「2010年にSAPジャパンの売り上げを倍増する。ワールドワイドでも現在の3位から2位に引き上げる」。SAPジャパンの新社長に就任したロバート・エンスリン氏(写真)は9月12日、記者会見を開いた。エンスリン氏は、「日本は世界2位の経済大国なのに、全世界のSAPに占める売り上げは現時点では米、独についで3位にとどまっており、もっとSAPジャパンは成長できる」と説明する。エンスリン氏は、8月1日付けでSAPジャパンの社長に就任。以前は、SAPアメリカでパートナー・ビジネスの担当をしていた。
SAPジャパンの業績は現在、全世界のSAPと比較して好調とはいえない。7月に発表した2005年度第2四半期の売上高ではSAP全体が前年同期比約13%のプラスに対し、SAPジャパンは同1%のプラスにとどまる。2004年度(1月~12月)で見ても、全世界が約10%のプラス成長だったのに対して、日本の売り上げはマイナス9%だった。
製品のシェアでも日本市場では後れを取っている分野がいくつかある。会計や人事、PLM(プロダクト・ライフサイクル・マネジメント)などのアプリケーションは、世界ではシェア1位だが、日本では会計が2位、人事、PLMが3位となっている。さらに、Webアプリケーション・サーバーなどのミドルウエア分野では世界シェアが4位に対し、日本では8位だ。
こうした状況を打開するため、エンスリン氏が成長の柱として挙げるのが、ESA(エンタープライズ・サービス・アーキテクチャ)に基づくシステム構築の拡大と、中堅中小企業市場でのマーケットシェアの拡大、の2点だ。この二つを推進するためにエンスリン氏や会見に同席したSAPジャパンの幹部は、パートナーとの協業強化を強調。「2006年までにパートナー経由の売り上げを3倍にする」(エンスリン氏)としている。
一つ目の柱である「ESA」とは、SAP版のSOA(サービス指向アーキテクチャ)のこと。大企業向けのシステム構築で、「ESAに基づいたシステム構築を推進していく」(エンスリン氏)とする。アライアンス本部長の竹田邦雄バイスプレジデントは、大企業向けのシステム構築を担当するパートナーについて、「これまでは業種別に特化したアプリケーションの導入に力を入れて頂いた。これからは、ESAに基づいてシステムを構築していく総合力をつけて頂きたい」とした。
また、システム構築のパートナーに加えて、「これからはアプリケーション・ベンダーと協業することもありうる」(ソリューション統括本部長の玉木一郎バイスプレジデント)と新たな分野のパートナーとの協業も示唆した。その理由は、「ESAを推進していく上で、SAPはERPパッケージ(統合業務パッケージ)を中心にしたアプリケーション・ベンダーではなく、NetWeaverを核にシステム構築を進めるプラットフォーム・ベンダーになる」(玉木バイスプレジデント)からだ。
SAPは2007年までに、ERPパッケージ「mySAP ERP」を始め、CRM(顧客関係管理)やSCM(サプライチェーン管理)といったあらゆるアプリケーションを、ESAに基づいたアーキテクチャに変更すると発表している。その基盤となるのが、ミドルウエア群の「NetWeaver」だ。ESAでは、NetWeaver上で動作するアプリケーションをSAPのアプリケーションと限定していない。会見では具体的な企業名は出なかったが、これまでSAPジャパンと競合していた業務アプリケーション・ベンダーとの協業の可能性もありそうだ。
二つ目の柱である中堅中小企業向市場についてエンスリン氏は、「日本には12万社の中堅中小企業があり、成長の余地は大きい」とみる。SAPジャパンの中堅中小向け製品には、mySAP ERPに導入を支援するためのテンプレートを付属した製品「mySAP All-in-One(A-One)」と、中小企業向けERPパッケージの「SAP Business One(B-One)」がある。A-Oneは主に年商300億~1000億円の企業、B-Oneは年商300億円未満の企業をターゲットとしている。A-Oneは、直接・間接の両方の販売方法を取るが、B-Oneは100%間接販売の方式だ。
そのため、「中堅中小への販売を拡大するには、パートナー企業の協力が欠かせない。SAPジャパン内で中堅中小企業向けの組織を拡大するとともに、パートナー数を増やすために投資は惜しまない」(エンスリン氏)とする。実際に2004年6月の出荷以来、B-Oneのパートナー企業には、これまでSAPジャパンの大企業向けERPパッケージ「mySAP ERP」を扱っていなかった地方のソフトハウスなども存在する。SAPジャパンは、中堅中小企業の中でも、大企業の子会社や業種特有の要件が多い企業を中心に、中堅中小企業向けのERPパッケージの導入をすすめていく予定だ。
このほかエンスリン氏が注力分野として挙げたのは、技術革新と顧客満足度の向上、そして報酬体系の見直しなどによる社員のモチベーションの向上、の3点。技術革新ではESAを実現する上で欠かせない製品として、マイクロソフトのOfficeからSAPのアプリケーションを利用できるようにする製品「Mendocino(メンドシーノ)」を紹介。Mendocinoは、「来年に日本市場に投入する」(エンスリン氏)予定だ。顧客満足度の向上ではすでに、日本で組織を横断した顧客満足度向上のためのチームを作っており、これを強化していくという。