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 「もう大丈夫だ」。コマツの経営陣は昨年9月、そう確信した。

 当時、中国の建設機械市場は大きく揺れていた。中国の景気減速からインフラ工事が伸び悩み、需要が急減したのだ。コマツも7~9月期には、中国での売り上げが4割以上も減った。

 にもかかわらず、なぜこの時点で心配無用と断言できたのか。それは、間もなく中国の建機市場が回復することを高い確率で予測できていたからだ。実際、2013年1~3月期に中国の建機の売り上げが底入れし、来期には約10%増の伸びを見込む。

 では、なぜそのことを見通せたのか。その秘密は、中国で販売した建機1台1台から送られてくる膨大なデータにある。それらを分析した結果、建設工事が活発に動き出したことが分かったのだ。「全世界の建機の稼働状況を常に把握できている。9月に中国での稼働状況が底打ちしたことをつかみ、もう心配することはないと判断した」と坂根正弘会長は話す。

 建機にセンサーを組み込み、その位置や稼働状況をリアルタイムに把握する。「KOMTRAX」と呼ぶ、この仕組みは当初、建機の盗難防止用に開発されたオプション装置だった。それが省エネ運転支援などの高付加価値サービスを提供するためのツールに進化し、今や経営判断や意思決定を下すための重要戦略ツールともなった。

 コマツがこの10年で高収益企業に変われたのは、KOMTRAXの存在があったからこそだ。

勝ち続ける企業の条件

 大半の経営者が今、ビジネスのイノベーションとグローバル展開を経営課題として挙げる(図1)。日本企業は今、少子高齢化や個人所得の減少などにより国内市場が縮小する中、外国企業との競争で高い法人税率などのハンディキャップを背負っている。しかも、グローバル競争は容赦なく加速し、経営環境も激変している。

 そうした状況で勝ち残るには、ビジネスを革新することで競争優位を築くか、新規事業を切り開くか、世界に打って出ていくことが必要になる。

図1●日本企業の経営課題となる「ビジネスのイノベーション」と「グローバル展開」
縮小する国内市場で生き残っていくためには、特にビジネスのイノベーションが重要になる
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 特に国内でビジネスを継続するためには、新たな付加価値を生み出すイノベーションが必須。それにより他の企業から市場や顧客を奪っていくしかない。「国内の需要が縮む以上、全ての企業が幸せな将来像を描けるわけがない」(ファミリーマートの上田準二会長)からだ。

 もちろん、容易ではない。だが、ビジネスのイノベーションを実現した事例は、ネットベンチャーなどに求めなくても、既存の企業に数多く存在する。コマツの事例は製造業における代表例だが、サービス産業においてはコンビニエンスストアや宅配便が日本を代表するビジネスのイノベーションの先駆者だ。

 こうした事例を検証すれば、イノベーションを実現するうえで重要なポイントが見えてくる。それは経営陣の関与とIT活用である。

ITはイノベーションのツール

 ビジネスのイノベーションが経営課題である以上、経営陣が関与するのは当然だ。もちろん新規事業などのアイデアは、顧客と接する現場から出てくる。ただ、現場のアイデアは既存ビジネスの延長だったり、顧客の要望に直接対応したものであったりすることが多い。経営陣が大きな視点でイノベーションへと引き上げていくことが重要になる。

 コマツの経営陣はKOMTRAXを単なる盗難防止装置ではなく、ビジネスを変える道具と捉えた。ライバルも同様の仕組みを開発していたが、経営陣の発想力の差がその後の展開を大きく変えた。

 宅配便のパイオニアであるヤマトホールディングスも、サービス開発を現場任せにしない。「各地で経営陣が参加する会議を開き、現場から出たアイデアについて、その場で直接指導している」と瀬戸薫会長は話す。

 ITの役割もますます重要になる。クラウドやセンサー、ビッグデータ解析などの最新技術は、イノベーションの強力な道具になり得る。結局のところ、経営と現場、そしてIT部門やそれを支えるIT企業が、どれほどうまく連携できるかが成功のポイントになる。

 ビジネスのイノベーションは、従来のITが得意とした効率化やコスト削減のための業務改革とは違う(図2)。IT部門やIT企業には発想やビジネスの転換が求められている。

図2●「経営/意思決定プロセスの革新」「ビジネスモデルの革新」「ビジネスプロセスの革新」がビジネスのイノベーションの3要素
効率化を主眼にした従来の業務改革とは異なり、新たな付加価値の創造を目指す
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