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ITに関する経営者の疑問に情報システム責任者は答える義務がある。
経営者と対話できる関係をどう築いたらよいだろうか。
本連載では、IT専門家と経営者の双方が興味を持てる調査結果を題材に、対話の進め方を3回にわたって考えてみたい。

 「役員は50人前後いましたから社長と話など滅多にできません。それだけに、機会があったときに質問に即答できるよう、あれこれ考えていました」。

 日本を代表する製造業の情報システム責任者から聞いた話である。新聞にITに関する記事が載ると、社長が「この動きが進むとうちの製品はもっと売れるか」などと突然聞いてくる。風が吹くと桶屋は儲かるかといった類の質問だが、「分かりません」とは言えない。自分なりの答えをその場で述べられるよう、普段から本業とあまり関係ない記事でも読んで「自社製品に関係しないか」などと自問自答していたそうだ。

 「社長と話ができるか」。経営に影響を与える情報システムを預かる責任者にとって重大な問いである。これは「社長」と「システム責任者」に限ったものではない。例えば管理担当の代表取締役副社長がシステム部門も管掌したら、システム責任者は副社長に報告しなければならなくなる。事業部門の出身者がシステム責任者に着任したら、システム担当者は自分の業務内容を新任の責任者に説明する必要がある。

 「社長と話ができるか」という問いを「ITに詳しくない事業側の人と対話できるか」に置き換えれば、全てのIT専門家に関わる課題となる。「社長の疑問に答えるIT専門家の対話術」を考えていく前に、相手がITをどう捉えているかが分かる調査結果を紹介する。

経産省に衝撃を与えた調査結果

 2013年10月、IT企業や電機メーカーの団体である電子情報技術産業協会(JEITA)が日米の経営者や事業部門のマネジャーなど「非IT部門」を対象に実施した調査結果を公表し、JEITA関係者や経済産業省を驚かせた。

 情報システム投資が「極めて重要」と答えた回答者の割合は日本の15.7%に対し米国が75.3%(図1)。「IT予算は増える傾向にある」という回答は日本が39.8%、米国が80.4%。「増える」と答えた回答者に「ITに対する期待」を問うと、日本は「業務効率化/コスト削減」、米国は「製品/サービス開発強化」がそれぞれ筆頭に来た(図2)。

図1「IT/情報システム投資の重要性」に関する日米企業の非IT部門の意識調査結果
日本でも7割が「IT投資は重要」
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図2「IT予算は増える傾向」と答えた回答者の「ITに対する期待(IT予算が増える理由)」(複数回答)
日本でITと言えば「効率化とコスト削減」
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 回答者はJEITAからすれば“お客様”に当たるため、報告書において「両国のITに対する期待や認識に大きな違いがある」と述べるにとどめているが、JEITAや経産省の本音は「日本の経営者や事業部門のマネジャーはいまだにITをコスト削減の手段としか見ておらず、IT予算も増やさない。米国に比べて意識が低い」ということだろう。

 ただし同調査の回答者属性を見ると日米で全く異なっている。日本は営業部門が53.8%を占め、経営者と事業部門長は15.8%。これに対し米国は経営者と事業部門長が69.8%を占め、営業部門は2.6%に過ぎない。つまり回答者は「非IT部門」と言っても、日本は営業部門、米国は経営者が中心だ。調査依頼を広報に送ったところ日米企業の広報判断でこういう結果になった。

「ITで時短」を考える

 このため、ITの専門家はこの調査結果を慎重に扱わないといけない。とはいえ営業部門から経営者が出ることもあるし、そもそも経営者が答えないこと自体が日本の課題ではある。日本の「非IT部門」は情報システム投資に対し一応重要と答えるものの、さほど増やすつもりはなく、狙いはコスト削減のままだとすると、IT専門家はどのような対話をすれば良いのだろうか。

 冒頭に紹介したシステム責任者のように、相手に合わせた作戦を立てておく必要がある。「米国ではどうなっている」としばしば尋ねる経営者が相手なら、JEITAの調査結果を見せて「米国の経営者はITで本業の製品やサービスそのものを開発しようとしています」あるいは「ITを活用したビジネスモデル変革にも取り組んでいます」と説明できる。「具体例はあるのか」と聞かれるだろうから、経営者が関心を持つ米国の同業他社のIT利用事例を調べておき、日本でやれそうなものを見せてはどうだろうか。

 一方、米国にもITにもあまり関心がない相手ならどうするか。それでも効率化やコスト削減には関心があるはずなので、IT専門家としては「ITでビジネス変革」などとは言わず、コスト削減に言及する。その場合、ずばり「ITで時短」という話を持ち出す手がある。今回のJEITA調査によると「ITがもたらした効果」および「今後ITに期待する効果」に対する日本勢の回答で、どちらも筆頭に「社内業務効率化/労働時間減少」が来ていた。

 時短もコスト削減と並び古くからある課題だが、経営者も営業部門も取り組まざるを得ない。業績を維持しつつ時短をするには生産性を上げるしかなく、結局は仕事のやり方を変えるという前向きな話につながっていく。

 なお同調査によると、クラウドやビッグデータという「新規ソリューション」に関して日本の回答者の4割以上が「聞いたことがない/あまりよく知らない」と答えた。「クラウドやビッグデータで我々は何ができるのか」などと相手が言ってこない限りは、新規ソリューションを持ち出すのは避けたほうがよいだろう。

■調査概要
調査名:ITを活用した経営に対する日米企業の相違分析
概要:日米の民間企業における「非IT部門」に対し、ITに対する意識調査を実施
時期:2013年6月~7月
対象:グローバルで従業員数が300人以上の企業(医療、教育、政府・地方自治体、情報サービスを除く全業種)の経営者および事業部、営業、マーケティング、経営企画のマネジャー
方法:Webアンケート
回答数:日本216社、米国194社