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 屋内に張り巡らされている電力線(電灯線)を使って通信する電力線通信の実用化の可否は,9月中にも開催される総務省「高速電力線搬送通信に関する研究会」(座長は東北大学電気通信研究所の杉浦行教授)の場で明らかになる予定。研究会は,2005年1月の開始から8カ月を経ており,実証実験なども行ってきた(写真)。しかし,推進派と反対派の主張は対立したままで落としどころが見えない。

 それでも総務省は当初の予定通り,9月中にも方向性を固めて10月にはパブリック・コメントを募集する方針を変えていない。電力線通信は,「e-Japan重点計画-2004」で規制緩和の検討をすることになっている。総務省のスケジュールは,e-Japan重点計画-2004の検討期限である2006年3月から逆算したものだ。

遂に座長が「中間案」を提案する

 議論に残された時間が刻一刻と無くなっていく中,8月18日の研究会では遂に,座長の杉浦行・東北大学教授から折衷案とでも呼ぶべき新たな提案が出された。その提案とは「コンピュータの電源ケーブルから漏えいする雑音レベルをたたき台に値を検討する」というもの。だが,この値は,推進派,反対派のいずれの陣営も受け入れに難色を示す。コンピュータの電源ケーブルから漏えいする雑音レベルをそのまま規制値にすれば,推進派にとっては,悲願であった高速化はおろか「実用的な通信はできない」(推進派)ことになる。また反対派にとっても,主張していた保護基準値とはほど遠く「飲める話ではない」(反対派)。

 電源ケーブルからの雑音については,漏えい電磁波の測定方法と規制値を規定する「CISPR」で国際的に規定済み。杉浦座長は「推進派と反対派の折り合いがつかないのなら,既存の国際規格を規制値に据える以外にない」(杉浦教授)と説明する。また,研究会を取りまとめる総務省電波環境課の富永昌彦課長も,「折り合いが付かないときは中間点を落としどころにするのは国際的にも筋の通った考え方だ」と座長の提案に理解を示す。

 研究会では,緊急に作業班を設置し,この値をたたき台に早急に検討することになった。作業班のメンバーは,研究会で中立の立場をとるCISPR委員の雨宮不二雄氏,電気通信大学の上芳夫教授,CISPR委員の山中幸雄氏と座長自身の計4人である。次回の研究会の日程は未定だが,それまでに座長自ら率いる作業班がどのような提案をまとめあげるのか,業界関係者からの注目が集まっている。

総務省にとって新タイプの論争だった

 電波行政では,過去にも「推進」「反対」の構図で規制緩和が議論されたことがある。最近では,UHF(ultra high frequency)帯を利用する無線IC(RFID:radio frequency identification)タグの例がある。

 UHF帯無線ICタグが新たな割り当てを要求した950M~956MHzは,もともとKDDIがTDMA(time division multiple access)方式の携帯電話サービスに利用していた周波数。KDDIが2003年3月末に同サービスを停止したことにより,帯域が空きとなった。そこに経済産業省の後押しもあって,すかさず無線ICタグを割り当てる案が浮上。2004年8月に総務省での検討が始まった。

 だが950M~956MHzの両側の周波数帯は,NTTドコモのPDC(personal digital cellular)方式の携帯電話システムが利用していた。このためUHF帯無線ICタグとNTTドコモの携帯電話間での干渉問題が勃発。大量のタグを一括で読みとるためには高出力のリーダー/ライターが必要だが,そこから出る電磁波がNTTドコモの携帯電話に悪影響を与える可能性が懸念されたのである。

 落としどころを探った総務省の作業班では,携帯電話サービスに影響が出ることは一切許されないとNTTドコモが主張。無線ICタグ陣営は,米ウオルマートなどでの大規模導入などが決まっており,利用できないとなれば,輸出障壁にもなりかねないと応戦した。両者の間で,激しい議論が展開された。ここまでは今回の電力線通信の研究会と似ているが,最終的にはお互いが歩み寄ることで決着できた点は異なる。

 実は,無線ICタグで利用するリーダー/ライターも携帯電話のいずれも総務省の免許が必要な「無線局」である。結局のところ,両者の紛争のとりまとめは,総務省がこれまでも脈々と続けてきた免許局同士の利害調整の域を出ない。ところが,電力線通信モデムは制度的にも技術的にも,従来の免許が必要な無線局とは異質のものだ。電波の飛び方も違えば,調整すべき利害関係者も,家電メーカーや,アマチュア無線家や電波天文学者などと多岐に渡る。これまで通りの“仲間内”の調整型電波行政が経験したことのないタイプの紛争なのである。

 しかし今後も,電力線通信と同じ対決の構図となる新技術の登場が予想される。電力線通信のすぐ後ろには,「UWB」(ultra wide band)なども控えている。電力線通信の議論にどう決着を付けるのか。9月中にも明らかになる注目の結論は,今後の電波行政の試金石になる。