PR

5次下請け、全体見えぬ歯車に

 仙台市を拠点とするIT企業を経営していたA氏が、中央省庁の基幹システム刷新プロジェクトに参加したのは、2007年頃。仙台での仕事が減少しており、東京からの業務委託案件の誘いに応じた。

 2次請けの企業が、全国の下請けネットワークから技術者をかき集めていた。A氏の会社は2次請けの下の下の下、5次請けだった。東京からの仕事の収入は、仙台の下請けネットワークをたどるうちに5割近く中間搾取されてしまう。この仕事でどれだけの搾取をされていたのか、A氏には見当もつかない。

 A氏が受託した業務は、官庁の業務の流れを聞き取り、ひらすらExcelで作図するというもの。既にプロジェクト開始から1年が経過していたのに、その間の成果物をほとんど見せてもらえなかった。A氏は「何のための仕事をしているか分からない、それが一番つらかった」と語る。多重下請けの歯車となって、成果を実感できない業務をこなす日々が続いた。

 この現場は、IT技術者を幸せにしない――。A氏は2年を待たず、プロジェクトから身を引いた。

相次ぐ法令無視、根深い病巣

 2013年3月、愛知労働局は約60のIT企業が関わった二重派遣を摘発した。IT技術者171人を別の会社に派遣し、不当な利得を得ていた。摘発例としては最大規模で、「IT技術者の不足が背景にあるようだ」(愛知労働局)という。正規の方法で開発者を集められなかったため、自社への出向という名目で技術者を集めたとされる。

 労働法違反を取り締まる東京労働局の職員は「偽装請負の社会問題化で、請負にかかわる摘発が減少した一方で、派遣を巡る摘発が増えている」と語る。派遣の場合、下請け企業への再委託は「二重派遣」として認められない。それでも、多重下請けの構造を維持するため、二重派遣が横行する現実がある。

 2008年12月に運用が始まった中小企業緊急雇用安定助成金(現・雇用調整助成金)を巡り、IT企業による不正受給の摘発が相次いでいる。厚生労働省が2013年4月以降に社名を公表した摘発企業の5割を、情報サービス業などのIT企業が占めた。

 ある中小IT企業の社長は「摘発を受けた企業は、社員数を超えた数の申請を行っているといった悪質な例。かなりの数の中小IT企業は水増し申請をしていたのでは」と証言する。法令無視の姿勢が蔓延する限り、IT業界は若者を引き付ける業界にはなり得ない。

愛知労働局が公開した事業停止命令のリリース
[画像のクリックで拡大表示]

年収250万、同一の客先に4年間

 「東京で正社員として働ける仕事なら何でも良いと思ったのが、甘かった」。B氏は4年間、IT技術者として同一の客先に常駐した。2年前に別のIT企業に転職するまで年収250万円、残業代なしと給与抑制が続いたまま、同じ業務を繰り返す毎日を強いられた。

 B氏は東北の高校を卒業した後、東京の中小IT企業に就職した。ITに詳しくはなかったが、高校に届いた求人票の「経験不問」「東京勤務、正社員」という条件に飛びついた。

 3カ月の研修を経て、すぐに顧客企業に常駐となった。任されたのは情報システムの運用や新規リリースに関わる業務。B氏の会社は3次請けの立場だった。運用といってもソースコードに触れるわけではなく、監視とトラブルの報告が主体だ。IT技術者としてのスキル停滞が、B氏には何よりつらかった。新規リリースが重なると、徹夜を繰り返さざるを得なかったが、夜勤手当が付いた記憶はない。「開発に回してほしい」と上司に訴えたが、「そうしたいのはやまやまだけどねえ」とかわされ続けた。

 B氏を含む地方出身の新卒5人は、会社が用意した一軒家の寮に入居させられていた。出身は東北、中国、近畿とバラバラ。給与水準が低い地方の若者を東京で常駐業務に就かせ、利益を得る。そんな構図が透けて見える。

ハローワークサイトでのIT技術者向け求人の一例(本文とは関係ありません)
[画像のクリックで拡大表示]