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「縮小する市場では、ビジネスモデルを変革するしか勝ち残るすべはない」
ネスレ日本
高岡 浩三 代表取締役社長兼CEO(写真:陶山 勉)

 本社から「ジャパンミラクル」と称賛される外資系企業がある。ネスレ日本だ。スイスに本社を置く世界最大の食品・飲料メーカー、ネスレの日本法人で、今年で創業100周年を迎えた。この“外資系の老舗”は業績を公表していないが、実は営業利益率が20%にも達する。同業他社が4%前後、本社でも15%程度なので、そのパフォーマンスは驚異的である。

 同社を率いる高岡浩三社長は「日本のように縮小する市場にあっては、ビジネスモデルを変革するしか勝ち残るすべはない」と言い切る。その上で「危機は機会ととらえるべきだ」と話す。日本の人口の推移だけを見ると悲観的になるが、観点を変えると機会が見える。独り暮らしの人が増えたため、世帯数は一貫して上昇し続けている。つまり世帯単位の市場は拡大しているのだ。

 その機会をとらえた商品の代表例が、日本で企画した「バリスタ」など単身者向けのコーヒーマシンである。バリスタは125万台を売った大ヒット商品だが、家電メーカーは参入できない。中国で安く造らせて儲け無しで売るからだ。では何で稼ぐかと言うと、バリスタなどで使うコーヒーの粉を入れたカプセルの販売。つまり、新たな機会に新たなビジネスモデルで挑戦しているわけだ。

 ネスレ日本はITを駆使した大掛かりな事業転換にも取り組んでいる。倉庫業者などと組んで、ネット直販を強化しつつあるのだ。「我々が今一番力を入れているのは、直販型のビジネスモデル」と高岡社長は迷いなく話す。

日本が負けた家電に本格参入

「選択と集中では小回りが利かない。我々のモデルは変化に対応できる」
アイリスオーヤマ
大山 健太郎 代表取締役社長(写真:尾苗 清)

 グローバル競争に敗れ“壊滅状態”に陥った日本の家電産業。その市場に日用品大手のアイリスオーヤマが本格参入する。家電技術者を積極的に採用し、5月に研究開発拠点を大阪に開設する。

 同社は、ホームセンターで販売する日用品の開発・生産を手掛けていたが、LED電球で国内トップシェアを取ったことなどが契機となって、家電量販店ルートが開けた。そこで、掃除機や扇風機などにとどまっていた家電製品のラインアップを、洗濯機、冷蔵庫、エアコンといった大型家電製品にまで広げることにした。

 家電に参入できたのは、独自のビジネスモデルがあったからだ。同社の製品は1万4000点。「選択と集中」を是とする家電メーカーとは一線を画す。「選択と集中では負け戦のときに小回りが利かない。我々は顧客のニーズを機敏に見極めて新製品を出してきた」と大山健太郎社長は胸を張る。実際、売り上げの6割を発売後3年以内の商品が占める。

 小回りが利くのは、部品も含め内製を基本としてきたからだ。最初は外部に製造を委託しても、順次内製化し、膨大な製品を自社生産できるようにした。問屋の機能も自社に取り込み、システムで製品の売れ行きをリアルタイムで把握できるようにしている。些細な変化も見逃さない対応力を武器に、同社は家電分野にイノベーションを吹き込もうとしている。

“六重苦”を言い訳にしない

 日本企業を取り巻く環境は確かに厳しい。サービス業などの内需型企業には、少子高齢化が重くのしかかる。輸出中心の外需型企業はグローバル競争を戦う上で、円高や高い法人税率、自由貿易協定への対応の遅れなどの六重苦が辛い。いわゆるアベノミクスにより超円高が緩和され、日本の成長戦略を探る政府の産業競争力会議も動き出したが、国の取り組みは緒についたばかりだ。

 だがネスレ日本やアイリスオーヤマの事例に見られるように、少子高齢化や六重苦を単なる危機と捉えていては、未来は開けない。発想の転換と工夫でイノベーションを実現することで、大きな機会が生まれる。産業競争力会議の委員を務めるコマツの坂根正弘会長も「日本の構造問題の解決に向けた国の取り組みは重要だが、個々の企業にもやれることはいくらでもある」と指摘する。

 日本企業にとっての本当の危機は少子高齢化や六重苦ではなく、既存のビジネスに安住して何もしようとしないことである。家電産業が苦境に陥ったのは、液晶テレビなど主力製品のビジネスモデル、つまり選択と集中による大量生産・大量販売のモデルを変えようとしなかったからだ。iPhoneのようなサービス主体のビジネスモデルが登場する中、モノ売り主体のビジネスを変えられず、販売不振による採算割れに沈んだ。

最強モデルのKOMTRAX

 「技術に勝ってビジネスに負ける」。コマツの坂根会長は、日本の製造業がサムスンなどの外国勢に敗れる現状をこう表現する。ものづくりを極め高度な技術を盛り込んでも、それだけでは顧客にとって大きな付加価値にならない。そこでコマツは、新たな付加価値をKOMTRAXに求めた。

 KOMTRAXの基本的な仕組みは単純だ。建機にセンサーを取り付け、GPS(全地球測位システム)による位置情報や稼働状況を、衛星回線などを通じてコマツのサーバーで一元管理する。これにより、建機が盗難にあっても、位置を特定したり遠隔操作でエンジンがかからないようにしたりできる。建機が故障した場合も、場所を即座に特定することで、迅速に保守要員を派遣できるようになった。

 ポイントは、保守サービスなどの品質向上のよる顧客満足度の向上と、コマツ側の業務の効率化を同時に実現したことだ。しかも、運用を重ねる中で、様々な追加サービスを生み出した。例えば燃料の消費量を把握できるようにし、省エネ運転支援サービスを提供している。燃料を使いすぎている顧客に運転方法を指導すると2~3割も燃料消費が下がる。燃料代は償却費以上に大きいため、顧客に喜ばれコマツへのロイヤルティー向上につながっている。

 センサーを組み込むことでサービスを提供しようという動きは、他の製造業にも広がる(特集「シェア拡大モデルはセンサーで作る」)。KOMTRAXは、まさに製造業におけるイノベーションの標準モデルとなった。

単なる機能が事業革新ツールに

 KOMTRAXは、売り方も変えた。中国では代理店に在庫を持たせず自社管理し、この手法を欧米にも広げている。流通在庫を削減するためだが、これが可能になったのも、建機の稼働状況を基に正確な需要予測ができるようになったからだ。さらに、中国では主な顧客は個人事業主のため割賦で売るのはリスクが高いが、コマツなら売れる。売った建機の稼働状況を確認できるため、顧客の仕事の有無を把握でき、適切な対応を取ることができるからだ。

 KOMTRAXで培った技術やノウハウを基に、ビジネスをさらに進化させたのが無人ダンプトラック運行システム「AHS」だ。鉱山で使う超大型ダンプを無人運行するもので、コマツが顧客に対して運行などを指導する。「鉱山の生産や安全に共同責任を持つ、顧客のパートナーとしてのビジネスに進化した」(坂根会長)わけだ。売り上げもダンプ単体の1.5倍から1.7倍になるという。

 このようにKOMTRAXは、大きなビジネスのイノベーションにつながった。そこには経営の強い意思が働いている。KOMTRAXは当初有料だったが、坂根会長には顧客満足度の向上と業務の効率化のために建機の位置を把握したいという思いがあった。そこで、KOMTRAX自体で儲けるより、無償にして全建機に搭載することを選んだ。この判断がコマツの未来を変えた。坂根会長は「経営が『このようなものを作りたい』と強い執念を持って取り組んだからこそ実現した」と振り返る。

IT活用で強くなるサービス業

 サービス業は製造業以上に、イノベーションに取り組む企業が多い。特に宅配便とコンビニは日本発のビジネスモデルであり、ITをフル活用して新たな事業・サービスを生み出し続けている。

 規制に抗して顧客視点で「宅急便」のビジネスモデルを生み出したヤマトホールディングス。「顧客の喜ぶことが最優先というスタンスは、今も変わらない」と瀬戸薫会長は話す。新サービスを作る際の着眼点の一つは、やはり顧客満足度の向上と業務の効率化の同時実現だ。例えば「クロネコメンバーズ 宅急便受取指定」では顧客に到着予告メールを送り、その時間に不在なら在宅時間に変更してもらう。サービス向上だけでなく、1回で届けられるため自社の効率化にもつながるわけだ。

 こうしたサービスはITなしには成立しない。しかも、ITを活用することで、追随が難しいサービスが生まれる。「配送だけではすぐに真似されるので、IT部門やロジスティクス部門、決済部門が協力してプラットフォームを作り、新たなサービスを提供している」と瀬戸会長は話す。

 ヤマトのサービス開発の特徴は、常に経営陣が強く関与することだ。同社は、全国の各地区で経営陣が参加する経営戦略会議を開いている。現場から出てきた新サービスのアイデアを検討するが、その際のポイントは経営陣が“顧客の顧客”の視点でアイデアの再考を促す点だ。「現場は直接の顧客である企業の目線から発想しがちが、実際にサービスを利用する消費者、即ち顧客の顧客から考え直すことが重要なのだ。そうすることで、便利な決済など顧客企業にも喜ばれる仕組みを生み出せる」と瀬戸会長は説明する。

日々革新で巨大システム産業に

 「コンビニのビジネスモデルは世界で通用することが証明された」。ファミリーマートの上田準二会長はこう断言する。国内ではセブンイレブンとローソンの後塵を拝する同社だが、アジア進出では先頭を走ってきた。2009年8月の段階で海外店舗が国内の店舗数を逆転し、現在は国内が9481店に対し海外が1万2700店である。

 コンビニは小さな店舗と商圏で機敏にニーズに応えるため、サプライチェーン管理やマーケティング、データ蓄積・分析などを進化させ続ける必要がある。ファミリーマートなど大手は縮小する国内市場で勝ち残るために、巨額のIT投資で新サービスを次々と生み出し、他のチェーンを振り落としにかかっている。

 攻撃的に出店しており、若者層に加えてスーパーなどの顧客である高齢者も取り込みつつある。ファミリーマートは「社会・インフラ企業」を標榜し、宅配サービスや高齢者の安否確認サービスなどにもビジネスの枠を広げる。「当社はシステムによる需要予測の精度向上に必死で取り組む。店舗オーナーは品ぞろえを本部に任せて、新たなサービスに力を注いでほしい」と上田会長は話す。

日本発のビジネスモデルを輸出

 こうした日本発のビジネスモデルは、海外ではどれくらい受け入れられているのか。

 ファミリーマートは韓国、台湾、中国、タイ、ベトナム、インドネシアに店舗展開しており、今春フィリピンにも進出する。台湾で新幹線乗車券の販売や、個人荷物の店舗間配送サービスを実施するなど独自の進化も始まった。システム面のノウハウもたまった。アジアでは物流インフラやニーズがバラバラのため、コンビニ業務に必要な最低限の機能をまず提供し、新サービスに必要な機能は順次追加する形を取る。

 ヤマトホールディングスも「宅急便のビジネスモデルを世界標準にする」という野心を秘め、2010年1月にアジアに本格進出した。以前から進出していた台湾に加え上海や香港、シンガポール、マレーシアでビジネスを展開しているが、当初、想定外の事態に直面した。「最新のビジネスモデルがアジアでも喜ばれると考えていた」(瀬戸会長)が、実際には現地では割高に感じられ、十分には受け入れられなかったのだ。

 実は日本では当たり前の配達時間指定はオーバースペックで、荷物が翌日に壊れずに届くだけで、現地では十分な価値だった。自社のサービスが最先端との自負がじゃまをして、現地ニーズを見誤ったわけだ。そこに気づき、以前日本で提供していたレベルに切り替えたことで現地に根付き始めた。

ビッグデータ活用に道を開く

 イノベーションに資するITは、ERP(統合基幹業務システム)で管理する会計情報のような“過去データ”ではなく、コマツの事例のように今まさにビジネス現場で発生している生データを把握できる。その結果、重要な経営判断や現場での迅速な意思決定に必要なインテリジェンス(判断を左右する決定的な情報)も提供できる。

 コマツの経営陣が「中国の建機市場が底を打つ」と判断できたのも、建機の稼働状況から建設現場の活況度をリアルタイムにつかめたからだ。KOMTRAXを搭載する建機は30万台近くに達する。会計情報も含め他のデータと組み合わせることで、様々な分析が可能になる。「ビッグデータ分析そのもの」(坂根会長)であり、それを活用した“リアルタイム経営”を実現したわけだ(図3)。

 ファミリーマートが2013年度から順次導入する次期基幹システムにも、実は同様のコンセプトが盛り込まれている。直接の狙いは店舗の品ぞろえ・発注力の強化だが、そのために売れ筋分析などを可能な限りリアルタイム化する。

 システムの需要予測の精度が高くても、店舗オーナーの実感と乖離すれば、指示通りに発注してもらえない。そこで売れ行きをリアルタイムで分析し、スーパーバイザーがその情報を基に指導することで、オーナーに納得して発注してもらえるようにするわけだ。

図3●経営/意思決定プロセスを変革するIT
コマツのKOMTRAXは、経営判断に必要なリアルタイムの情報(インテリジェンス)も提供できる
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