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図1 日本におけるMVNOの提供例 ウィルコムから回線帯域を借りて提供する日本通信の「bモバイル」(上),同じくウィルコムから回線単位で提供を受けるジュピターテレコム(J-COM)が提供予定の「J:COMモバイル」「MVNO」は前者を指すのが一般的だが,後者も広義のMVNOと言える。
図1 日本におけるMVNOの提供例 ウィルコムから回線帯域を借りて提供する日本通信の「bモバイル」(上),同じくウィルコムから回線単位で提供を受けるジュピターテレコム(J-COM)が提供予定の「J:COMモバイル」「MVNO」は前者を指すのが一般的だが,後者も広義のMVNOと言える。
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写真1 イー・アクセス傘下のイー・モバイルが説明するMVNOのビジネス・モデル 2005年12月21日にテレコムサービス協会が開催したMVNO協議会にて
写真1 イー・アクセス傘下のイー・モバイルが説明するMVNOのビジネス・モデル 2005年12月21日にテレコムサービス協会が開催したMVNO協議会にて
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写真2 アイピーモバイルが示すMVNOのサービス展開 2005年12月21日にテレコムサービス協会が開催したMVNO協議会にて
写真2 アイピーモバイルが示すMVNOのサービス展開 2005年12月21日にテレコムサービス協会が開催したMVNO協議会にて
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写真3 総務省が示す日本におけるMVNOへの参入パターン テレコムサービス協会が2005年に開催したMVNO協議会の初会合後の説明会にて
写真3 総務省が示す日本におけるMVNOへの参入パターン テレコムサービス協会が2005年に開催したMVNO協議会の初会合後の説明会にて
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 MVNO(エム・ブイ・エヌ・オー)。2006年は,この四文字が通信業界の今後を占う上で極めて重要なキーワードになる。

 MVNOはmobile virtual network operator(仮想移動通信事業者)のこと。NTTドコモやKDDI,ボーダフォンといった携帯電話事業者から設備を借りて,事業に参入する形態だ。携帯電話の事業者から無線ネットワークや中継網を貸してもらい,ユーザーへのサービスを提供する。設備を全く借りずに,ブランドだけを自社に付け替えるケースもある(図1)。

 例えば,欧米ではリチャード・ブランソン会長が率いるヴァージン・グループがMVNOとして携帯電話を大々的に展開している。「ヴァージン」のブランドを冠する携帯電話でサービスを提供中だ。

日本では裏方のMVNO

 実は日本でも現時点でMVNO,もしくはそれに準じた形態で提供しているケースは少数だがある。しかし欧米とは大きく異なり,一般のユーザーには目につかないところで使われている。

 例えばKDDIの携帯電話網を利用して,トヨタ自動車がカーナビゲーション・システム,セコムが児童や車両の位置を確認するサービスにそれぞれ参入。また,日本通信や京セラコミュニケーションシステム(KCCS)といった通信分野に強いインテグレータは,企業向けのソリューションを提供している。日本通信はウィルコム,KCCSはKDDIの携帯電話網をそれぞれ利用するサービスだ。こうした例があるものの,日本でMVNOはあまり語られることはなかった。

新規参入で一気に浮上

 では今なぜ日本でMVNOが重要となってきているのか。これには二つのワケがある。

 一つは,昨年通信業界だけでなく一般ユーザーにも話題を振りまいた携帯電話の新規参入だ。実に12年ぶりの出来事だ。NTTグループ,KDDIに続く国内3番手の通信グループとなったソフトバンク,イー・アクセスやアイピーモバイルといった通信ベンチャーなどがぞくぞくと参入キップを手に入れた。2006年10月にアイピーモバイルが開始するデータ通信サービスを皮切りに,2007年には各社のサービスがでそろう。

 この新規3社とも,MVNOの戦略を極めて重要と考えている。自社だけではユーザーの獲得がつらい新規事業者がMVNOとして,他業種を含めたさまざまな会社に回線を提供。携帯電話の電波の使用効率を上げることを計画しているのだ。イー・アクセスやアイピーモバイルはインターネット接続事業者などとの交渉を始めている。

 また,携帯電話網を一気に全国展開するのは難しい。このため新規事業者は,NTTドコモやボーダフォンなどの既存事業者をMVNOとして,回線を借りることを画策している。例えば,ソフトバンクの孫正義社長は2月10日の決算会見でボーダフォンから回線を借りることについて「あらゆる選択肢の可能性を否定するものではない。自前でインフラを作って,一部にMVNOを混ぜるやり方もあるだろう。今はすべての選択肢を検討している段階」と答えている(関連記事1)。

総務省が乗り出す振興策

 二つめは,通信事業の監督官庁である総務省がMVNOに本腰を入れ始めたから。これがMVNOを推進する強いエンジンとなっている。

 2005年11月下旬に業界団体のテレコムサービス協会がMVNOの振興について話し合う「MVNO協議会」を設立(関連記事2)。通信事業者やインテグレーター,機器メーカー,コンテンツ・プロバイダなどが集まった。これを総務省が強力に後押ししている。昨年末にはMVNOに前向きな事業者を集めてパネルディスカッションを展開(関連記事3)。イー・アクセス傘下のイー・モバイル(写真1)や,アイピーモバイル(写真2)が描くMVNOのビジネスモデルを披露した。

 さらに同時期に,総務省自身が描くMVNOのビジネスモデルや接続条件などの案を公表するなど,矢継ぎ早に展開している(関連記事4)。

 この一連の“積極的かつ迅速”な動きは今までの総務省のやり方とは明らかに違っている。従来は,有識者を総務大臣の諮問機関に集めて半年から1年間議論。その結果を政策に反映させるという形式を採っていた。

 これに対してMVNOでは総務省が業界団体と積極的に連携し,さらに自らビジネスモデルを作り上げて公表している。総務省の責任者は「現時点では携帯電話事業者の垂直統合型モデルはうまくいっているが,モバイルの新しいビジネスモデルを模索したい」(総合通信基盤局データ通信課の大橋秀行課長)と真剣なまなざしで語る。

多角化する携帯電話サービス

 では,総務省や新規事業者の思惑通りにMVNOの導入が成功したら,日本の通信業界に何が起こるのか。

 ルールが整備されMVNOに設備を貸す事業者が増えれば,欧米のヴァージンのように誰もが知るビッグネームが参入してくるだろう。自社ブランドの端末が登場するだけにはとどまらない。

 実際,総務省は「上位のコンテンツや異業種の産業も含め,多様化や市場の活性化を考えたい」(大橋課長)と,携帯電話の「次」を模索し始めたのだ。昨年末の会合で大橋課長はMVNOへの参入パターンとして,「付加価値を付けた法人顧客への対応」や「固定事業者の移動体への進出」,「放送サービスとの融合」,「ポータル運営など異業種による多角化」といった像を披露している(写真3)。

 例えば,携帯電話に専用のボタンを備えて,コンテンツの閲覧などプロバイダ専用のサービスを利用できる。テーマパークの運営会社やゲーム機のメーカー,放送事業者など,MVNOとして携帯電話事業に乗り出す企業の幅が広がる。MVNO先進国米国では,既に日本と異なるプレーヤーがMVNOとして登場し始めている。

 その一つがスポーツ情報を提供する米ESPN。携帯電話事業者の米スプリントと提携し,MVNOとしてESPNブランドの携帯電話「ESPNモバイル」を提供している。携帯電話にあるESPNの「Eボタン」を選択すれば,スポーツの試合結果や画像などESPNのコンテンツに即座にアクセス可能というものだ。

 大物も控えている。ESPNの親会社である娯楽大手ウォルト・ディズニー・グループも,ディズニー・ブランドの携帯電話を2006年に投入する計画だ。ディズニーという極めて強いブランドを武器に幅広いファン層を取り込み。ディズニーのコンテンツを携帯電話に配信するというビジネスモデルを描いている。

 このほか米国では,スペイン語を日常の生活語としているユーザーをターゲットにしたMVNOまで存在する。

様変わりする携帯電話業界の秩序

 欧米では,ブランド力や集客力が強い異業種がコンテンツやサービスなど自社のコア・ビジネスを広げる切り札としてMVNOを使っている。

 こうした状況をUBS証券株式調査部の乾牧夫マネージングディレクターは「コンテンツで儲けて,通信料金は無料にするMVNOが日本で出て来てもおかしくない」と見る。つまり,端末から回線,サービスまで垂直統合し通信料金で儲ける,という現在の携帯電話事業者のビジネスモデルが大きく揺さぶられることとなる。

 さらにMVNOは竹中平蔵総務大臣が掲げる「通信・放送融合」の推進役にもなりそうだ。放送事業者がMVNOで携帯電話事業に乗り出せば通信・放送融合が極めてシンプルに実現可能だ。地上デジタル放送のモバイル向け「ワンセグ放送」の正式開始も目前に迫っている。