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 「コスト削減だけを目的とした中国オフショア開発の事業モデルは、限界を迎えつつある」。中国IT大手、浙大网新科技(インシグマ)の鐘明博執行総裁は2013年6月20日、中国最大規模のITサービス関連イベント「CISIS 2013」で講演し、こう述べた(写真)。

写真1●中国政府と遼寧省、大連市などが主催した中国最大規模のITサービス関連イベント「CISIS 2013」(左)と、浙大网新科技(インシグマ)の鐘明博執行総裁
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 鐘執行総裁の発言通り、対日オフショア事業を営む中国IT企業が三重苦に直面している。円安、日中関係の悪化、そして人件費の上昇だ。

 昨年末以来、円は人民元に対して最大で30%以上安くなった。6月前半には一時的に円高に戻ったものの、その後は再び円安が進んでいる。急ピッチの円安に、大連華信計算機技術(DHC)の劉軍董事長兼CEOは「企業努力の範囲を超えている」と悲鳴を上げる。

 中国ではこの3年ほど、IT人材の人件費が年15%を上回るペースで上昇してきた。さらに昨年の尖閣問題によって受注量が減少。そこに円安が追い討ちをかけた。

 中国のIT企業が日本企業に提示できる人月単価の上限は40万円程度とされる。この額を超えると、日本企業がオフショアで得るメリットがなくなるという。

 現時点での人月単価は「北京などでは30万円程度に達している」(インシグマの鐘執行総裁)。現在の人件費上昇ペースが続くと、2年後には40万円に迫る計算だ。円安がさらに進めば、2年の「余命」はもっと縮まる。

 生き残りをかけて、中国IT企業は人件費が安価な地域へのシフトを急ぐ。内陸部はもちろん、日本の地方都市に目を付ける企業もある。あるIT企業の幹部は「日本で開発すれば為替リスクを回避できる。地方のIT企業を買収したい」と明かす。このほか、顧客である日本企業に10~15%の値上げを求めるところも出てきた。

 これらの対策はどれも対症療法にすぎない。最大の問題は、苦戦している中国IT企業の多くが自社ならではの強みやソリューションを持たないところにある。この問題は日本のIT企業と共通する。中国IT企業は日本企業の言う通りに仕事をこなしてきた結果、皮肉にも日本のIT企業と同じ課題を抱えてしまった。「自社ならではの強みを創出できる中国IT企業だけが生き残れる」。インシグマの鐘執行総裁はこう断言する。

 中国IT企業の危機は、日本企業の危機でもある。オフショア委託先の8割以上が中国に集中する状況で中国IT企業が急激に衰退したら、日本でのシステム開発が滞る恐れがあるからだ。DHCの劉総裁は「お互いのためにも、痛みは日中双方で分かち合うべきだ」と主張する。