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受託の連鎖から、新たなビジネスに乗り出した企業たち。
チャンスをつかんだ取り組みから、成功のための4つの法則が浮かび上がる。
従来のビジネスを捨てることにはリスクがあり、時間やコストもかかる。
それでも先が見えない現状から抜け出し、新たな展望を切り開こうとしている。

 「たとえプログラマーに技術力があっても、今のIT業界ではそれに見合った報酬が得られない。であれば、自らプロダクト開発に乗り出した方が良いと考えた」。大阪と東京に拠点を持つIT企業、クロノスの山本大常務取締役は力を込める。

 2002年創業のクロノスはIT受託を主力としていたが、2008年のリーマンショックで受託の仕事が急減し、「IT受託への依存は危ない」と社内の危機感が高まった。加えて、人月見積もりに基づくIT受託や技術者派遣に頼っていては、高いスキルを持つ技術者に給与で十分報いることができない。顧客常駐型の仕事が多く、多様な働き方へのニーズにも対応できない。このため技術力がありながら、出産を機に退職した女性社員もいた。

 クロノスは2011年、独自サービス開発を手掛ける事業推進室を設立した。山本氏の下に専任1人を配し、IT受託で得た営業利益のうち一定額を、事業推進室が使える枠として別個に確保した。サービス開発に社内のリソースを使う場合は、事業推進室から社内に「発注」をかける形だ。

 当初はうまくいかなかった。サービスのアイデアはあっても、顧客のニーズに沿っているか確証が持てないまま開発を進めていた。そこで山本氏はITコンサルタントの指導を仰ぎ、リーンスタートアップの基本プロセス導入に踏み切る。「潜在顧客へのインタビューなど、仮説検証に時間をかけることで、開発するサービスの価値に確信を持てた」(山本氏)。

 2年を経て、ようやく開発がスムーズに回り始めた。2013年4月に公開した共有型電子ホワイトボード「Life Time Board」は、官公庁や研究機関、製造業などの顧客に相次ぎ採用された(図8)。2013年夏には、UIデザイン技術の不足を補うため、新たにデザイナー1人を採用、事業推進室に配属させた。

受託開発からプロダクト/サービス開発へ、気鋭のIT企業の挑戦が始まる
図8 クロノスの事業推進室メンバーと、同社が開発した電子ホワイトボードシステム
山本大常務取締役(中央)と事業推進室の亀野弘嗣マネージャー(左)、谷本達也マネージャー
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成功率を高める4つの勘所

 「脱受託」へ、技術と熱意を兼ね備えたIT企業が動き出している。需給の波をもろにかぶるIT受託への偏重を見直し、プロダクト/サービス開発へと舵を切った。

 もちろん、脱受託は容易なものではない。100%成功する方法はないが、成功率を高める方法ならある。クロノスを含め、今回取材したIT企業の事例から、脱受託の成功率を高める共通の原則を抽出した(図9)。

「脱受託」に道筋を付けた企業には、共通する成功要因がある
図9 IT受託企業がプロダクト/サービス開発に軸足を移すための4つの勘所
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 一つは、プロダクト/サービス開発の予算や組織を、受託事業を手掛ける組織から切り離すことだ。これにより、プロダクト/サービス開発の人員をIT受託に回したり、開発予算を削って利益を確保したりする誘惑を断ち切る。拠点の自治体がIT振興に熱心なら、助成金で開発予算を確保する手もある。

 二つめは、潜在顧客が抱える「課題」にフォーカスすることだ。

 特にプログラマー主体のIT企業や、多重下請け制の下でユーザー企業との接点がなかった企業は、こうした仮説検証のプロセスをおろそかにしがちだ。

 こうしたプロセスに沿ったサービス開発を支援する助成金を設けたのが島根県である。

 島根県は、松江市を中心にRuby技術者の養成によるIT振興で知られる。だが、せっかくの技術力がプロダクト/サービス開発には生かされず、「東京の大手ITベンダーと県内自治体からの案件を引き受ける『受託依存』に陥っていた」(島根県商工労働部 産業振興課 情報産業振興室の杉原健司企画員)。

 そこで島根県は2013年9月、IT企業と県内サービス事業者による新規事業にシステム開発を助成する「パートナー型ビジネス創出支援事業」で、助成金の審査にリーンスタートアップのプロセスを組み込んだ。事業計画には精緻なものは求めない代わりに、仮説に基づいて潜在顧客に20~30件のインタビューを義務付け、その内容を審査対象にした。

 成功のための原則の三つめは、スマートデバイスやクラウドの活用だ。大手IT企業による既存のパッケージソフトは、もともと物理サーバーや据置PCが前提だったものが多い。クラウドやスマートフォン、タブレットに対応してはいるが、それらを前提に機能、使い勝手、事業モデルを設計したわけではない。そこに、後発の中小IT企業が勝てる余地がある。

 最後の原則は、新たな人材やスキルの獲得だ。具体的には、事業計画を描くプロデューサー、使いやすいUIを設計するデザイナー、販路を開拓できる営業などが必要になる。

 これらの要素を満たしていたとしても、脱受託は決して一朝一夕にはできない。脱受託に挑むIT企業の経営者はそろって「受託に慣れた社内文化を改革するため、トップが強い『思い』を持ち続け、継続して社員に伝えること」の重要性を説く。社内文化の改革には、少なくとも数年、場合によってはそれ以上を要するだろう。以下、脱受託に挑戦するIT企業3社の取り組みを紹介しよう。

震災で仕事急減、逆境を独自開発に生かす

 仙台市を拠点とするアンデックスは、Androidなどのスマートデバイス向け独自サービス開発で「地域No.1」を目指し、地元SI企業出身の三嶋順氏(現・代表取締役)が2009年に創業した。だが、当面の事業だったIT請負が主体になってしまい、独自サービス開発にリソースを割けなくなっていた。

 転機になったのが、2011年3月11日に発生した東日本大震災だ。顧客のプロジェクトが相次ぎ中止となり、15人ほどいた社員の半数は、仕事がなくなってしまった。

 この逆境に、三嶋氏は覚悟を決めた。仕事がなくなった今こそ、独自サービス開発に集中できると考えた。

 開発対象に選んだのが、スマートフォンを活用したトレーサビリティ支援システムである(図10)。きっかけは、IT受託の顧客だった地元の物流業者との会話だった。「大手物流事業者のサービスのように配送物を追跡できる安価なシステムが欲しい」という。そこで三嶋氏は、Androidスマートフォンを活用したトレーサビリティ支援システムを企画した。スマートフォンなら電波が届く限りどこでもバーコードを記録でき、GPS(全地球測位システム)で位置情報も蓄積できる。

震災で仕事が半減、余剰人材を新規プロダクト開発に投入した
図10 公共系システム開発受託から、トレーサビリティ支援システムなどに軸足を移したアンデックス
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 企業を回って調べてみると、需要は至る所にあった。食品が放射能検査済みであることを証明したい、除染で一時保管した土の位置を管理するのに使いたい、といった震災後ならではのニーズもあった。

 最初のシステムはわずか3カ月で開発した。アンデックスは以前からAndroidアプリの開発受託を手掛けており、アプリ開発は得意分野だ。独自アプリ開発に不可欠なUIデザインのスキルは、東北工業大学クリエイティブデザイン学科の研究室と提携することで習得した。これらが他社と差異化する大きな要素になった。現在までに、地元の食品卸に加え、自動車メーカーの物流部門、大手住宅メーカーのグローバル資材管理などで採用されている。

 同社の売上高のうち、今や独自サービスは3割を占める。「この比率を5対5に、営業利益率を10%以上に持っていく」(三嶋氏)。

クラウドで介護支援システムNo.1目指す

 同じく仙台市を拠点とするグッドツリーが、介護事業者支援システム「ケア樹」の開発を始めたのは、東日本大震災の半年後、2011年9月だった(図11)。きっかけは、震災後のボランティア活動で、顧客でもあった介護施設で資材の片づけを手伝ったことだ。

復興支援で訪れた介護施設での聞き取りをヒントにサービスを開発した
図11 Webサイト開発受託から介護事業者支援サービス専業へ移行したグッドツリー
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 グッドツリーは2011年まで、売り上げの大半をIT受託や派遣で得ていた。だが西原翼社長は「地元に同様のIT受託を手掛ける企業が多数存在し、差異化ができない」とIT受託に限界を感じていた。

 介護施設で片づけを手伝っていた西原氏は、施設の責任者から現行の業務システムについての不満を聞いた。現状のシステムは施設内にサーバーを置くオンプレミス型。このモデルのため震災でサーバーが損害を受け、データを全て失った施設もあったという。

 クラウド前提のITサービスなら災害にも強く、競合と同等のサポートや運用を少ない社員で回せる。これは後発でもチャンスがある、と西原氏は確信。入力端末にiPad、ITインフラにAmazon Web Servicesを使う新たなシステムを構想した。

 介護事業者支援システムで最も重要なのは、介護サービスの記録に基づき、介護報酬を請求する機能である。既存のシステムでは、1日の介護で疲れた職員が残業し、パソコンに記録を打ち込む状況だった。iPadで記録できるようにすれば、個々の介護サービスを行うたびに、現場でそのまま記録できる。

 開発資金は銀行からの融資や自治体からの補助で目途をつけた。少ない資金で最大の成果を得るため、開発には中国のオフショア企業を活用。社員4人に加え、ピーク時は中国・西安のパートナー企業から約20人が開発に加わった。2012年9月に販売を開始し、今では宮城県内の老人保健施設、特別養護老人ホームなど複数の施設に採用された。

 既にグッドツリーでは「2013年は、開発受託はほとんどやっていない」(西原氏)。社内リソースのほとんどをケア樹の開発、運用に注ぎ込んでいる。運用の自動化などにより、今後5年で営業利益率20%を目指す。

地元顧客と共同でフランチャイズ展開

 Webサイト開発受託を主体とする島根県のIT企業、ピーシーエッグは、ブライダル事業者「マリエ・やしろ」と共同で、婚活支援サービスのフランチャイズ事業を展開している(図12)。既に鹿児島県、静岡県など7県のブライダル事業者が加入した。「全国にフランチャイズを展開したい」と、ピーシーエッグ二之宮祐樹取締役は意気込む。

顧客に納入したシステムで新たなフランチャイズビジネスを立ち上げる
図12 Webサービス開発受託から婚活支援などサービス開発に軸足を移したピーシーエッグ
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 同社はそれまでもいくつかの独自サービスを開発していたが「販路を開拓できず、収益につながらなかった」(二之宮氏)。行き着いたのは地元サービス事業者と連携するモデルだ。同社は2007年ごろから、マリエ・やしろの依頼で婚活支援サービスの会員管理システムを運用していた。マリエ・やしろは少子化に伴う市場縮小の対策として、島根県在住者を対象とした婚活支援サービスを展開していたのだ。

 ブライダル業は地域との結合が強く、他県の式場とは市場が競合しない。であれば、このサービスを他県のブライダル業にも展開できるはず。そう考えた両社は2012年4月、婚活支援システムをサービス運営ノウハウと共に他県のブライダル事業者に提供するフランチャイズ事業「メイト」を始めた。ITインフラはAmazon Web Servicesを活用、ピーシーエッグが運用を一括で担い、会員数に応じて月額料金を得るモデルである。

 まだ収益への貢献が小さいが、フランチャイズ先の会員数が増えれば安定した収入源になる。顧客と二人三脚で事業モデルを構築することで、新規事業の道を拓いた格好だ。

「納品のない」IT受託、同様のモデルを他社に広げたい
ソニックガーデン 代表取締役社長 CEO 倉貫 義人氏

 要件定義、設計、プログラミングと分業しながらシステムを納品する従来のSIでは、技術者は幸せになれない。そう考え、試行錯誤の末にたどり着いたのが、「納品のない」IT受託サービスだ。これまで3年ほどこのモデルで事業を展開していたが、社内の技術者が生き生きと仕事をできていると感じる。

 我々の受託サービスは月払いの定額制で、プロフェッショナルの技術者を1~3人ほど企業にアサインする。単価を決めて工数を売るのではなく、一定の成果を出すことを顧客に約束する。顧問弁護士などのプロフェッショナルサービスに近い。

 開発したシステムは「納品」せず、Amazon Web ServicesやHeroku(RubyベースのPaaS)といったパブリッククラウド上でソニックガーデンが運用する。一般的なSaaSと同じく、契約を解消すればシステムは利用できなくなる。

 業務システムであれば、我々が運用するサービスを外から利用する。BtoCサービス向けシステムの場合は、ユーザー数やデータ転送量といった成果に応じて追加で利用料をいただく。こうしたモデルのため、ベンチャー企業や社内の新規事業部門が手掛けるような、機能も規模も確定していないシステムの開発に向いている。

 今のところ、企業の規模を急激に大きくすることは考えていない。その代わり、我々のようなIT受託サービスを提供できる企業を増やす「ギルド」を作りたい。ギルドに加入した企業にはソニックガーデンのノウハウを提供する。既に、ギルド加入の準備をしている企業が3社ほどある。

 ギルド加入企業には、我々と同じクオリティのサービスを求める。このため、参加する企業の技術者にも高いスキルを求める。技術者1人で、顧客とのコミュニケーション、設計、プログラミング、運用までを担わなければならない。その意味で、スキルのない技術者を救うモデルではない。分業前提のSIを手掛けていた技術者よりも、独自Webサービス開発に携わっていた人の方が適合性が高いだろう。(談)