IBMビジネスコンサルティング サービス(IBCS)は10月24日、企業がM&A(企業の合併・買収)を実施した後の事業や組織の統合作業を支援するサービス「M&A経営統合サービス」の提供を開始した。世界規模、あるいは異業種でのM&Aを目指す日本企業が、主な対象。同社パートナーの金巻龍一取締役は、「PwCコンサルティング(PwCC)との経営統合やレノボへのパソコン事業売却で、IBMはM&Aの経験と実績を積んだ。これらを基に、M&Aの最も重要かつ難しい作業である事業・組織統合作業を支援する」と話す。
同サービスでは、ユーザー企業がM&Aを実施すると仮定した場合の準備状況、M&Aに必要な戦略立案や課題管理、プロジェクトマネジメントといったスキルを診断。ユーザー企業に不足しているスキルを補うための体制構築や人材育成などを助言する。金巻取締役は、「現在はM&Aを実施する予定がない企業でも、成長する手段として将来実施してもおかしくない」という。「2004年の日本におけるM&A件数は2200件超で、過去10年では年率18%伸びている。企業経営者の関心が、単なるコスト削減から成長へと移りつつある昨今、M&Aは現実的な選択肢だ」(同)。
M&Aを実施する企業に対しては、事業・組織統合計画のレビューや統合プロジェクトのマネジメント、ビジネス・プロセスや情報システムの統合、チェンジ・マネジメント(組織や業務の変化に応じた社員の意識改革)などを支援する。一連の事業・組織統合作業が終了した後に、通常組織へスムーズに移行する作業も支援する。
各サービスでは、IBCSの経営分析手法である「コンポーネント・ビジネス・モデリング(CBM)」を利用する。CBMでは、企業の事業を「コンポーネント」と呼ぶ単位に分割して、事業全体を可視化する。研究・開発事業ならば「研究企画」や「製品の試作」、マーケティング事業なら「広告・宣伝」や「需要予測」といった具合だ。「競争力の有無や戦略性に応じて、どちらの会社の事業を残すか、あるいは統合するか、分離するかを判断するのが容易になる」(金巻取締役)。
実際にIBMは、レノボにパソコン事業を売却するに当たってCBMを活用し、事業・組織統合作業を4カ月で終えたという。レノボの社員数は約1万9000人で、このうち約1万人はIBMからレノボへ移った社員である。この規模の企業の統合作業は、「通常なら1、2年かかってもおかしくない」(同)。
M&Aに伴う事業・組織統合を支援するサービスは、マッキンゼー・アンド・カンパニーやボストン・コンサルティングといった「戦略系」と呼ばれるコンサルティング会社が得意とする領域だ。金巻取締役は、戦略系コンサルティング会社に比べたIBCSの長所を、「IBMみずからがM&Aを実施した経験を生かせること」と話す。「M&Aには、経験したものでないと分からない難しさがある。この体験をCBMに基づいてモデル化することで、具体的な方法論を提供できる」(同)。
金巻取締役はこのほかの強みとして、「システム構築に実績があることや、BTO(ビジネス・トランスフォーメーション・アウトソーシング)など、下流工程のサービスに展開できること」も挙げる。ただし、「今回のサービスでは、システム構築やBTOを全面に押し出したりはしない。IBCSがM&Aを成功させた後、結果としてIBMを選んでもらえばよいと考えている」(同)。IBCSは今後1年間で、5件のプロジェクトの受注を目指す。