PR

 総務省は9月26日,電力線通信(PLC:power line communication)の実用化を目指す「高速電力線搬送通信に関する研究会」の第9回会合を開催した。高速電力線通信では,2M~30MHzの周波数帯を利用する。この周波数帯はアマチュア無線や短波放送,電波天文など他の無線が利用しているため,電力線通信がこれらの無線システムへ与える影響が懸念されている。

 推進派と反対派の議論は今年1月の研究会開始以来,全く折り合いがついていない。前回の会合では遂に,座長を務める東北大学電気通信研究所の杉浦行教授から「コンピュータの電源ケーブルから漏えいする雑音レベルをたたき台に値を検討する」という新提案が出され,急きょ,杉浦座長を中心とする有識者4人で作業班を結成した。今回の研究会では,この作業班でまとめた報告書の素案が提示された。

 報告書素案によれば,電力線通信用モデムの許容値は,漏えい電磁波の原因となる「コモンモード電流」値を,「CISPR」で規定するパソコンの通信ポートの値と等価にするもの。作業班では,環境雑音のレベルを基準に,建物による遮へい効果や電力線通信モデムと無線局の距離などを仮定して,コモンモード電流値を計算。その結果の許容値が,通信ポートの規制値とほぼ一致する結果が出たことによる。

 許容値をCISPRの通信ポートの規制値にすること自体は,これまでの研究会で推進派が主張してきた。だが,今回出された新しい考え方は,電力線通信用モデムが許容値を満たしているかをチェックする測定系にある。報告書素案では測定系の電力線の品質を,「全家屋の99%が満たす値にする」(杉浦座長)とした点にある。

 コモンモード電流の大きさは,モデム自身の性能に依存する部分と,家庭内の電力線の状況に依存する部分の合算で決まる。後者は家庭内の電力線の品質によって変わり,その度合いは電力線の配線状況などで決まる「平衡度」によって大きく変化する。

 電力線の配線の状態などは家屋などによりさまざまなため,平衡度のばらつきも大きい。想定する平衡度の値によって,モデムが満たすべきコモンモード電流値も変わってくる。これまで電力線通信の実用化を推進する業界団体「高速電力線通信推進協議会(PLC-J)」は,80%の家庭が満たす平衡度を基準にするよう主張してきた。これまでPLC-Jが主張してきた10m地点における漏えい電界強度44dBuV/mも,この考えを元にした数値である。

 しかし,報告書素案では99%の家庭が満たす平衡度の値を基準にする案が出された。99%値は,家庭内の電力線の状態がかなり悪く漏えいが大きいケースを想定することを意味する。杉浦座長は,「1%の家庭では電力線通信から出る漏えい電磁波が自然雑音レベル以上になるかもしれないが,99%の家庭では漏えい電磁波は自然雑音以下に収まる。新しい機器を投入する以上,許容値は緩くできない」と説明した。

 推進派にとって,この差は,これまで主張してきた44dBuV/mの電界強度を十数dBuV/m程度下げなければ満たせない数値。推進派からは,「この許容値では規制緩和後,製品出荷が1年半~2年かかってしまう可能性があり容認できない」との不満が漏れた。また反対派にからは,「これまで議論してきた漏えい電界とは異なる尺度。可否を即答できない」という戸惑いの声が上がった。杉浦座長は,「作業班としてこれ以外の答は出しようがない。これでダメなら作業班は解散というくらいの値だ。認めてほしい」と主張しており,次回以降で更なる議論が展開されるのは間違いなさそうだ。

 次回会合は10月4日の見込み。報告書素案に対する意見が,推進派,反対派双方から提出されることになりそう。研究会を取りまとめる総務省電波環境課の富永昌彦課長は,「意見が集約できれば次回会合後にもパブリック・コメントにかける。もし集約できなければ継続して審議する」としている。

(山根 小雪=日経コミュニケーション