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新電力最大手のエネット。2000年にNTTファシリティーズと東京ガス、大阪ガスにより設立された同社は、今や販売電力量で沖縄電力を超える“10番目の電力会社”だ。武器はITを活用した「デマンド・レスポンス・サービス」。供給力の壁に悩みながらも、2016年の電力小売り自由化を視野に事業拡大を図る。同社の池辺裕昭社長にその戦略を聞いた。

新電力である御社のビジネスはどのようなものなのですか。

池辺 裕昭(いけべ・ひろあき)
1973年3月に九州大学工学部電気工学科を卒業。同年4月に日本電信電話公社(現NTT)に入社。85年11月にネットワーク事業本部 担当部長。92年12月にNTTファシリティーズの営業部 担当部長、2001年6月に取締役 営業本部副本部長、04年6月に常務取締役 事業開発部長、09年6月に代表取締役副社長 営業本部長。11年6月より現職。(写真:陶山 勉)

 我々は自前の発電所だけでなく、全国の様々な発電所から電気を調達し、契約した顧客に電気を届けています。既存の電力会社が発電から送電、小売りまで全てを担っているのに対して、我々は送電網を持っていません。そこで電力会社にお金を支払い、電気を託送してもらっています。

 ただ、送電網の中では、電力会社の電気と我々の電気が混じり合っているわけですから、電気の品質は両者の間で全く同じです。しかも、顧客が我々の電気を利用する際、新たな設備を置く必要は全くありません。つまり契約を変更してもらうだけで、顧客が我々の電気を利用できるわけです。

電力供給力の調達が大きな課題

新電力の中での御社のシェアは5割ですが、電力業界全体では1%にすぎません。

(写真:陶山 勉)

 今の電気事業法では、50kW以上の高圧は自由化されていますが、低圧は自由化されていません。一般家庭には電力会社を選ぶ選択肢が無いのです。高圧でも新電力のシェアはわずかであり、顧客が新電力から電気を調達するのは難しい状況です。実は東日本大震災以降、供給してほしいという要望が多数寄せられましたが、現行制度の下ではなかなか応えることができません。

 震災後、電気についていろいろな問題が発生しました。計画停電がありましたし、使用制限令により強制的な節電も強いられました。その経験で明確になったのは、需要のピークを上手に抑えることが極めて重要だということです。

 ところが、ピーク時に顧客側で節電の工夫ができる仕組みが無かった。そのことも含め、従来の集中電源の仕組みの脆弱性が露呈したわけです。太陽光発電のような分散電源が普及してきていますから、分散電源もうまく活用できるように、今の制度を再設計する必要があると考えています。

自由化されている高圧でも電力供給が難しい理由は何ですか。

 我々が自前で大規模な発電所を造ろうとすると、環境アセスメントから始まって8年くらいかかります。このため需要に即座に応じることができません。

 電気を調達できる発電所が数多くあればよいのですが、発電所の約8割は既存の電力会社が所有しています。自治体によっては水力発電所などを保有していますが、電気を相対契約で電力会社に売っており、競争入札になっていないという問題があります。

 電気を取引する仕組みとして日本卸電力取引所もありますが、取引される電気は全体の1%にも満たないのが現状です。既存の電力会社が取引所で電気を売れば、新電力が買ってシェアを奪うわけですから、電気を取引所に出すインセンティブは働きません。

重要なのはITによるサービス

競争原理がうまく働かないようですが、解決策はありますか。

 電気の流通を増やすために、取引所で強制的に取引させる仕組みが必要なのではないかと思います。現在も電力会社は、予備電力については基本的に取引所に出すことになっていますが、自主的取り組みにすぎません。

 余剰の電気が取引所に出てきて量が増えれば、明確な価格指標ができます。取引量が薄いと価格が乱高下しますし、我々も安定供給力として当てにはできません。取引量が増えて価格指標が明確になると、発電事業に乗り出す企業も多数出てくるはずですので、我々が電力を調達する機会も増えるわけです。

 我々自身の取り組みとしては、「電源の開拓」と称し全国の自治体に対して、競争入札に切り替えるように提案しています。そうすると自治体も収入が増えるわけですよね。入札ですから我々が常に電気を入手できるとは限りませんが、その機会は増やしていかなければなりません。

供給力さえあれば、販売をいくらでも伸ばせるわけですか。

 基本的にはその通りです。ただ今後は、電力供給に付加するサービスが顧客の選択のポイントになってくると考えています。

 需要が増えたら供給力も増やすというのが、今までの右肩上がりのモデルでした。でも需要のピークをうまく管理して抑えられれば、供給力を増やさなくてもよくなります。そこで重要になるのが、ITを使って供給側と需要側を結び、電力需給の見える化を図っていくことです。見える化ができると、顧客が節電を工夫する余地が生まれます。供給側も供給力の最適化を図かれます。

御社の現在のサービスでも、IT活用によって見える化を図っているのですか。

 企業と家庭向けにデマンド・レスポンス・サービスを提供しています。デマンドレスポンスとは「需要側が反応する」という意味です。

 家庭向けはマンションのみが対象です。当社からNTTファシリティーズが高圧電力を一括で受電し、低圧にして各戸に供給しています。家庭から当社のサーバーにアクセスすれば30分単位の電力使用量を見られますから、顧客は節電の工夫ができます。昼間は高く夜は安いといった時間帯別料金メニューを用意し、顧客に電気の消費パターンを変えてもらえるようにしています。

 節電ポイントサービスもあります。例えば翌日の気温が高くなりそうだとすると、顧客にメールを送り、翌日13~15時の節電を要請します。節電してもらえれば、前日の使用量との差分のポイントを提供し、たまったポイント分だけ翌月の料金を下げています。非常に効果があり20~30%のピークカットを実現しました。

 このサービスでは「節電お出かけ情報」として、美術館や水族館などの情報とクーポンも提供しています。節電時間に顧客がクーポンを提示すると割引が受けられるのです。顧客の外出を促すことで、電力使用量をかなり抑えることができます。皆が涼しい施設に集まれば、街全体を効率的に節電できるわけで、省エネに向けての将来のモデルになると考えています。

自由化後は家庭に直接売る

2016年に小売りが自由化されたら、一般家庭に直接サービスを提供する考えはありますか。

 実は、戸建てに住む人から「なぜマンション向けだけなのか」とか「町内で何戸集めれば供給してくれるのか」といった問い合わせをもらいますが、今はできません。当然、2016年に低圧が自由化されれば、戸建ての一般家庭向けに直接サービスを提供していきたいと思っています。

企業向けにはどのようなサービスを提供しているのですか。

 家庭向けと同様のサービスを提供しています。やはり電力使用量などを見える化しており、需給が逼迫した時に節電要請のメールを出します。顧客には一定の節電量を約束してもらい、それに対するリベートを出しています。

 こうしたサービスを提供していると、顧客の電力使用実態が把握できます。例えばデパートでは、節電時間の前に使用量が一気に上がり、節電時間になるとストンと落ちます。事前に空調をフル運転して室温を下げ、節電時間に備えているわけです。やはり見える化できると、顧客は節電のためにいろいろな工夫をしてくれます。

電力事業にITを活用することで、今後どのようなサービスが考えられますか。

(写真:陶山 勉)

 いろいろなエネルギー管理ビジネスが可能になるはずです。例えば、ビッグデータ分析で、需要と供給のマッチングを最適化するサービスは大きな可能性があります。グリーン電力サービスといって、CO2の排出量がゼロの電気が欲しい顧客に、そうした電力を提供するビジネスも有力です。

 いずれにしろ、エネルギーとITが結合するところにイノベーションがある。ITベンダーも積極的に進出して、活躍の場を見つけるべきだと思いますよ。