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 太陽光など自然エネルギーで発電した電力を家電製品に給電するシステムを手軽かつ安価に実現する。岩淵志学氏はこの目標に向け、自ら起業しネットから電力の世界に飛び込んだ。主要ソフトをOSS(オープンソースソフトウエア)化するなどユニークな発想で、太陽光発電分野でのデファクト獲得を狙う。

太陽光発電に取り組むきっかけは何でしたか。

 2011年3月11日の東日本大震災です。当時、私は楽天のシステム開発者でした。震災当日、都内でも生活インフラがマヒしましたよね。徒歩で家路を急ぐ人たちをみて、電気の重要性を改めて感じました。太陽光発電を使って、誰でも家電製品を動かせる道具を作りたい。こう思ったのです。

それで自ら会社を興したということですか。

 20歳ころから、いつかは起業したいと考えていました。被災地の映像をみて「人生は1回しかない」と実感し、震災の2週間後に法務局で登記しました。それが今の会社です。2011年7月に筑波大学発のベンチャー企業として立ち上げました。

 楽天などのネット業界にいたころから、「ネットとものづくりをどう融合すればよいか」を考えていました。PCは小学生のころから使っています。父に連れられて秋葉原へ行き、ハンダごてを買ってもらったのも小学校のころです。テレビやラジカセなどをゴミ捨て場から拾って直すのが好きでした。この経験から、インターネットとものづくりという好きな領域を掛け合わせてサービスを作りたいと思ったのです。

 電力業界は規制が多く、ベンチャー企業が取り組むには難しい分野です。しかし、どうせやるからには難しい領域で勝負したいと考えました。

発電をソフトウエアの世界に

(写真:稲垣 純也)

 第一弾として2012年3月に、太陽光で発電した電力を家電製品に給電するための電力変換キットの提供を始めました。ハードウエアとソフトウエアを組み合わせた製品で、これと太陽光パネルを使って蓄電システムを作れます。

 キットは7980円で、パネルを合わせても約5万円です。既成の蓄電システムは30万円ほどするので、ぐっと安価に、かつ日曜大工の感覚で太陽光発電システムを作れるのが利点です。キットはすでに数百の販売実績があります。

低価格であるという以外にも特徴がありますか。

 アプリケーションを自分で書けるというのが最大の特徴です。キットは「OS部」と「アプリケーション部」で構成します。OS部は、電力源から家電製品への給電を制御します。OSを更新すれば、太陽光以外にも風力や水力といった電力源にも対応できます。

 アプリケーション部ではPC向け、テレビ向けなど用途別に給電の設定処理を実行します。キットには仕様書を付属しており、これを参考にして利用者はC言語でアプリケーションを記述できます。

 私が狙っているのは、太陽光発電のような電力制御をハードウエアでなく、ソフトウエアの世界のものにすることです。現状では、電気回路などハードウエア設計の知識が欠かせません。例えば、ノイズが発生すると誤作動の要因になるのでノイズ対策が必要ですが、それにはアナログ回路を理解している必要があります。

 我々のキットはすでにノイズ対策を施しています。C言語の知識さえあれば取り組めるわけです。

そのアプリケーション部分をOSSにする狙いは何ですか。

 用途別のプログラムを全てベンチャー企業1社で作るのは無理があります。利用者自身で作れるようにするだけでなく、作ったアプリケーションをライブラリに蓄積して、相互利用できるようにするのが狙いです。

 イメージしているのはLinuxです。利用者同士が協力しあって、どんどん便利にしていきたい。現在は筑波大学内で実験しており、2013年の早い時期にOSSとして公開したいと考えています。

この分野で利用者自身が作っていける製品は珍しいのですか。

 そう思います。電力変換のアルゴリズムは企業秘密で、ソースコードも公開されていません。性能を最大限に引き出せるように各社が工夫を凝らしていました。

 私が所属していたネット業界では、異なるサービスをAPI(アプリケーション・プログラミング・インタフェース)でつなぐという考え方が一般的です。この考え方を取り入れています。ものづくりに必要な工程を1社で垂直統合で担うのではなく、水平分業で取り組みたい。それにはOSS化が必要だったのです。

OSSで仕様を公開すると、まねされる恐れもあります。

 もちろんそのリスクはあるでしょう。でも今はソーシャルの時代です。多くのユーザーが協力しあうほうが速く、高精度のソフトを実現できると思います。多くのユーザーに支持されて、デファクトスタンダードになる。ソフト業界の定石ですよね。そんな思いでOSS化を決めました。

新興国に輸出したい

ビジネスを進めるうえでの課題はありますか。

 電力の世界はソフトウエアと異なる難しさがあります。PL法(製造物責任法)のようなクリアすべき法規制がある、というのがその一つです。万が一、我々のキットが発火したとします。発火原因がソフトかハードかを切り分けるのは困難です。OS部には過充電を防ぐ機能があります。しかし利用者が勝手にこの機能を外してしまう可能性もあります。

 ユーザーの自由度を最大限確保しつつ、安全対策を万全にしていくにはどうすればよいか。そのバランスを模索しているところです。この問題は早急に解決したいと考えています。

今後取り組みたいことは?

 新興国にキットを輸出したいですね。生活を豊かにするために貢献したいと思います。

 先進国では、太陽光発電はあくまでも補助的な存在です。しかし新興国では、発電所がない地域も珍しくありません。大型発電所を建設して電気を供給するというのは先進国の発想です。郊外の発電所から電力を供給するというのは無駄も多い。せっかく作った電気エネルギーを使い切れていないのが実情です。これを必要な分だけ作って使うスタイルに変えていきたいですね。

(写真:稲垣 純也)
非常用電源としても注目

 自然エネルギー需要の高まりを受け、太陽光発電のための発電パネルを設置する住宅が増えている。太陽光発電協会によると、2012年上半期の太陽光パネルの出荷量は139万3554キロワット。余剰電力の買い取り制度や自治体によるパネル設置の助成などが契機となって、設置件数は年々増加傾向にある。現在主流なのは、屋根に取り付ける大掛かりなものが多い。価格も数百万円かかる。

 岩淵氏が目指すのは、家電製品などに充電できる仕組みである。蓄電池に充電しておけば、3年間放置していても利用できる。ラジオや携帯電話の充電にも活用できるので、非常用の電源としても注目されている。

 新興国向けの電力設備としては、太陽光発電のほか、火をおこしその熱エネルギーを活用して発電するものもある。

 パナソニックの社長賞は戦前から存在するという。様々なエース級人材を表彰してきたが、大半はグループでの受賞。個人としての受賞は極めて珍しい。

岩淵 志学 氏
岩淵技術商事 社長
岩淵志学氏は1981年生まれの31歳。2006年、筑波大学大学院卒。同年NECに入社、2008年楽天技術研究所勤務。2011年に楽天を退職し、岩淵技術商事設立。筑波大学大学院非常勤講師も務める。