサービス企業には、『海外展開を急ぐ企業にどんなシステムを提案すべきか』といった、経営の視点がますます重要になる」と指摘する。
2011年度ITサービス企業業績ランキングは、株式を上場している企業の公開情報と、日経コンピュータが独自に収集した非上場企業へのアンケート調査を基に作成した。対象は主に売上高が100億円以上の企業である。対象となった上場企業は99社で、決算短信や有価証券報告書などの情報を基に業績データを集計・分析した。非上場企業は60社にアンケートを送付し47社から回答を得た。合計146社について、売上高順などのランキングをまとめた。2011年4月から2012年3月までに決算月を迎えた期を2011年度とした。連結決算を公表している企業は、連結ベースの業績をランキングの対象としている。売上高の伸び率を「成長性」、売上高営業利益率を「収益力」と定義し、ランキングを作成した。上場企業については、平均年間給与や平均年齢、株式時価総額についてもランキングを作った。
ITサービス企業の売上高ランキング
成長性ランキング
「クラウド銘柄」がトップ5に集中
2011年度に増収となった企業は86社で、全体の63.7%を占めた。07年度の74.6%には及ばないものの、前回調査の52.2%から11ポイント以上アップしている。
売上高伸び率を比較した「成長性ランキング」を見ると、データセンター運営などを手掛ける「クラウド銘柄」の企業がトップ5に集中した。
首位は、前回2位だったフリービットである。主力のIaaS(インフラストラクチャー・アズ・ア・サービス)の販売が堅調だったうえ、インターネット広告会社やインターネット接続事業者を連結子会社化した効果も現れた。売上高伸び率は58.3%だ。
2位のGMOインターネットは、レンタルサーバーやドメイン取得代行、決済代行といった事業が好調だった。
4位と5位にはデータセンター事業者が入った。4位のTOKAIコミュニケーションズ(旧ビック東海)は11年10月にブロードバンド、モバイル通信、SI(システムインテグレーション)の3事業をグループ企業から引き継ぎ、売り上げを伸ばした。5位は、11年度売上高が100億円を突破して集計対象となったビットアイルだ。都心部に集中的に展開するデータセンターの引き合いが急増し、売り上げ増につながった。
上位に割って入ったのが、帳票管理ソフトなどを手掛けるウイングアークの親会社、1stホールディングス。今回初めて売上高が100億円を超え、集計対象となった。ウイングアークの製品販売が順調だったほか、買収したセキュリティサービス企業を連結対象としたことで売り上げを伸ばした。
6~10位には、前回圏外だった企業が並ぶ。JFEシステムズはJFEグループのアプリケーション保守業務をエクサから引き継いだ。SJIは中国IT企業の買収を通じ、10年度の137位から11年度には10位に食い込んだ。
収益力ランキング
新顔がトップ3入り オービックに肉薄
企業の「収益力」を表す売上高営業利益率は全体として、2011年度も前年度に続いて堅調な伸びを示した。前期と比較可能な企業128社の平均値は5.8%。前回調査(131社が対象)から0.7ポイント増加し、好景気だった2006年度に肩を並べた格好だ。
収益力ランキングの1位は中堅・中小企業向けERP(統合基幹業務システム)製品を直販するオービックで、13年連続で首位を守った。売上高営業利益率は36.9%で、前回から1.9ポイント改善している。
これまでの調査ではオービックが独走していたが、今回は同社に肉薄する企業が登場した。成長性ランキングで3位に入った1stホールディングスである。売上高営業利益率が35.0%となり、2位に食い込んだ。自社製パッケージソフトの販売をベースに、付随する保守サービスなどで利益を安定的に確保している。
実は同社の前年度の収益力は36.6%に達していた。今期はM&Aに伴う人件費や新製品リリースのための検証コストがかさんで1.6ポイント落としたものの、来期以降が注目である。
3位につけたビットアイルはデータセンター事業に加え、子会社を通じて提供しているアウトソーシングや運用サービスの収益性を高めた。
売上高の上位企業の中で、収益力ランキングの順位を大幅に上げた企業もある。19位のネットワンシステムズ(売上高20位)だ。前回は65位だった。同社の場合も増収効果が利益率向上に大きく寄与した。スマートフォンの普及に伴うデータ通信量の急増を背景に、携帯電話事業者などへのネットワーク機器販売が好調だった。
またシーエーシー(売上高63位)はBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)の利益率改善が奏功し、順位を前回の57位から37位に上げた。
その他の指標ランキング
●平均年間給与ランキング
●平均年齢ランキング
●株式時価総額ランキング
2011年度ITサービス企業業績ランキングでは、成長性や収益力といった指標のほか、平均年間給与、平均年齢、株式時価総額についてもランキングを作成した。
平均年間給与を見ると、第1位は金融機関向けのシステム開発を手掛けるシンプレクス・ホールディングスで1210万3000円(平均31.3歳)だった。同社は平均年齢が低い企業のランキングでも1位になっている。
平均年間給与の2位は野村総合研究所で1051万8000円(平均年齢37.8歳)と、順位は前回と変わらなかった。
株式時価総額ランキングは12年7月4日時点で算出した。売上高ランキングで上位となった企業がこちらでも上位を占めるなか、11年10月に住商情報システムとCSKが合併して発足した売上高15位のSCSKが7位に入った。前期に続き収益力の高さを見せたオービック、2期連続の増収増益となった大塚商会やネットワンシステムズ、トランスコスモスなども上位につけている。
●平均年間給与ランキング・トップ50
11年度で売上高100億円以上の上場企業が対象
黒文字の企業名は連結決算、青文字の企業名は単独決算
●平均年齢ランキングトップ15
売上高100億円以上の上場企業が対象
黒文字の企業名は連結決算、青文字の企業名は単独決算
●株式時価総額ランキング・トップ50
売上高100億円以上の上場企業が対象
2012年7月4日時点で時価総額がある企業を対象に算出した。黒文字の企業名は連結決算、青文字の企業名は単独決算