「農業や製造業などの既存産業は、農学や工学といった学問体系の確立により発展してきた。しかし、先進国では就労人口の70%超が携わるほどに成長したサービス産業には、その発展を支える体系だった学問がない」。米IBMのアルマデン研究所でサービス・リサーチ担当ディレクタを務めるジェームス・スポーラー氏は、今後のサービス産業の発展に向けて、新しい学問体系の必要性を訴えた。

 スポーラー氏が指摘する新しい学問体系は、「サービス・サイエンス・マネジメント・アンド・エンジニアリング(SSME)」。サービスのあり方を、テクノロジやビジネスモデル、組織のあり方といった観点から、論理的に考察し、研究を進めることを目指す。「これまでの“サービス”は、勘と経験でビジネス展開されてきた。製造業が品質の尺度でイノベーションを起こしたように、サービスを科学的に解明することで、サービス産業のイノベーションが起こる」と期待する。

 米IBMが今、SSMEを推進する狙いは二つある。一つは、IBMの顧客企業がサービス・イノベーションのための新しい仕組みを求めていること。例えば、製造業といえども、製品の差異化にはファイナンスやメンテナンスといったサービス戦略が不可欠になっている。そうした企業に、実際に効果のある各種サービスを提案したい考えだ。もう一つは、そのための人材の育成と確保。スポーラー氏は「IBM研究所が、物理学やコンピュータ・サイエンスの優れた研究者を招聘し、最新技術を生み出してきたように、今後の研究所では、サービス・サイエンスの研究者が主要な位置を占めるようになる」と話す。

 そのためIBMは、政府や大学などに働きかけ、「サービス・サイエンス学部」の設置を促すなどで、サービスに強い人材育成を社会的に浸透させる計画だ。その一環として日本でも9月8日に、SSMEをテーマにした「サービス・サイエンスシンポジウム」を開催。官庁や主要大学、コンピュータ・ベンダーなどから計52人を招き、SSMEの重要性を訴えた。日本IBM東京基礎研究所長の久世和資執行役員によれば、「経済産業省や学術関係者が、SSMEに興味を示し始めている」。IBMは今後、中国、ヨーロッパにも同様のイベント開催などで、全世界にSSMEの推進活動を広げる。

 米IBMがSSMEの研究を本格的に始めたのは、今から2年半前。スポーラー氏を中心に9人でスタートし、現在は60人にまで拡大している。米国では昨年12月、「イノベーションこそ、米国が発展する原動力」といった主旨の通称「パルミサーノ・レポート」が発表されたのを機に、SSMEへの関心が高まっている。